三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「人間の境界」

2024年05月08日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「人間の境界」を観た。
映画『人間の境界』公式|5月3日(金・祝)公開

映画『人間の境界』公式|5月3日(金・祝)公開

映画『人間の境界』公式|5月3日(金・祝)公開

 脱北者を扱った2024年のドキュメンタリー映画「ビヨンド・ユートピア 脱北」で取り上げられた家族の脱北は、険しくて悲惨な道のりだと感じたが、本作品で扱われた難民の運命は、とてもその比ではない。悲惨というよりも、残酷だ。

 難民の事情もそれぞれ異なる。ダーイッシュ(イスラム国)に追われた人たち、タリバンから不当な弾圧を受けた人たちなどで、共通しているのは、家を奪われて住む場所がないということだ。女子供や老人も多く、体力もない。唯一頼りにしているのは、手助けしてくれる人との通信手段であるスマホだが、国境警備隊員の中には残忍な者がいて、カネを奪い、スマホを奪う。ときには命も奪う。
 警察官は人々の安全を守るのではなく、自分の地位と仕事を守る。権限を利用して、まるでいじめっ子のような振る舞いをする。汚職と腐敗に塗れているのは、どの国の警察官も同じという訳だ。
 難民を命懸けで助けようとする活動家たちも登場する。法的な闘いと、難民救出現場での闘いの二刀流で活躍するが、武器を持った国境警備隊と警察官に阻まれる。失敗は難民の死を意味する。

 本作品でふたりだけ、心情が描かれる人物が登場する。臨月が近い妻を持つ国境警備隊員と、活動家たちに加わる精神科医だ。警備隊員は自らの任務に疑問を覚え、精神科医は権力の理不尽に張り裂けそうになる。
 権力が民主主義から国家主義に振れて暴走した結果、国家規模の不条理を生み出し、権力に関わる個々の人間たちの利己主義がそれに加わる。しわ寄せは弱い人々に向かう。役人たちは弱い人々を苦しめている自覚もなく、ただ黙々と仕事をこなし、自分たちの立場と権益を守る。タリバン、ダーイッシュ、ルカシェンコ政権、プーチン政権、それに金正恩政権も、同じ構図である。かつてのナチスも同じ構図だった。平凡な役人たちが大量虐殺をやってのけたのだ。

 理不尽に声を上げる。おかしいことをおかしいと言う。それだけで弾圧される共同体が、世界にはまだたくさんある。むしろ増えていると言ってもいい。日本もそのひとつになりそうな気配がある。80年前に逆戻りだ。
 人類がとてつもなくおかしな方向に向かっていることを、たくさんの人々が知っていながら、個々の人間たちは、愚かな権力のもとで、自分の安全と利益だけを求めている。決して他人事ではない。

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