三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「不死身ラヴァーズ」

2024年05月12日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「不死身ラヴァーズ」を観た。
映画『不死身ラヴァーズ』オフィシャルサイト

映画『不死身ラヴァーズ』オフィシャルサイト

見上愛  佐藤寛太 落合モトキ 大関れいか 平井珠生 米良まさひろ 本折最強さとし 岩本晟夢 アダム 青木柚  前田敦子 神野三鈴 監督:松居大悟

映画『不死身ラヴァーズ』オフィシャルサイト

 松居大悟監督の作品では「ちょっと思い出しただけ」を最も高く評価した。恋の切なさに加えて、人生のやるせなさ、ほろ苦さも一緒に表現した、奥の深い作品である。「君が君で君だ」や「くれなずめ」などのオリジナル作品も系譜が同じで、青春の息づまる苦しさや、抑えきれない感情、それに孤独感を描いている。
 本作品は漫画が原作なのでニュアンスが少し違うが、人生を斜めから切り取って、その複雑な断面を見せてくれている。斜めからというのは、設定がフツーじゃないからだが、物語というのは現実を異化するものだから、どんな物語も多かれ少なかれ、設定は普通ではない。本質に迫るにはデフォルメが必要なのだ。

 主人公長谷部りのを演じた見上愛は、可愛く見えるときと極端にブスに見えるときがあって、当方が勝手に考えているいい女優の基準を満たしている。菊地凛子が主演した2023年の映画「658km、陽子の旅」では人懐こいヒッチハイカーの女の子を演じていて、それなりに味があった。
 本作品では、楽しいときは楽しく、悲しいときは悲しく、淋しいときは淋しく見える。多少大袈裟なのは松井監督らしい演出だろう。見上愛はよく応えている。

 それほど盛り上がる展開はないが、長谷部りの自身から世界がどのように見えているかを面白く描いていて、楽しく鑑賞できる。ラストでひっくり返す展開は、演出も演技も難しかったに違いないが、よくまとまっていた。

映画「フューチャー・ウォーズ」

2024年05月12日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「フューチャー・ウォーズ」を観た。
映画『フューチャー・ウォーズ』公式サイト|5月10日公開

映画『フューチャー・ウォーズ』公式サイト|5月10日公開

映画『フューチャー・ウォーズ』公式サイト|5月10日公開

https://klockworx-v.com/future/

 邦題の「フューチャー・ウォーズ」は未来の戦争みたいで、激しいアクションものを想像させるが、実際の中身はSFコメディである。原題の直訳を少しひねった「未来のお尋ね者」がよかったとおもう。
 流石に哲学の国フランスの映画で、ストーリーは思考実験みたいだ。タイムパラドックスという単語が一般名詞みたいに扱われるが、知らない人もいると思う。簡単な例を出すと、過去を悔いた人間がタイムマシンで過去に戻って自分を殺す。しかし過去の自分を殺したら現在の自分は存在しないから、殺せないことになる。そんな感じの矛盾がタイムパラドックスだ。SFではおなじみの言葉である。

 本作品の製作陣は、よほど原発が嫌いらしい。メイドインチャイナの原発が登場する。取扱説明書は広東語で書かれていて、中国の原発専門家は北京語しか理解できない。ちなみに広東語で「無問題」(モーマンタイ)は北京語(普通話)では「没問題」(メイウェンティ)と言う。ジャッキー・チェンが映画で話しているのは広東語だ。香港の言葉である。
 知り合いの中国人で北京や上海出身の人は、広東語はわからないと言う。しかし香港の人は北京語が理解できる。東京の人は訛のきつい方言が理解できないが、地方の人は東京弁が理解できるのと同じだ。北京語と広東語の違いを理解しているところをみると、製作陣は原発は嫌いだが、中国のことはさほど嫌いではないようだ。欧米で活躍する中国人はたいてい広東語を話すから、取説が広東語なのも頷ける。

 笑えるシーンが多い作品だが、人類の未来についてのさりげない、しかし真面目な示唆がふたつある。ひとつは、過去の人間のひとりの行動を変えても、悲惨な未来になるのは変わりがないということ。誰かが代わりに未来を壊す役割を果たす訳だ。未来を変えるには、社会構造やコンセンサスを変える必要がある。これはかなり重要な示唆だと思う。
 もうひとつは、ロボットについてだ。悲惨な未来に存在する人間は、すでに死んでいる存在である。つまりゾンビだ。ということは、健全に存在しているように見えるものは、人間ではないということである。未来では、機械が人類や地球を憂うのだ。このあたり、実にエスプリが効いている。

映画「トランスフュージョン」

2024年05月12日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「トランスフュージョン」を観た。
トランスフュージョン - 株式会社クロックワークス - THE KLOCKWORX

トランスフュージョン - 株式会社クロックワークス - THE KLOCKWORX

サム・ワーシントン主演最新作|観る者の魂を揺さぶるクライム・アクション

株式会社クロックワークス - THE KLOCKWORX

 オーストラリア映画というと2022年に日本公開された「ニトラム」を真っ先に思い出す。父親の放任主義と母親の権威主義によって精神が崩壊し、無差別乱射事件を起こしてしまった青年を描いた、実話ベースの作品だ。
 本作品でも、同じように家族関係の崩壊が描かれる。コミュニケーション障害の父親は、軍人として暴力に頼ってきた生き方から脱却できない。事故で生き残った負い目を覚えながら生きている息子は、思春期を上手く過ごせずにいる。
 軍隊時代の友人も、似たようなもので、家族関係が崩壊し、唯一の能力である暴力を使って生きている。つまり裏社会だ。そしてギャングたちが登場する。世界観の乏しいチンピラ連中だ。共感するところはひとつもない。

 そういう訳で、登場人物の誰にも感情移入できないまま、物語は進んでいく。アクション映画ではあるが、主人公と一緒になってピンチを乗り切るというのではなくて、オーストラリア社会の病巣を見せつけてきた感じだ。そういう意味では、能天気なハリウッドのヒーローものとは一線を画する。なんだか割り切れないまま終わるのも、悪くない。

 エンドロールが「主要登場人物」と「脇役」に分かれて流れていたのには驚いた。かつての個室俳優と大部屋俳優みたいな分け方みたいで、格差や階級を堂々と表示しているみたいだ。
 日本映画のエンドロールが「主演」と「助演」に分かれて流れることは先ずない。むしろ「友情出演」みたいな意味不明の肩書が出たりする。あちらこちらに忖度して八方美人を心がける日本と違って、実態をそのまま表現する訳だ。ある意味、大らかであり、爽快でもある。