ヒロシの日記

たくさんの人たちの幸福を願いつつ、常に自然な生き方を望む私の日記です。

カタルシス(その①)  <カテゴリー:絵本>

2010-09-03 07:55:19 | 絵本
■長い長い時間を供に生きてきた妻が死んだ

二人の青春時代は 戦争の真っ只中だった

少ない食べ物を分け合い 必死に生きてきた

平和な時代に子供を授かり 血筋の絶えないことに 幸せを感じた


妻への感謝は 言葉にならなかった



■自分の全てを受け入れてくれた妻が死んだ

自分が悲しい時は 傍にいて妻も悲しんだ

自分の怒りは 妻の怒りでもあった

喜びも二人で分かち合い 希望もそうだった

抱きたいときに妻を抱き お互いに背を向けているときは

自分の世界にいるときだけだった

妻への最期の言葉は


「ありがとう」だった



■いつまでも一緒にいる筈の妻が 幼子を残して死んだ

残された夫は いつでも子供の後ろに妻を見た

子供を育てながら いつも妻といることを思った

時がたち 彼は病院で年老いたその身を横たえていた

そしてその最期を 娘とその息子に看取られながら 


想い出の中の妻に「また逢えるね」と言った



■一生を誓う筈の恋人が死んだ

思い出は 美しいままだった

後悔は 鉛の塊を引きずるようだった

女友達は彼を避けるようになった

仲間も遊びに誘うことが無くなった

見えるものはモノクロになり 聞こえるものはただの音だった

そんな彼を心配して 昔からの知り合いがメールをくれた

慰めかと思ったら 遠慮会釈の無い言葉が並んでいた

彼は苦笑いをしながら携帯をしまうと 空に向かって


「もう君を忘れてもいいかい?」とつぶやいた



■世界の多くの人にその名前が知られている妻が死んだ

ニュースは200に近い国を駆け巡り 妻の夫はその妻の死で

自分の名前と素顔が 世界中に流れたことを知った

夫は 100回以上世界のメディアのインタビューを受けて 

妻との半世紀の暮らしについて語り 

繰り返し妻の業績と偉大さと 妻を支えてくれた 全ての人たちへの感謝を述べた

葬儀の前日 メディアも関係者も引き上げた安置所で 妻の棺に語りかけた言葉は


「やっと二人っきりになれたね」だった




■橋の下で浮浪者の女が死んだ

そばにいた男が その女の顔を抱いたまま大きな声で 

「あうっ」「おうっ」と泣き叫んだ


男のそれは 駆けつけた救急隊員に引き離されるまで続いた  
 


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