教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

17歳の事件に思う

2006年08月07日 | 子育て
【気を使う子どもは伸びる】
地域の少年スポーツを長年指導してこられた保護者の方との話で、こんな言葉が印象に残りました。「子どもたちが気を使わんようになった。気を使わない子は伸びない。」私の経験とも合致したその言葉に、随分と納得しました。

気を使いながら自分の練習課題を考える。気を使いながらチーム内で自分の役割を考える。好きで入ったスポーツチームやクラブ活動の中でさえ、気を使ったり、考えることが少なくなっています。気を使わないから、人に言われる。人に言われるから、やらされている気になる。やらされていると思うから、イヤイヤするようになる。イヤイヤするから、身につかないという悪循環に陥ります。

【与えられるだけの存在は人間をダメにする】
考えてみると、子どもたちが生活の中で気を使う場面がすごく減ったのではないでしょうか。子どもたちが、物も愛情も与えられるだけの存在になり、家族のために何かするということが、めっきり減ってしまったように思えます。与えられてばかりでは、子どもは人として成長しません。自分が何かをしてあげ、相手の喜んだ顔を見て自分も嬉しいと感じることが、大人になることだと私は思うのです。

【いつまでたっても大人になれない子ども】
5月の連休中に相次いで起きた少年による殺人事件の話です。殺人を犯した少年は、愛知県・佐賀県とも、地元で有名な進学校に通っていた少年の犯行でした。勉強さえできれば何とかなると考えていたら大変な結果を招きます。成績や点数は心の成長を表す物差しではないのです。それが証拠に有名大学出身者による「オウム事件」「スーパーフリー事件」など後を絶ちません。佐賀県の男の子は、父親がドライブに連れていってくれなくなったことで見捨てられたと思い、それが犯行のきっかけになったと報道されていました。警察の捜査途中の事件であり、しかも新聞発表の断片的な事実だけで結論を出すことはできません。しかしこの少年は、自分の家族に笑顔が戻るために自分は何をすればいいのか、考えてこなかったのではないでしょうか。

【子どもの心を殺さないために】
「母親とケンカした後たたまれた 洗濯物みて涙溢れる」高校2年生男子の作品です。たたまれた洗濯物をみてありがとうと思うのか、当たり前と思うのか、あるいは洗濯物がたたまれている事実にも気がつかないのか、この違いが大きいのです。与え過ぎることによって人の善意を感じる心を殺してはいけません。

大阪府立女性総合センターのカウンセラーをされている川喜田好恵さんは、朝日新聞(1998年9月8日)で次のように述べておられます。「日本の家族の場合…母親が家族の世話係として子どもだけでなく夫に対しても‶自動調整機能つきの愛情供給係″をしている。…夫や息子の甘えも空腹もイライラも疲れも腹立ちも、みんな同じように吸い取って自分の方で処理する。…男たちは自分で自分の感情に気づいたり、その処理をする必要もないのかもしれない。ヴィークというドイツの男性心理学者は『男という病』とう本の中で、‶息子はドラッグのように母親を求め、中毒のように頼っている自分をごまかすために母親を憎む″という」なかなか厳しい内容ですが、納得できる指摘です。

かつて不登校で家庭内暴力を続けている男子中学生がいました。学校に行けないストレスで朝になると母親を殴り、しかし寝る時は母親の布団に潜り込んで来る。朝になると学校に行けずにまた母親を殴る。この男子中学生の場合は、自分が母親から離れることのできない不甲斐なさへの苛立ちを母親を殴ることで誤魔化していたように思えます。

親が全てを先回りし、与えてばかりしていてはいけません。子どもはまわりの人へ何かを与える力を発揮することにより、自立する喜びを勝ち取っていかなければならないと思います。
東町中学校生徒指導部だより「千里馬」117号(2000年5月17日)