教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

学校事故;傘目に刺さり男子生徒重体~横浜・桐蔭学園

2008年04月27日 | 子どもの事件
横浜市青葉区鉄町、桐蔭学園(榊原滋理事長)は19日、高校の教室で同級生が振り回したビニール傘が男子生徒(16)の左目に刺さり、意識不明の重体になったと発表した。学園によると、18日午後3時50分ごろ、同校北棟の教室で、同級生の男子生徒(16)が野球のバットを素振りするようにビニール傘を振り回したところ、握っていた柄の部分から本体が抜け、近くにいた男子生徒の左目に突き刺さった。救急車で病院に運ばれ、脳挫傷と眼球損傷などのけがをし、意識がないという。事故当時は放課後で、教室には生徒が十数人いた。(4月19日『毎日新聞』より)

 小中学生の皆さんは廊下や運動場で傘(かさ)を振り回して遊んだ経験がないでしょうか。傘は金属バットのような重みがないため、危険性が分かりにくいものです。確かに金属バットで叩かれたら命の危険がありますが、傘で叩かれてもそんなに痛くはないでしょう。しかし傘の柄は、握る部分と本体とは別の部品からなり、少し力を入れたり振り回したりすると抜けてしまうことがあります。抜けて飛び出した傘は凶器です。報道された事故は、野球でも有名な神奈川県桐蔭学園高校で起こりました。傘が刺さった高校生の目は二度と見えることはありません。皆さんがこのような事故を起こさないため、絶対に傘を振り回さないようにしましょう。

一人暮らしの小学生

2007年10月19日 | 子どもの事件
インターネットを通じて知り合った小学6年の女児(12歳)を8日間にわたり自宅に連れ込んでいたとして、警察は10月13日に未成年者誘拐容疑で二十歳の男性を逮捕したと発表しました。携帯電話を利用したインターネット事件という面は気になりましたが、それよりもテレビ報道の中で「女の子は一人暮らしをしていたので家に帰りたくなかった」というコメントが流れたことが私の心に引っかかりました。その後「一人暮らし」という件について触れた報道に私は接していないため、詳しい事実については分かりません。「6ポケット」と言われ、至れり尽くせりの手厚い保護を受けている「豊かな」子どもが多くいるし、その親の保護=干渉がうっとおしいと感じる小中学生も少なくないと思います。しかしその一方で一人暮らしをしている小学生がいるという事実を深く受け止めなければなりません。

私が勤めた13年の間に一人暮らしをせざるをえなかった○中生は何人かいました。親の入院等の一時的な理由で一人暮らし(場合によっては兄弟二人暮らし)をした生徒については、学校や地域・行政の支援と、何よりも本人の努力で危機を乗り越えてきました。しかし親を失った生徒については、やむなく施設保護をしました。この事件の小学生が再び家庭を取り戻すことを願わずにはおられません。

大阪大学生の母親殺害を考える

2006年07月09日 | 子どもの事件
 教育相談とは「無縁」に思えるような記事が目立つ『かけはし』です。しかし奈良に続き、大阪府豊中市でも大学生が母親を殺すという事件が起こりました。この事件を目にし、私は卒業生から受けた相談を思い出しました。今回の事件を考えるヒントがあるように思えるのです。

 卒業して久しぶりに中学校を訪れたB君。進学校といわれる公立高校を卒業し、有名な国立大学工学部に入学したという話までは聞いていました。

【B君】大学に入学してから学校に行くのがいやになりました。やめたいのですが。

【相談員】大学には通っているの。

【B君】今は○○にあるイタリア料理のお店で働いています。3回生になりますが、大学には行っていません。

【相談員】大学が嫌になった理由は。

【B君】工学部で何を学ぶかを知らないまま、入試の偏差値だけで選びました。大学に入ってみると工学部の勉強にまったく興味が持てず、苦痛で仕方なくなりました。大学生活への夢が大きかっただけに、全く大学に行けなくなってしまいました。

【相談員】自分の興味関心とは違う内容だったら他の学部に転部することは考えてみては。僕たちの頃は教養部があったから、比較的転部はしやすかったと思います。友人のなかにも工学部→文学部、経済学部→法学大学院というのがいました。相談できる大学の先生はいないかな。

【B君】今は学部間の移動は難しいようですが、一度考えてみます。でも自分が何を学びたいのか、分かりません。

【相談員】それで、アルバイトに精を出しているわけかな。

【B君】アルバイト先は、チームワークがよくて、とてもやりがいを感じます。

【相談員】退学を決めるのは簡単だけど、じっくり勉強ができるという環境は、社会に出たら二度とありません。転部して学びたいという気持ちが本当にないのかもう一度考えてほしい。それに転部するのは難しいとは思いますが、どんな方法があるのかも、自分だけで判断せずに大学の先生と相談してほしいと思います。それでも大学をやめて勉強に頑張ったエネルギーを使って一流シェフを目指すなら、それも立派な進路だと思います。

【B君】わかりました。考えてみます。

 周囲から見ればうらやましいと思われる進路を選んだ子どもたちの中にも、深い悩みがあります。大学に合格した後、目標を見失ってしまう若者は、私たちの時代にもたくさんいました。しかし家族殺しという方向で「解決」しようとする傾向は、聞きませんでした。「殺さなければ独立できない」、それほど親(特に母親)への依存が強くなってきていることの現れではないでしょうか。

 今回の事件の学生と違い、B君は自分で悩み、相談し、さらに大学の外部ではありますが、自分の活動の場を見つけようとしていることに私は希望が持てました。B君のやりなおしが成功することを、心から応援しています。

奈良県放火殺人事件を考える

2006年06月26日 | 子どもの事件
【いきなり殺人…非行のステップを踏まない少年事件の増加】 
 「非行のステップ」という言葉があります。中学校の生徒指導では、遅刻数が増える→変形服を着用し頭髪を染める→喫煙する→夜遊びが重なる→暴力事件を起こすといった非行のステップを常に意識しながら指導を行なってきました。大きな事件が起きるまでには、様々なサインが子どもから発せられており、そのサインを見過ごさず対応していくことが生徒指導の基本となっていました。
 しかし長崎の同級生殺人事件をみてもわかるように、それまで何の非行もなかった子どもが急に殺人事件を起こしてしまうという事例が後を絶ちません。これは神戸の酒鬼薔薇連続殺人事件以降の大きな特徴です。尾木さんは少年事件の新しい傾向として①成績優秀な子どもが突然凶悪事件を起こす、②攻撃の矛先が身近な家族に向けられる、③少年たちの事件が残忍で異常であるにもかかわらず精神鑑定の結果は「正常」つまり「ふつうの子」という結論が下されていることをあげています。
 これは、「かけはし」NO5(4月18日発行)で、尾木直樹さんの著書『思春期の危機をどう見るか』を紹介したときの文章です。まるで今回の事件を見越したような文だったと、今読み返してみて改めて思うのです。

【新聞で語られた子どもたちと親たちの苦しみ】
 放火と殺人容疑で長男が逮捕されたことにより、断片的ではありますが、事件に至る状況が伝えられつつあります。「小学校でずっと成績がトップクラスだった長男は、中高一貫の難関私立中学校に入学。しかし思うように成績が伸びなかったという」「苦手な英語の試験の結果が思わしくなかったが、日頃から試験結果について厳しく言う父親に対して、まあまあできたとうそをついていた。母親が保護者会に出席すると自分のうそが明らかになってしまうことを恐れた」(朝日新聞6月24日朝刊)「信頼していた父から殴られ続けて恨むようにもなった。家族を殺そうと思っていた」(朝日新聞6月25日朝刊)などが新聞でも報道されています。
 24日の夕刊には、私立中高一貫学校で子どもを学ばせている保護者の不安が寄せられていました。神戸市内の自宅から京都有数の進学校に通わせている父親は、成績が返ってくるたびに息子との関係が悪くなっていると感じ「息子を医師にしたい」「医学部進学を押し付けてはいけない」という反する思いに揺れながら「とてもひとごととは思えない」と語っています。同じく中高一貫校で学ぶ娘を持つ母親は、成績上位者で編成する特設クラスに入れなかったことをきっかけに、娘が夜中に家を抜け出すようになったことを語っていました。

【国連が懸念する日本の教育】
 非行歴のない成績優秀な子どもが「突然」凶悪事件を起こすことは、予測不可能なことかもしれません。しかし個々のケースについては予測できなくても、日本の受験教育の歪みが無視できないところにまできていることは国連によっても指摘され、その改善を勧告されています。
 「日本の教育システムがあまりにも競争的であるため、子どもたちから遊ぶ時間や、からだを動かす時間や、ゆっくり休む時間を奪い、子どもたちが強いストレスを感じていること、それが子どもたちに発達上のゆがみを与え、子どものからだや精神の健康に悪影響を与えている」ため適切な処置をとること。(1998年6月5日勧告)
 「教育制度の過度に競争的な性質によって子どもの身体的および精神的健康に悪影響が生じ、かつ子どもが最大限可能なまで発達することが阻害されていること」「高等教育進学のための過度な競争のため、学校における公教育が、貧しい家庭出身の子どもには負担できない私的教育によって補完されなければならないこと」を改善すること。(2004年1月30日)
 発達上のゆがみを与え、子どものからだや精神の健康に悪影響を与えているという指摘は、今回の事件にも当てはまるのかもしれません。

【事件から学ぶべきもの】
 東京大学大学院工学系研究科の畑村洋太郎教授は『失敗学のすすめ』(講談社)の中で「1:29:300」のハインリッヒの法則を紹介しています。これは1つの人命にかかわる重大事故が起こる背景には、29件の負傷事故があり、29件の負傷事故が起こる背景には、300件のミスが起こっているという統計上の法則です。この法則を今回の事件に当てはめると、全国300の有名進学高等学校で、殺人事件につながる危機が存在しているということになります。昨年起こった静岡県タリウム殺人未遂事件も、山口県爆弾投げ込み事件も、県内で「トップクラス」と言われる高校で起こっているのです。
 OECD加盟国の学力調査で連続首位に位置するフィンランドの教育が注目されています。フィンランド政府は、その成功の理由を次のように説明しています。①生徒は近くの高校に通う。(ちなみに高校の規模は全校で250名)②教育は大学まで無償である。③選んで教育するのではなく、平等な総合教育である。④ひとり一人が向上するという方針に基づいて生徒を評価する。したがっていわゆる点数主義でもなく、ランキング付けもしない。⑤高い教員の資質、自主的な教員であることを基としている。⑥皆で社会を築いていこうという学習概念に拠っている。
 日本で言われる教育改革は、1990年代のアメリカの教育改革をモデルとしています。しかし私には、充分な実績を上げているフィンランドの教育も魅力多いと思うのです。

安全があってこそ楽しみがある…事故のない宿泊行事を 

2006年05月24日 | 子どもの事件
小・中学校ともに修学旅行や林間学舎などが間近になっています。班分けや部屋決め、バスでのレク検討などで、それぞれのクラスは盛り上がっていることと思います。そんな時に、修学旅行での事故のニュースが飛び込んできました。沖縄県波照間(はてるま)島に修学旅行中の高校生が高波にさらわれ、一人が亡くなり、さらにもう一人が行方不明となっているというニュースでした。海上を船やヘリコプターで捜索している様子がテレビで放送されていたのを、皆さんも見られたと思います。 

なぜこのような事故が起こったのか、原因は明らかではありません。報道では、砂浜で遊んでいたところ3人が沖に向かって進んでいき、100mほど離れたところで突然の高波にさらわれたとされています。付き添いの教員が、砂浜から海に入ってもいいという指示を出していたのか、それとも海に入ってはいけないという指示だったのか、教員は3人を制止しようとしたのか、それとも3人に気付かなかったのか、詳しいことは何一つわかりません。しかし知らない土地で「これぐらいは大丈夫」と思って行動すると、命を落とす事故につながるということを忘れてはいけません。人が暮らしやすいように開発された千里の街とは違うのです。体力のある高校生だって自分の命を守れなかったのです。自然を楽しみながらも、決して侮(あなど)ることのないよう気を引き締めて下さい。

岐阜県中学2年生殺害事件を考える

2006年04月25日 | 子どもの事件
13歳という若い命が犠牲となる事件が起こりました。容疑者として逮捕された人物は15歳の高校1年生。事件の詳細は不明ですが、私が気になったのは以下の4点です。

①殺害された場所が廃屋となっている建物であったこと②そこで会うことをあらかじめ携帯電話で約束していたこと③殺害したとされる相手が交際相手であったこと④殺害された少女はパソコンに詳しく自分のブログを持っていたこと、がそうです。

まず①の廃屋です。この東町中校区には廃屋はありませんが、建替えを前にして入居者が少なくなった集合住宅があります。24日に私と中学校の校長とで巡視をしてみましたが、今のところ気になる様子は見られませんでした。他にもエレベーター横の階段スペースや屋上への通路など、大人たちから死角となる空間は私たちの身近にあります。もしも気になる場所があれば、各学校にお知らせください。

 ②・④は、新しい情報通信機器の存在が、この事件にも関わりを見せていることです。携帯電話で連絡をとり夜中に度々家を抜け出していたこと。ブログに友人関係や家族関係の悩みを綴っており、その書き込みは事件当日まで続いていたことが報道されています。「家族がわかんない」「私がじゃまなんでしょ?だったらでていくよ。どぉしよう」と記述された心の揺れは、年上の少年への憧れを強める一因になっていたのかもしれません。

 ③の問題は、「かけはし」5号で紹介した「思春期の危機をどう見るか」の本の記述にもあるように、攻撃の矛先が身近な者に向けられる昨今の事件に共通したものです。奇しくも24日の新聞には、母の遺体を切断し埋めたという37歳男性の記事が載っていました。身近な関係が急激に壊れ、気がつくと敵対関係になっている、そんな状況が続いているのかと考えさせられました。

 これら4点を考えると、この事件は遠い中学校の事件だと私には思えないのです。

長崎・佐世保事件から1年を経て

2006年03月07日 | 子どもの事件
 神戸の「酒鬼薔薇事件」が学校現場に与えた以上に、佐世保の同級生殺害事件は大きな衝撃を与えました。事件の現場が学校の教室であったこと、仲良く見えた同級生の女子が加害者と被害者に分かれたこと、インターネット社会が小学生の中に深く進行していること、事件のどの切り口をとっても小学生の事件としては例のないものでした。

事件から1年がたつ今日、新聞各紙には、被害者の父親の手記が掲載されまた。「前触れなく娘の記憶が甦り、胃の中が熱くなるような感覚を覚えます」という思いで始まる手記を読むのは悲しく辛いものですが、社会や学校に託した願いが、そこに込められています。

父親は、なぜ彼女(加害者となってしまった少女を父親はこう呼んでいる)が娘を殺さねばならなかったのかを、さまざまな資料や専門家の意見に耳を傾けながら1年かけて探し出す辛い作業を行ってこられました。その結果として達した結論は、「分かりませんでした」というものでした。そして①自分と家族が生きることを最優先にしつつ②これからどう彼女と向き合うべきかに気持ちを切りかえたと書かれています。父親がわかり得なかった事件の真相を明らかにする作業は、社会と教育現場に託されたのです。

父親は「先生、学校、教育委員会へ」という項目の中で、第三者による調査システムを作り「学校や先生は何ができて、何ができなかったのかを究明すべき」と提起した上で、更に少人数学級・複数担任制・管理職と一般の先生・学校と親・学校と地域をキーワードとしてあげ、「改善すべき点があるなら、ほかでもない現場の先生たちが発現、提言するしかありません」と結んでおられます。上げられたキーワードは、そのすべてが東町3丁目小学校での教育活動にとっても重要な意味を持つものばかりです。『かけはし』も、このキーワードを大切にしながら、「子育てと教育」を考えていきたいと思います。(「かけはし」6月1日号より)


子育てを孤立させないことが大切~滋賀県長浜市園児殺害事件

2006年02月20日 | 子どもの事件
 まわりの子どもが敵に見える…殺害を実行した母親の犯行時の気持ちが報道されていた。わが子が幼稚園で仲間はずれにされているのではないか、この子たちと一緒にいると自分の子もだめになる、夜も寝られない、そんな気持ちに追い詰められ犯行に及んだと報道されています。孤立した子育ての中にいる母親のストレスが私にも伝わってきました。
 
 厚生労働省が行った子育てについての委託研究の中に1980年と2003年との比較調査を行ったものがあります。その数字をみると子どものことで誰とも話ができない親が10数%から30%台に倍増していることが明らかになりました。夫は仕事中心であてにならず、身近に子どものことを気軽に話せる人もいないのです。その結果子育てでイライラするという母親は16.5%(1980)から46.3%(2003)に急増しています。これは遠い国の話ではなく、今日本で子育ての真っ最中におられる保護者の共通の悩みだと思うのです。そう考えると私たちの町が例外であるはずがありません。自分の子どもを守るのは大切なことですが、わが子だけを守ろうとすると、他人が敵に思えるような恐ろしい袋小路に追い込まれることをこの事件は教えているように思えます。

 前号で私は自分の育ちを振り返り、「子どもは大人たちの善意の中で育てられなければならない」ことを強調しました。この○○小学校保護者の誰一人として子育てで孤立することがないよう、皆さんの心に『かけはし』を送り続けているつもりです。この『かけはし』には私に直通のメールアドレスを掲載しています。どんなことでも心配なことがあればお手紙でも、メールでも、もちろん電話でもご相談下さい。 

 今号は、大変重い二つの話題となりました。ほかにお伝えしたいこと、子どもたちの作文、学校行事の取り組みなど、たくさんあるのですが次号に回させていただきます。

 この冷たい雨が告別式会場にも降っていることと思います。合掌