教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

中学生の成績に影響、ケータイ所有と途中退部《神戸新聞2008年12月18日(木)11:24》

2008年12月20日 | 教育資料
 中学生で携帯電話を持っている生徒と部活動を途中で辞めた生徒は、ともに成績が下降する傾向にあることが、尼崎市教委による「学力・生活実態調査」で分かった。調査の結果を中学の3年間で経年比較して調べたといい、同市教委は「生活習慣が学力に大きく影響を及ぼす状況が分かった」としている。

 市教委は二〇〇四年度から小学五年、中学一、三年、〇七年度からは小学三-五年、中学二、三年を対象に同調査を実施。学力調査は小学三、四年が国語と算数、五年が理科と社会を加えた四教科、中学二、三年はさらに英語を加えた五教科。全生徒について小学生から中学三年まで追跡する形で、成績や生活態度の変化を把握することも狙いとしている。

 〇八年度の中三を対象にした調査で、市教委は「何らかの理由で成績が下がり、退部する者もいる」としながらも、部活を続けた生徒は中一時の平均偏差値五一・四が、中三時には五一・五に上昇。一方、部活を途中で辞めた生徒は、四九・九から四六・五に下がった。部活に入っていない生徒は就寝時間が遅く、朝食を食べないなど生活が不規則になる傾向も分かったという。

 携帯電話については、中三の71・4%が「持っている」と回答。持っていないと答えた生徒の平均偏差値が中一時五二・二から中三時五二・九に上昇しているのに対し、中三になってから持ち始めた生徒は、中一時五二・三から中三時五〇・九に下がっており、市教委は「携帯電話が確実に学習の妨げになっている」とした。

 市学力向上担当課は「学校や家庭での学習時間以外の過ごし方が学力に大きく影響する。家庭との連携を強めながら、対応を考えていきたい」としている。


平成19年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について

2008年11月21日 | 教育資料
 文部科学省では、児童生徒の問題行動等について、今後の生徒指導施策推進の参考とするため、標記調査を実施しています。今般、平成19年度の調査結果がまとまりましたので、公表いたします。

1.調査項目・調査対象
1)暴力行為(国公私立・小中高等学校)
2)いじめ(国公私立・小中高特別支援学校)
3)出席停止(公立・小中学校)
4)高等学校の不登校(国公私立・高等学校)
5)中途退学等(国公私立・高等学校)
6)自殺(国公私立・小中高等学校)
7)教育相談(都道府県、政令指定都市、市町村・教育委員会)
 小中学校不登校の調査結果は、本年8月7日(木曜日)、学校基本調査(速報)の調査結果公表と同日に公表しています。
2.調査結果の主な特徴
1)暴力行為の発生件数は約5万3千件と、小・中・高等学校のすべての学校種で過去最高の件数に上ること。
2)いじめの認知件数は約10万1千件と、前年度(約12万5千件)より約2万4千件減少しているが、依然として相当数に上ること。
3)高等学校における、不登校者数は約5万3千人(前年度約5万8千人)、中途退学者数は約7万3千人(前年度約7万7千人)と、近年、減少傾向にあるが、なお相当数に上ること。
4)自殺した児童生徒が置かれていた状況として、「いじめの問題」があったケースが5人(前年度6人)計上されていること。
3.調査結果の要旨
(1)暴力行為の状況(PDF:227KB)
暴力行為の発生件数は約5万3千件と、小・中・高等学校すべての学校種で、調査開始以来、過去最高の件数である。

暴力行為の発生件数は、小学校5,214件(前年度より1,411件増加)、中学校36,803件(前年度より6,239件増加)、高等学校10,739件(前年度より485件増加)の合計52,756件(前年度より8,135件増加)。
「対教師暴力」は6,959件(前年度より565件増加)。
「生徒間暴力」は28,396件(前年度より5,132件増加)。
「対人暴力」は1,683件(前年度より19件増加)。
「器物損壊」は15,718件(前年度より2,419件増加)。
暴力行為が発生した学校数について、
暴力行為が学校内で発生した学校数は8,204校(前年度より493校増加)で、全学校数に占める割合は21.0パーセント(前年度より1.4パーセント増加)。
学校外で暴力行為を起こした児童生徒が在籍する学校数は2,918校(前年度より62校増加)、全学校に占める割合は7.5パーセント(前年度より0.2パーセント増加)。
加害児童生徒数は56,424人(前年度より8,633人増加)。
加害児童生徒のうち学校が何らかの措置をとった児童生徒は、小学校で74人(前年度より8人増加)、中学校で1,612人(前年度より265人増加)、高等学校で10,975人(前年度より680人増加)。
加害児童生徒のうち関係機関により何らかの措置がとられた児童生徒は、小学校で182人(前年度より81人増加)、中学校で3,872人(前年度より305人増加)、高等学校で648人(前年度より107人減少)。
 なお、今回初めて調査した、加害児童生徒に対する学校の対応における「連携した機関等」では、「警察等の刑事司法機関と連携した対応」(「サポートチーム」の取組など)が最も多く、小学校で187人、中学校で4,219人、高等学校で755人。
(2)いじめの状況(PDF:240KB)
いじめの認知件数は約10万1千件と、前年度(約12万5千件)より約2万4千件減少しているが、依然として相当数に上る。

いじめの認知件数は、小学校48,896件(前年度より12,001件減少)、中学校43,505件(7,805件減少)、高等学校8,385件(前年度より3,922件減少)、特別支援学校341件(前年度より43件減少)の合計101,127件(前年度より23,771件減少)。
いじめの現在の状況で「解消しているもの」の件数の割合は79.7パーセント(前年度より1.2パーセント減少)。
いじめを認知した学校の割合は46.9パーセント(前年度より8.1パーセント減少)。
いじめの発見のきっかけは、
「本人からの訴え」は24.7パーセント(前年度より1.2パーセント増加)で最も多い。
「アンケート調査など学校の取組により発見」は22.7パーセント(前年度より0.8パーセント減少)。
いじめられた児童生徒の相談状況は「学級担任に相談」が69.2パーセント(前年度より2.8パーセント増加)で最も多い。
いじめの態様のうち携帯電話等を使ったいじめは5,899件(前年度より1,016件増加)で、いじめの認知件数に占める割合は5.8パーセント(前年度より1.9パーセント増加)。
いじめの日常的な実態把握のための学校の取組について、
「アンケート調査の実施」がいじめを認知した学校で74.6パーセント、いじめを認知していない学校で57.6パーセントの合計65.5パーセント(前年度より6.0パーセント減少)
「個人面談」がいじめを認知した学校で88.0パーセント、いじめを認知していない学校で70.3パーセントの合計78.6パーセント(前年度より0.8パーセント増加)
「家庭訪問」がいじめを認知した学校で61.6パーセント、いじめを認知していない学校で51.4パーセントの合計56.2パーセント(前年度より3.4パーセント増加)
(3)出席停止の状況(PDF:52KB)
出席停止の措置件数は40件で、前年度と比べて20件の減少である。

出席停止の措置件数は、小学校0件(前年度より2件減少)、中学校40件(前年度より18件減少)の合計40件(前年度より20件減少)。
いじめを理由とする出席停止の措置件数は2件(前年度0件)。
(4)高等学校の不登校の状況(PDF:209KB)
不登校生徒数は約5万3千人と、調査開始以来、減少傾向を示している。

高等学校における不登校生徒数は53,041人(前年度より4,503人減少)で、在籍者数に占める割合は1.56パーセント(前年度より0.09パーセント減少)。
不登校生徒のうち中途退学に至った者は19,774人(前年度より1,711人減少)。
不登校生徒のうち原級留置となった者は5,243人(前年度より460人減少)。
不登校状態が前年度より継続している者は20,672人(前年度より704人減少)。
不登校となったきっかけは「その他本人に関わる問題」が35.1パーセント(前年度より0.5パーセント増加)で最も多い。
不登校状態が継続している理由は「無気力」が27.3パーセント(前年度より0.8パーセント増加)で最も多い。
学校外の施設や機関等で相談・指導を受けた不登校生徒数は10,361人で不登校生徒数に占める割合は19.5パーセント。(今回はじめて調査)
(5)中途退学の状況(PDF:128KB)
中途退学者数は約7万3千人と、近年、減少傾向を示している。

中途退学者数は72,854人(前年度より4,173人減少)で、在籍者数に占める割合(以下、「中退率」という)は2.1パーセント(前年度より0.1パーセント減少)。
「学校生活・学業不適応」を事由とした中途退学者の割合は38.8パーセント(前年度より0.1パーセント減少)。
「進路変更」を事由とした中途退学者の割合は33.2パーセント(前年度より0.2パーセント減少)。
 懲戒による退学、原級留置、再入学、編入学について、
退学者は474人(前年度より45人増加)。
原級留置者は16,374人(前年度より1,312人減少)。
平成19年度以前に中途退学した者のうち再入学した者は923人(前年度より130人減少)。
平成19年度以前に中途退学した者のうち編入学した者は7,232人(前年度より70人減少)。
(6)自殺の状況(PDF:101KB)
自殺した児童生徒が置かれていた状況として、「いじめの問題」があったケースが5人(前年度6人)計上されている。

自殺した児童生徒数は、小学校3人(前年度より1人増)、中学校34人(前年度より7人減少)、高等学校121人(前年度より7人減)の合計158人(前年度より13人減少)。
自殺した児童生徒の状況において「いじめの問題」があった生徒は5人(前年度6人)。
(7)教育相談の状況(PDF:74KB)
都道府県・政令指定都市教育委員会、市町村教育委員会が所管する教育相談機関数は、いずれも減少しているが、教育相談件数はいずれも増加している。

都道府県・政令指定都市の教育委員会が所管する教育相談機関は174ヵ所(前年度より10ヵ所減少)。
相談員は1,758人(前年度より114人減少)。
教育相談件数は217,493件(前年度より4,075件増加)。
市町村(政令指定都市を除く)教育委員会が所管する教育相談機関は1,318ヵ所(前年度より150ヵ所減少)。
相談員は4,887人(前年度より49人増加)。
教育相談件数は783,019件(前年度より16,641件増加)。
[お問い合わせ先]
初等中等教育局児童生徒課
課長 磯谷 桂介(内線2385)
生徒指導室長 岸田 憲夫(内線2387)
電話:03-5253-4111(代表)

文部科学省ホームページより

(初等中等教育局児童生徒課)

全国学力調査に関する意見書②~日本弁護士連合会

2008年10月02日 | 教育資料
5 2007年実施の学力調査をめぐる状況
(1) 公表の状況
文部科学省は、各教科の学力調査の結果として、調査問題の趣旨・内容、できている点と課題のある点、指導改善のポイントを明らかにしたうえで、さらに、教科別の正答率・平均正答率、設問別の正答率などを、国全体と都道府県別に分けて公表する一方、各都道府県教委に対して、当該都道府県における公立学校全体に関する調査結果、設置管理する各学校に関する調査結果、域内の各市町村における公立学校全体に関する調査結果、域内の各市町村が設置する各学校に関する調査結果を提供した。また、各市町村教委に対しては、当該市町村における公立学校全体に関する調査結果、設置管理する各学校に関する調査結果を提供し、各学校に対しては、当該学校全体に関する調査結果、各学級に関する調査結果、各児童生徒1人1人に関する調査結果を提供した。文科省は、都道府県教委に対しては、域内の市町村や学校の状況について、個々の市町村名・学校名を明らかにした公表を行わないよう求め、市町村教委に対しても、域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表を行わないよう求めたが、市町村教委が当該市町村における公立学校全体の結果を公表すること、また、学校が自校の結果を公表することについては、それぞれの判断に委ねていた。これを受けて、全都道府県が、各市町村や各学校の結果を公表しない方針を明らかにしたが、各市町村の対応はさまざまであり、各教科や各設問についての市町村全体の平均正答率といった数値データまで含めて公表したところ(秋田市、仙台市、栃木県宇都宮市、同県矢板市、同県大田原市、さいたま市、東京都荒川区、川崎市、新潟市、富山市、金沢市、兵庫県西宮市、島根県出雲市、同県大田市、広島市、岡山市、福岡市、福岡県北九州市など)、市町村全体の傾向等を数値データを示さずに公表したところ、結果の公表を行っていないところ、に分かれている。なお、各市町村は、域内の各学校のデータについて公表していないが、中には、今後、結果の詳細な分析を行い、各学校別のデータをホームページ上で公表することを明らかにしている自治体もある(宇都宮市)。
(2) 情報公開制度を利用した学力調査結果の取得
わが国における情報公開条例の制定は、前記旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決以降であり、1982年4月に山形県金山町で施行されたのが初めてであったが、その後、全国の地方自治体に広がっている。2004年4月1日時点において、全47都道府県と全国3123市町村中2903市町村で情報公開条例が制定され、制定率は93.1%(都道府県100%、市99.7%、区100%、町92.9%、村83.9%)となっている。このような情報公開制度の全国的実施により、それぞれの市民が地方自治体の保有する情報にアクセスすることが容易になり、地方自治体が実施した学力調査の結果について情報公開請求するケースも出ており、裁判所の判断も示され始めている。
ア 盛岡地裁2007年8月17日判決
花巻市住民である原告が、条例に基づき、同市教育委員会が岩手県教育委員会の通知に基づき花巻市立の小中学校の生徒を対象にして実施した2006年度学習定着度状況調査に関する同市内の学校別明細の開示を請求したところ、花巻市教委から、条例所定の非開示情報が記録されていることを理由として、行政文書非開示決定処分を受けたため、処分の取消しを求めた事案である。裁判所は、① 仮に、本件条例に基づき本件文書が開示されることとなれば、学校及び教師が、自校の順位、点数を上げるため、試験直前に繰り返し前回の調査問題を児童生徒に解かせたりする一方、テストに出題されない分野については授業を疎かにするなど、過度のテスト対策に走るおそれを否定できず、そのため、児童生徒の普段どおりの学力、学習状況を把握して、それを分析し、指導の改善、学力向上を図っていくという、学調の本来の目的の実現を損なう可能性が危惧される。
② さらに、小規模学校や小規模学級において、学年別の各教科の平均正答率や、正答率により児童生徒をグループ分けした表が公開されることにより、個々の児童生徒の得点も容易に推測されてしまう可能性のみならず、クラスや学校の平均点を下げることにもなりかねない、知的障害児、発達障害児ないしテストの得意でない生徒等に対するいじめや差別を生み、これらの生徒の学習意欲を低下させる可能性なども否定することができない、として、原告の請求を棄却した。
イ 大阪高裁2007年1月31日判決
枚方市教育委員会が同市立小中学校の生徒を対象にして行った2003年度及び2004年度の各学力診断テストのうち、中学校実施部分に関し、被控訴人が、各年度の学力診断テストの学校別一覧に係る文書に記録された情報の公開の請求をしたところ、各中学校別の平均得点及び到達評価に係る情報は条例所定の非開示情報にあたるとして非公開とされたので、その取消を求めた事案である。裁判所は、原審と同様、情報の公開を命じた。控訴人(枚方市)は、①情報公開によって、各中学校の順位付けがなされ、生徒・保護者・市民等が成績順位のみをもって各中学校の評価することになる、②順位付けによって生徒が、劣等感(学習意欲の低下)・優越感等を抱くことになる、③保護者の教職員に対する要望、不相当な働きかけを行うこと等の圧力により、各中学校において意識的な学力テスト対策が行われ、本件学力テスト対象教科以外の教科を含めて、適切な教育課程を編成するという目的に反することになる、といった弊害を主張したが、判決は、学力テストの趣旨・目的が正しく理解されれば、そのような弊害は除去・減少されるなどとして、そのような主張を排斥した。生徒の優越感・劣等感については、本件学力テストを受験する中学生は、入学試験がなく、学校選択制も採用されていない枚方市立各中学校の生徒であり、受験した生徒は、本人及び市全体の各観点別評価等の分析結果の送付を受け、自己の成績及び市全体における自己の相対的な順位(位置)を既に知っていることに照らせば、本件情報が公開されたとしても、そのことによって、生徒が劣等感を抱いて学習意欲や通学意欲を低下させたり、行きすぎた優越感を抱くことになるとは考えにくいとも述べた。また、保護者が、情報公開の結果を踏まえ、各中学校に対し質問・要望を出したり、平均得点や到達評価が他の学校に比べて低い科目等に関しては、その教育内容の改善を求めるということも予想できるが、それは、本件学力テストの目的の一つが、同テスト結果を各中学校における教育課程や指導方法の改善に役立て、生徒の学力の向上を図ることであること、枚方市においては学校選択制を採用しておらず、保護者は自己の子が通う市立中学校を選べないことに照らせば、保護者が、中学校に対し、上記のような質問をし、意見を述べる機会を持つこと、そして、中学校がその意見も参考にして、教育課程や指導方法の改善を図ることは、本件学力テストの前記目的にそうものであって、決して反するものとはいえない、と判示している。
(3) 学校選択制の普及
文部科学省2004年11月現在の統計によると、進学予定の学校を複数の学校の中から選択することができる「学校選択制」を、小学校段階で導入しているのは全2576自治体中227自治体(8.8%)であり、そのうち、当該市町村内の全ての小学校から選択が可能な「自由選択制」を導入しているのは31自治体である。選択制の形態については、特定の学校について、通学区域に関係なく、域内のどこからでも就学を認める「特認校形式」が最も多く、74自治体である。まだ実施していないが実施を検討している自治体は150(5.8%)である。一方、中学校段階で学校選択制を導入しているのは、全1448自治体中161自治体(11.1%)であり、そのうち、当該市町村内の全ての中学校から選択が可能な「自由選択制」を導入しているのは45自治体である。選択制の形態については、特定の地域に居住する者について、学校選択を認める特定地域形式が最も多く、46自治体である。まだ実施していないが実施を検討している自治体は138(9.5%)である。
(4) 学力テストをめぐって不正行為等が行われた事例
ア 平均正答率等を学校別に公表している広島県三次市では、2005年度に同市の実施した学力調査において、①中学校の教務主任が、途中退席した生徒の答案用紙の未解答部分に答えを書き込むことによりこれを改ざんした、②小学校の校長が、受験した児童の約半数の答案用紙につき、誤答を正答に書き換える方法によりこれを改ざんし、正答率を上げていた、③ある学校では、テスト対策のため、前年度の調査で出題された問題と同一の問題による模試を事前に実施していた、などの事実が発覚し、調査結果を学校別に公表していることが上記不祥事を招いた一因ではないかとの保護者や住民、記者等の意見も、新聞等に多数掲載された(上記盛岡地裁判決が指摘している)。
イ 東京都は2004年2月に初めて学力テストを実施し、23区と市ごとの平均正答率を公表した。足立区は23区中最下位だったため、学力向上策の一環として直ちに学校ごとの成績を公表し、2005年度には独自のテストを始め、学校を成績順に並べて公表した。なお、足立区では2002年度から学校選択制が導入されている。報道によると、このような状況下で、東京都が、2005年1月、都内の公立小中学校を対象に学力テストを実施した際、足立区教育委員会(教育指導室長)が事前に区立小中学校111校の校長を集め、一部の問題(用紙)を配布していた。足立区では、その後、2006年1月と2007年1月に東京都が実施した学力テスト、2006年4月に区が実施した学力テストの合計3回にわたり、区立小学校1 校で、テスト中、教員が児童の誤った回答を指差し、正解を誘導するといった不正もあった。また、この小学校では、区が実施した学力テストの採点・集計から、障害のある児童の答案を本人や父母に無断で除外する、コピーが禁止されていた前年のテスト問題をコピーして練習させる、といった不正行為も行われていた。こうした行為の結果、2005年には区内72校中44位だったこの学校は、2006年には1位に躍進している(2007年には59位に転落)。なお、足立区では、学力テストの成績の前年度からの伸び率を加味し、学校予算の配分に差を付けるなど、「特色ある学校づくり予算」を導入し、全国でも、学校教育に競争原理を積極的に取り入れている自治体と位置付けられていたが、上記の学力テスト不正問題を受けて再発防止策を検討していた同区教育委員会の学力調査委員会は、テストの成績の伸び率に応じて学校予算を傾斜配分する仕組みについて「好ましくない」とする報告書案をまとめた。区教委は報告書を受け、予算傾斜配分の制度を1年で打ち切る方針であると伝えられている(朝日新聞・産経新聞)。
ウ 本件全国学力調査そのものをめぐっては、まず、広島県北広島町教育委員会が、事前に文科省がホームページ上で公開していた予備調査用の問題等を参考に、調査の直前に出題内容が類似した独自の問題集を作成し、これを4月初めに町立の全小中学校21校に配布し、小中学校長宛の文書にて、児童・生徒をして集中して一定の速さで問題を解くことに慣れさせること、時間配分や問題の解き方を児童・生徒に指導すること、を指示していたという事実が報じられている。教委は、問題集を解かせたページ数や正答率等を4日前までに報告するように要請し、各学校は、授業や宿題で問題集を解かせ、教委には全21校から報告があったという(朝日新聞)。また、京都府八幡市教育委員会は、2007年2月、各小中学校に、点数を上昇させるための取り組みを報告書にまとめ、提出するよう指示していた。同
教委は、事前に公表されていた予備調査用の問題を授業中に解かせたり、予想問題を作成して春休みの宿題にしたりといった具体例を例示し、これにならって、各学校は計画書を教委に提出したと報じられている(読売新聞)。

6 現在の具体的状況下において全国学力調査を実施することの問題性
4で述べたように、旭川学力テスト事件最高裁判決は、①試験問題の程度は全体として平易なものとし、特別の準備を要しないものとすることとされていたこと、②個々の学校、生徒、市町村、都道府県についての調査結果は公表しないこととされる等一定の配慮が加えられていたこと、③教育の自由な創意と工夫による教育活動を妨げる危険性についても、教師自身を含めた教育関係者、父母、その他社会一般の良識を前提とする限り、それが全国的に現実化し、教育の自由が阻害されることとなる可能性がそれほど強いとはいえないことを挙げて、旧教育基本法10条1項の「不当な支配」にあたるものとすることは相当でないと判断していた。しかし、5で述べてきたように、現代の学力調査の内容やそれを巡る時代背景は、前記判決当時のそれとは明らかに異なっている。①試験問題については、それが良問であるか否かはさておき、とりわけ、「活用」に関する問題については記述式のものも含まれ、正答するためには一定の対策が必要であるとの指摘がなされている。②公表の問題については、現時点において、まず、文部科学省は、都道府県ごとの結果を公表しているし、市町村も、域内の小中学校の平均正答率等を公表する自治体が出てきている。中には、学校ごとの結果を公表することを予定している自治体もある。このように、公表するかどうかは、基本的に、各地方自治体の判断に委ねられており、対応はまちまちである。一方、学力テストの結果についての情報公開請求に対して、行政の非開示の判断が誤りであるとしてこれを覆した司法の判断が高裁レベルでなされ(前記大阪高裁2007年1月31日判決)、確定している。③については、学力調査の結果が公表され、かつ、学校選択制を採用する自治体が拡大してゆく中で、教師、父母、社会一般の良識に期待すると言っても、絵空事でしかなく、現に、本件の全国学力調査以前の各地の学力テストを巡って、テストで高得点を獲得するためのテスト対策に走らざるを得ない、解答の正誤を改ざんする、障害のある児童を受験させない、といった弊害事例が発生している。都道府県学力テストの結果の開示を命じた前記大阪高裁判決は、結論的には、情報公開によって、生徒が劣等感を抱いて学習意欲や通学意欲を低下させたり、行きすぎた優越感を抱くことになるとは考えにくいと述べて枚方市の主張を排斥したが、その理由付けの1つとして、当該学力テストを受験する中学生は、入学試験がなく、学校選択制も採用されていない枚方市立各中学校の生徒であるとの点が指摘されていることに留意すべきである。以上のように、学力調査の問題に正答するためには一定の対策が必要とされていること、学力調査の結果が都道府県別では公表され、市町村レベルでも公表する自治体が出てきていること、情報公開制度が普及し、この制度を利用することによって学力調査の結果を取得する道が開けてきていること、学校選択制を採用する市区町村もあること、各地の学力テストを巡って子どもの学習権を侵害するような弊害事例が発生していること等から考えると、現時点における全国学力調査の実施は、旭川学力テスト事件の当時とは異なり、学校現場におけるテスト成績重視の風潮、過度の競争を招来し、そのために、教師が真に自由で創造的な教育活動をなし得ず、かつ、子どもの立場から見ても、子どもたち全体が競争原理の中に組み込まれるほか、障害のある子どもに対する差別を招来するなど、一人ひとりの個性に応じた弾力的な教育を受ける権利を侵害されるおそれが大きいというべきである。

7 全国学力調査を毎年継続して実施することの問題性
文科省は、全国学力調査を毎年同じ時期に継続して実施する方針を当初より打ち出しているが、この点は、旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決が懸念した状況をより深刻化させることになることに留意すべきである。文科省は、「平成20年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」を発表したが、その中の「調査の目的」を平成19年度の実施要領のそれと比較すると、新たに付加されているものがある。平成19年度の実施要領では、「各教育委員会、学校等が、全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図る」とされていたが、これに加えて「そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。」とされた。また、「各学校が、
各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる。」との目的も付加された。教育委員会、学校は、文科省が実施する毎年の学力調査の結果をもって自らの教育・教育施策の成果を把握し、改善に努めなければならなくなり、現場で教育に携わる教師は、教育委員会、学校の指導のもと、学力調査においてより高得点にするための対策をとらざるを得なくなる。これに加えて、学力調査の結果が都道府県単位で、あるいはさらに市町村単位で公表されることが一般化すれば、教育現場が、全国的に成績重視の競争原理の中に組み込まれてしまうことは必至というほかない。

8 まとめ
当連合会は、文部科学省が、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力を把握・分析するために何らかの学力調査を行う必要性そのものを否定するものではない。しかしながら、文部科学省が小学校第6学年、中学校第3学年の全児童生徒を対象として、いわゆる悉皆調査として2007年4月に実施し、かつ、今後も実施しようとしている全国学力調査は、以上述べたような、問題の難易度、結果の公表、情報公開制度、毎年実施の継続性等を前提とするのであれば、教育現場における成績重視の風潮、過度な競争を招来し、教師の自由で創造的な教育活動を妨げ、文部科学大臣の教育に対する「不当な支配」(教育基本法16条1項)に該当する違法の疑いが強い。また、子どもの立場からすれば、子どもたち全体が学校現場における過度の競争にさらされ、継続的な肉体的・精神的負荷を抱え込み、全人格的な発達を阻害されるばかりか、障害のある子どもは差別を受けるなど、一人ひとりの個性に応じた弾力的な教育を受ける権利を侵害されるおそれが大きい。このような事態は、全国学力調査が必要であると考えたとしても、正当化することができないものである。ところで、学力調査の方法としては、全国一斉の悉皆調査は一般的なものではなく、我が国も参加したPISA(OECD生徒の学習到達度調査)、TIMSS(国際教育到達度評価学会(IEA)による国際数学・理科教育動向調査)などは、調査対象とする学校及び児童・生徒を抽出する、いわゆるサンプル調査であり、また、米国において全米規模で定期的に行われている学力調査(NAEP)もサンプル調査である。このような方法による学力調査であれば、上記のような問題点も解消され得るものと考えられる。よって、当連合会は、2008年以降において、全国学力調査を、2007年と同様の方法による、いわゆる悉皆調査として実施することに反対するとともに、学力調査の方法につき、調査対象とする学校及び児童生徒を抽出する方法によるいわゆるサンプル調査とするなど、上記のような問題が解消されるような方法に改めることを求めるものである。
以 上__

全国学力調査に関する意見書①~日本弁護士連合会

2008年10月01日 | 教育資料
全国学力調査に関する意見書 2008年2月15日
日本弁護士連合会
意 見 の 趣 旨
文部科学省が小学校第6学年、中学校第3学年の全児童生徒を対象として、いわゆる悉皆調査として2007年4月24日に実施し、かつ、2008年以降も継続的に実施しようとしている全国学力調査は学校教育現場にテスト成績重視の風潮、過度の競争をもたらし、教師の自由で創造的な教育活動を妨げ、文部科学大臣の教育に対する「不当な支配」(教育基本法16条1項)に該当する違法の疑いが強い。
また、このような事態は、子どもの全人格的な発達を阻害するほか、障害のある子どもに対する差別を招くなど、子ども一人ひとりの個性に応じた弾力的な教育を受ける権利を侵害するおそれが大きい。よって、当連合会は、2008年以降において、全国学力調査を、2007年と同様の方法によるいわゆる悉皆調査として実施することに反対するとともに、学力調査の方法につき、調査対象とする学校及び児童生徒を抽出する方法によるいわゆるサンプル調査とするなど、上記のような問題が解消されるような方法に改められるよう求める。

意 見 の 理 由
1 全国学力調査の実施と結果公表
文部科学省は、2007年4月24日、小学校第6学年、中学校第3学年の全児童生徒を対象として、全国学力・学習状況調査を実施した。同調査の内容は、教科に関する調査と生活習慣や学習環境等に関する質問紙調査に分けられるが、そのうち、教科に関する調査は、国語、算数(数学)について、それぞれ、主として「知識」に関する問題と、主として「活用」に関する問題を出題(記述式も一定割合で導入)するものであった。文部科学省は、調査目的について、「全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」「各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図る」という点を挙げており、その目的実現のため、教育委員会、学校等に対して、それぞれの役割と責任に応じ、教育施策や教育活動の改善に必要な調査結果の資料を提供するとしていた。そして、文部科学省は、同年10月24日、全国学力・学習状況調査の結果を、国全体と都道府県別に分けて公表するとともに、同じ頃、各都道府県教委、各市町村教委、各学校に対し、調査結果を提供した。文部科学省は、都道府県教委・市町村教委に対しては、個々の市町村名、学校名等を明らかにした公表を行わないよう求めたが、市町村教委や学校が自ら結果公表するか否かについては、それぞれの判断に委ねた。なお、文部科学省は、同調査を毎年継続して、原則として4月の第4火曜日に実施するとしており、2008年は4月22日に実施することを決定している。

2 学力調査実施についての問題の所在
(1) 旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決の射程からみた問題
文部科学省は、全国学力・学習状況調査について、学力や学習状況等の状況をきめ細かく把握し、教育施策や指導の改善につなげるための調査であり、序列化や過度の競争をあおるものではないと当初より述べていた。しかし、文部科学省がわざわざそのように述べる理由は、まさにこのような調査の実施が序列化や過度の競争をあおる危険性を孕んでいるからに他ならない。旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決(1976年5月21日)も、結論的には、全国学力調査の方法が違法であるとは判断しなかったものの、判決の理由中において、「…調査の実施によって、…中学校内の各クラス間、各中学校間、更には市町村又は都道府県間における試験成績の比較が行われ、それがはねかえってこれらのものの間の成績競争の風潮を生み、教育上必ずしも好ましくない状況をもたら」すおそれがあるとの懸念を表明していたことに留意すべきである。すなわち、上記最高裁大法廷判決は、全国学力調査の必要性を是認してはいるものの、これを手放しで歓迎するというものではなかった。上記判決は、全国学力調査が、その一面において文部大臣(当時)が直接教育そのものに介入するという要素を含み、また、調査の必要性をもってしては正当化することができないほどに教育に対して大きな影響力を及ぼし、これらの点において「不当な支配」(旧教育基本法10条1項)となる可能性に一定の懸念を表明しつつ、しかしな
がら、後述のとおり、試験問題の程度や調査結果の非公表など、当時の具体的状況を踏まえるならば「不当な支配」にはあたらないと述べて、全国学力調査という方法の違法性を否定したのである。したがって、全国学力・学習状況調査の実施が上記最高裁大法廷判決によって当然に許容されているものではない。現時点における学校教育をとりまく環境は、当時のそれとは大きく異なっている。後に述べるように、調査結果は都道府県別に数値データも含めて公表され、自ら数値データを公表する市町村も出てきている。また、情報公開制度が普及し、地域の住民が調査結果を容易に取得することができる状況にある。このような状況の変化によって、教育現場に学力テストの成績を重視する風潮が広がり、過度の競争がもたらされるおそれは飛躍的に増大しているのではないか、そして、教育現場における過度の競争は、教育現場から自由で創造的な教育実践を失わせてしまうのではないか、との懸念を生じさせるのである。そこで、2007年4月に新たに実施され、かつ、今後も継続することが予定されている全国学力・学習状況調査が、上記最高裁大法廷判決の枠組みの中で許容されるかどうかについて、現時点における学校教育をめぐる具体的状況を踏まえ、改めて、慎重に検討する必要が出てくる(なお、以下においては、全国学力・学習状況調査のうち、上記最高裁判決によって一定の判断が示されている学力調査に限定して述べることとする。)
(2) 子どもの権利保障の観点からの問題
次に、全国学力調査の実施が、直接的に子どもの権利を侵害するおそれがあるのではないかとの懸念にも言及しておかなければならない。子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有し(憲法26条、旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決)、そのような子どもの学習権に対応して、子どもの教育は、子どもの人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させることを指向すべきものとされている(子どもの権利条約29条1項(a))。子どもの教育が指向すべきものが上記のようなものであることから、子どもの教育は、現場の教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ、子どもの個性に応じて弾力的に行わなければならず、そこに教師の自由な創意と工夫の余地が要請されることになる。しかし、上記のとおり、全国学力調査の実施によって、教育現場に学力テスト成績重視の風潮がもたらされると、教師は自由な創意・工夫どころか、テスト成績向上のために自己の力を傾注し、その結果、子どもたちはますます成績重視の競争原理の中に組み込まれ、多大なるストレスを抱え込むことになってしまうおそれがある。国連子どもの権利委員会(CRC)は、我が国の「教育制度が過度に競争的であるため、子どもの肉体的精神的健康に悪影響を与え、子どもの能力を全面的に発達させることを阻害していること」に懸念を表明し、「学校制度の競争を緩和するようカリキュラムを見直す」よう勧告しているが(2004年2月第2回政府報告書審査に基づくCRC最終見解)、全国学力調査の実施は、このようなCRCが問題視した状況を改善するどころか、より悪化させる方向に向かわせてしまうのである。また、各地の学力テストにおいては、現に点数を上げるために障害のある子どもを受験させないといった、障害のある子どもを地域の学校から排除し、差別を招来するような、明らかな権利侵害事例が現に発生している。したがって、全国学力調査については、子どもの権利保障という観点から問題がないかという観点をも踏まえつつ、その問題性につき慎重な検討が必要である。

3 改正教育基本法下における旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決
ところで、2006年12月15日、教育基本法が改正され、旧教育基本法10条の1項の「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」との規定が、新教育基本法16条1項の「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正に行われなければならない。」との規定に改められた。このような改正を受けて、旧法10条1項について示された上記最高裁大法廷判決の解釈が新法16条1項のもとでも妥当するのかということが一応問題とはなり得るが、教育基本法の改正に関する国会審議の中において、旧法10条1項に関する上記判決の解釈は新法16条の下でも変更はないとの政府答弁がなされていること(例えば、2006年11月24日、同年12月5日の参議院教育基本法特別委員会)は、当連合会が、2007年6月14日付の教育関係3法「改正」法案に関する意見書で指摘したとおりである。したがって、2007年に実施され、かつ今後も継続的に実施されようとしている全国学力調査の方法が、新教育基本法16条1項の「不当な支配」という観点から問題がないか否かを解釈するにあたっては、旧法10条1項に関する上記最高裁大法廷判決の視点から検証することが求められるのである。

4 旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決が示した全国学力調査実施の懸念
旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決は、「学力調査の方法としては、結局試験によってその結果をみるよりほかにはないのであるから、文部大臣が全国の中学校の生徒の学力をできるだけ正確かつ客観的に把握するためには、全国の中学校の生徒に対し同一試験問題によって同一調査日に同一時間割で一せいに試験を行うことが必要であると考えたとしても、決して不合理とはいえない」と述べつつ、しかし、このような方法による調査が、「その一面において文部大臣が直接教育そのものに介入するという要素を含み、また、…調査の必要性によっては正当化することができないほどに教育に対して大きな影響力を及ぼし、これらの点において文部大臣の教育に対する『不当な支配』となるものではないか」という問題があることを指摘している。そして、上記最高裁判決は、原判決(札幌高裁1968年6月26日判決)が、「不当な支配」にあたる理由の1つとして「前記の方法による調査を全国の中学校のすべての生徒を対象として実施することは、これらの学校における日常の教育活動を試験問題作成者である文部省の定めた学習指導要領に盛られている方針ないしは意向に沿って行わせる傾向をもたらし、教師の自由な創意と工夫による教育活動を妨げる一般的危険性をもつものであり、現に一部においてそれが現実化しているという現象がみられる」と指摘したことに対して答える形で、「…調査の実施によって、…中学校内の各クラス間、各中学校間、更には市町村又は都道府県間における試験成績の比較が行われ、それがはねかえってこれらのものの間の成績競争の風潮を生み、教育上必ずしも好ましくない状況をもたらし、また、教師の真に自由で創造的な教育活動を畏縮させるおそれが絶無であるとはいえず、教育政策上はたして適当な措置であるかどうかについては問題がありう」ると述べている。最高裁判決は、結論的には、①試験問題の程度は全体として平易なものとし、特別の準備を要しないものとすることとされていたこと、②個々の学校、生徒、市町村、都道府県についての調査結果は公表しないこととされる等一定の配慮が加えられていたこと、③教育の自由な創意と工夫による教育活動を妨げる危険性についても、教師自身を含めた教育関係者、父母、その他社会一般の良識を前提とする限り、それが全国的に現実化し、教育の自由が阻害されることとなる可能性がそれほど強いとはいえないこと(原判決の挙げている一部の県における事例は、むしろ例外的現象とみるべき)等を考慮して、法的見地からは、本件学力調査を目して、前記目的のための必要性をもってしては正当化することができないほどの教育に対する強い影響力、支配力をもち旧教育基本法10条1項の「不当な支配」にあたるものとすることは相当でないと判断した。しかし、これを逆に言えば、まさに①ないし③に書かれたような事情に変化が生じた場合は、全国学力調査の実施が「不当な支配」にあたる場合がある、と述べているのに等しい。したがって、①ないし③のような、全国学力調査の内容やこれをめぐる具体的状況等を慎重に検討することが必要になるのである。


全国学力テスト/一律の実施は必要なのか

2008年04月26日 | 教育資料
 神戸新聞
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2006/05/12

 小中学生を対象にした大掛かりな全国学力テストが二〇〇七年度から実施される。
 文部科学省によれば、対象は小学六年と中学三年の全員で、国語と算数(数学)の二教科に絞って行う。
 全国学力テストは、一九五〇年代から六〇年代にかけて行われたことがあるが、学校間競争が過熱し、批判が高まったことから中止された。近年は、数年に一回程度、地域や学校を一部抽出する形で実施し、学校ごとの結果分析なども控えている。
 最近、学力低下を指摘する声が高まってきた。要因として「ゆとり教育」をやり玉に挙げる向きもある。今回、文科省は学習到達度の把握を目的に全国テスト復活を決めた。しかし、学校間競争や序列化の懸念から反対論も多く、愛知県犬山市のように不参加を表明する自治体も現れている。
 先ごろ文科省の専門家会議がまとめた報告では、国が行う結果公表は、都道府県単位にとどめるとされた。無用な学校間競争などを避けるためには当然の配慮だ。
 ただ、市町村や学校が自ら結果を公表することは「それぞれの判断に委ねる」としている。これでは、国がレールを敷いておいて、最終責任を地方に丸投げすることにならないか。
 全員対象の学力調査の必要性についても疑問が残る。学習上の問題点や課題傾向を把握するなら、すでに国が実施している抽出方式で十分だし、児童・生徒それぞれのつまずき解消なら、学校ごとの試験やクラス内指導にこそ力を入れるべきだろう。
 自治体レベルでの学力調査が、さまざまな形で実施されていることも忘れてはなるまい。兵庫県教委は昨年度、文科省が実施した学力テストと同じ問題を使って全県基礎学力調査を実施した。神戸市を除く公立の小学五、六年と中学一、二年から、受験者を抽出して行った。学校単位の結果公表は控え、地域間などの要素で分析した。
 このように、既存のテストで十分に対応できる。強制力を伴う全国テストは教育現場の負担も大きい。国が多額の費用をかけてまで行う意味がどれほどあるだろう。
 犬山市の不参加理由にも傾聴すべき点が多々ある。地方分権の時代に国が押し付ける「○×式」の画一的な試験は受け入れがたいという。「自ら学ぶ力」をはぐくむ教育を掲げ、小人数学級を推進して注目された犬山方式の精神に反するともいう。
 全国一律のテストは、またぞろ「知育偏重」「試験至上主義」を助長しかねないのではないか。屋上屋を架すようなテストの実施には、さらに熟考が必要だ。
社説(2006年5月19日朝刊)沖縄タイムス
[全国学力テスト]
序列化の懸念が消えない
 かつて競争の過熱が問題となった全国学力テストが四十数年ぶりに復活する。
 前文部科学相が「競争意識を持たせよう」と提起したのがきっかけで、同省の専門家会議が審議を重ねてきた。背景にあるのは学力低下批判だ。
 来年四月実施が明らかになったテストは小学六年と中学三年の全員を対象とし、国語と算数(数学)の二教科で学力を測る。結果の公表は都道府県単位にとどめるが、市町村や学校が自らの判断で公表することは拒まない。
 専門家会議は、その目的を国の教育施策の検証と教育委員会、学校の指導改善としている。子どもの学習の到達度を把握することで、教育施策の改善に結び付けるほか、学校が自校を評価する際、指標の一つにしたい考えだ。
 すべての子どもに確かな学力を保障することが教育の役割であり、つまずきを知るためのデータとしてテストが有用であることは否定しない。
 しかし競争をあおる懸念が消えない。
 四十年余り前、全国の中学で実施されたテストは、試験当日に成績の悪い生徒を休ませるなど、過度の競争という「負の遺産」を残した。
 当時と比べ、学校や教師に対する視線が厳しい今、保護者が結果の公表を求めるのは必至だ。学校選択制が広がる中、その結果が学校選びに反映されるのは自然の流れである。さらに数字が独り歩きすれば、地域や学校のランク付けにつながる恐れもある。
 教育施策の検証が、必ずしも全員対象の調査である必要はなく、既に実施しているサンプル調査で十分ではないか。子どもの学習到達度の把握も、日々の指導の中で行われるべきものだ。
 競争により活気が出て意欲が高まればいいが、点数至上主義への逆戻りは意欲を削ぐことになりかねない。
 テストで測定できるのは、子どもの力のほんの一部にすぎない。表現力や思考力、生きる力といった、測りにくいが必要な力にこそ関心を向けるべきだ。





旭川学力テスト事件大法廷判決からみた学力テストの問題点

2008年04月25日 | 教育資料
全国いっせい学力調査と個人情報保護をめぐる法的問題 Ⅱ
平成19年4月18日
全教弁護団

2007-04-18 00:00:00

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当弁護団は、本年実施される全国学力テストが、個人情報保護法等の個人情報保護の立場からみて重大な疑念のあることを明らかにしてきた。本稿では、あらためて、全国学力テストについて、旭川学力テスト事件大法廷判決からみても、個人情報保護法上、極めて大きな問題を孕むものであることを指摘する。

1 遵守されるべき旭川学力テスト事件大法廷判決
全国学力テストに関しては、昭和51年5月21日、旭川学力テスト事件大法廷判決がある。この判決は、文部省(当時)の企画等と教育委員会の実施行為とを区別して、後者の行為を合法とした。結果として学力テストの実施を認めることとなり、その論理には十分な説得力はなく、批判されなければならない内容となっている。しかしながら、当時の文部省の関与について違法と結論したこと、そのことは、今回の学力テストの実施にあたって、重要な指針とされる意義を有している。

すなわち判決は、当時の文部省が、学力テストを企画、立案し、実施を要求することにつき、次のとおり違法と判断している。

「 地教行法54条2項が、同法53条との対比上、文部大臣において本件学力調査のような調査の実施を要求する権限までをも認めたものと解し難い」

「 文部大臣は、地教行法54条2項によっては地教委に対し本件学力調査の実施をその義務として要求することができないことは、さきに三において述べたとおりであり、このような要求をすることが教育に関する地方自治の原則に反することは、これを否定することができない。」

今回の学力テストについて、文科省は、全教との交渉の場で、平成19年4月12日、この旭川学力テスト事件大法廷判決を遵守すると表明している。文科省は、遵守の内容として、学力テストに参加するかどうか、各地の教育委員会の判断に委ねられているとしている。

ところで、学力テストの実施の有無が、各教育委員会の自主的判断に委ねられているとすることは、それ自体は重要なことである。しかしながら、旭川学力テスト事件大法廷判決は、参加するかどうか、各地の教育委員会の判断に委ねられている場合、その実施が全て合法化されるといった簡単な内容ではないことが指摘されなければならない。本件学力テストの実施にあたって、旭川学力テスト事件大法廷判決からみて違反することがないかどうか、文科省が遵守すると表明している立場からみて、十分な検証が必要とされる。中でも、新しく浮かび上がった問題として、個人情報保護法が制定されて、個人情報の保護が法益として認められた現在において、旭川学力テスト事件大法廷判決と個人情報保護との整合性につき、新たに検討される必要があるのである。

2 大法廷判決の意味する内容
(1) 同判決は、学力テストにつき、教育法制に沿って十分に検証されなければならないとして、その学力テストの全体像において検討されなければならないとしている。

「 原判決は、本件学力調査は、その目的及び経緯に照らし、全体として文部大臣を実質上の主体とする調査であり、市町村教委の実施行為はその一環をなすものにすぎず、したがってその実質上の適否は、右の全体としての調査との関連において判断されなければならないとし、文部大臣の右調査は、教基法10条を初めとする現行教育法秩序に違反する実質的違法性をもち、ひいては旭川市教委による調査実施行為も違法であることを免れない、と断じている。本件学力調査は文部大臣において企画、立案し、その要求に応じて実施されたものであり、したがって、当裁判所も、右調査実施行為の実質上の適法性、特に教基法10条との関係におけるそれは、右の全体としての調査との関連において検討、判断されるべきものとする原判決の見解は、これを支持すべきものと考える。」
判決は、結論としては、文部省の違法な企画、立案、要求と、各教育委員会の実施行為とを区別して、各教育委員会自体が学力テストを実施することは違法ではないとした。しかし、この判旨にあるとおり、全国学力テストが、「文部大臣において企画、立案し、その要求に応じて実施され」ることは、「教育に関する地方自治の原則に反すること」としたのである。そうであるならば、教育委員会の判断の自主性がそこなわれるかどうか、そのことは調査全体の違法にかかわる問題となる。また、全国学力テストに参加するかどうか、その判断が形式的なもので、実質的に判断されていない状況にある場合には、そのような企画・立案・要求のもとで実施される学力テストはその全体において違法とされなければならないと考えられることとなる。

本年の学力テストは、テストの集約、採点、評価とそれらの全体が文科省の主導のもとで実施されるのであり、「教育に関する地方自治の原則に反する」とされる事態はさらに拡大しているのである。

(2)同判決は、文部大臣の関与について、地教行法54条2項を根拠にして、学力テストの実施を各教育委員会に要求することはできないとし、地教行法54条2項による文部大臣の権限は、教育委員会が実施した学力テストの結果を入手しうることにとどまるとしている。旭川学力テスト事件大法廷判決に立つ限り、学力テストの実施主体は、各教育員会である。

この判断は、「調査結果の整理集計は、原則として、市町村立学校については、市町村教委が行い、都道府県教委において都道府県単位の集計を文部省に提出するもの」との実施態様によることを前提としてなされている。本年の学力テストのように、文科省主導のもとに、すべてのテストが、そのまま文科省に集約されて、それらの全てが、民間の営利企業に提供されるといった乱暴な措置は全く前提とされていない。

この旭川学力テスト事件大法廷判決の意味するところを、個人情報保護法の立場からみると、個人情報を第1次時的に取得して、その保護をはかる安全管理責任者は、各教育委員会であるということである。同時に、そのことは、文科省が、「都道府県単位の集計を文部省に提出するもの」として取得される以上の個人情報を保有することは認められないことを意味しているのである。

(3) 同判決は、学力テストの実施目的についても、注意深く限定を行っている。

すなわち、判決は、学力テストの実施目的につき、個々の生徒に対する教育の一環としての活動と明確に区別して、全国中学生の学力の一般的調査であることとしているのである。

「 学力調査としての試験は、あくまでも全国中学校の生徒の学力の程度が一般的にどのようなものであるかを調査するためにされるものであって、教育活動としての試験の場合のように、個々の生徒に対する教育の一環としての成績評価のためにされるものではなく、両者の間には、その趣旨と性格において明らかに区別があるのである」
この判旨からみても、本件学力調査は、「全国中学校の生徒の学力の程度が一般的にどのようなものであるかを調査するためにされるもの」でなければならない。氏名、出席番号まで明示した悉皆調査は、この目的を逸脱していることになる。また、このことを、個人情報保護法の立場からみると、文科省は、「全国中学校の生徒の学力の程度が一般的にどのようなものであるかを調査するため」という目的以上の個人情報の保有は、一切認められないこととなる。

(4) 更に判決は、学力テストが、学力の一般的調査の場合に認められるとして、その場合でも「許された目的のために必要な範囲において、その方法につき法的な制約が存する場合にはその制約のしたで、行われなければならず、これに違反するときは、違法となることを免れない。」としていることが重要である。「許された目的のために必要な範囲」を超えてはならないことは記述のとおりであるが、「その方法につき法的な制約が存する場合」としては、当然、その制約の中に個人情報保護法制が組みこまれることになるからである。

3 問題となる本件の実施態様
この旭川学力テスト事件大法廷判決からみて、今回の学力テストの実施態様は、前記のとおり、極めて問題とされなければならない。その上で、個人情報保護の見地から再度問題点を指摘したい。

(1) 判決は、地教行法54条2項によって、文科省が、市町村教委が行った整理集計した結果を、都道府県教委から都道府県単位で提出される情報を入手する場合を認めている。しかし、そのことから、本年の調査のように、文科省主導のもとに、すべてのテストが、文科省に集約されるということを容認することにならないことは明らかである。

また、各生徒のテスト結果を、文科省が全て集約するということは、「全国中学校の生徒の学力の程度が一般的にどのようなものであるかを調査するためにされるもの」という目的を超えた、個人情報の保有ということとされる。そのことは、行政機関等個人情報保護法3条のいう目的外の保有の禁止、最小限保有という原則からみても、違法である。全生徒の各人別の情報保有が文科省に認められる余地はないとされなければならない。

2.  民間の営利企業に、試験のすべてを提供することの問題点は、これまで論じてきたとおりである。その上で、指摘されるべきことは、個人情報の安全管理責任の所在である。ベネッセ等と契約して、ベネッセ等へ提供して、個人データの返却、破棄、削除の実施、複写の禁止、盗用の禁止を監視する主体は誰かという問題である。

仮に、学力テストを実施して、個人情報を取得することが、教育委員会にみとめられたとして、その個人情報保護の安全管理は、当該教育委員会が責任を有すべきことである。各教育委員会が責任を持たないことは、安全管理義務違反である。

再三私的するとおり、旭川学力テスト事件大法廷判決は、学力テストを文科省が企画、立案、要求することにつき違法であるとして、各教育委員会がその判断において実施する形態においてかろうじて違法ではないとしたのである。その文科省が、安全管理措置を教育委員会に代行するなどということは法が全く予定していないところである。

4 重要な情報の開示と教育委員会の責任
旭川学力テスト事件大法廷判決は、学力テストの実施が教育委員会の判断と責任において実施されるものであることを明らかにしている。そのことから、緊急な事態を前にして、特に各教育委員会の責任について指摘をしたい。

まず、今回の学力テストの実施が、各教育委員会の自主的な判断で実施されていることを、理由を示して、市民、父母、生徒に対して、明らかにしなければならない。

次に、各教育委員会は、個人情報保護法体制のもとで、学力テストの実施目的からみて、氏名、出席番号当、各人を特定したテストの情報保有が個人情報保護法のもとで許されること、そして、教育委員会自身の固有の責任として個人情報の安全管理措置を徹底していること、それらを、各生徒、保護者に説明責任を果たさなければならない。そのことは、行政機関等個人情報保護法4条が「あらかじめ、本人に対し、その理由目的を明示しなければならない」と求めているところである。

しかしながら、そのような説明責任が果たされ、生徒・父兄に対して、教育委員会が責任をもって理由目的を明示したとは思えない事態が、現在に至っても続いている。結果として、旭川学力テスト事件大法廷判決の法理に反し、個人情報保護法制上の疑念が払拭されない場合、拙速にして、疑念の多い、今回の学力テストの実施は中止し、延期されなければならないこととなる。

なお、本意見書では、教育委員会の責任について主要に論じている。しかし、文科省が実施主体となり、各地教育委員会は参加にとどまるという、今回の実施の方法そのものからみると、旭川学力テスト事件大法廷判決からみても、個人情報保護法違反ということにとどまらず、旭川学力テスト事件大法廷判決の結論が一歩進められて、本学力テスト全体が、違法性を有するものとなりうることを、念のため、指摘しておきたい。





「全国学力テスト」について

2008年03月29日 | 教育資料
 ジュネーブに本部を置く『子どもの権利のための国連NGO Defence for Children International Japan section』が次のような要請を行っているので掲載し、紹介いたします。
http://www.dci-jp.com/dci-now.html


文部科学大臣渡海紀三朗様                         2007年11月

Defence for Children International
子どものための国連NGO
DCI日本支部代表 福 田 雅 章
171-0022 東京都南池袋3-11-2メイハウス 101号室
T・F 03-5953-5111
 
子どもの権利条約や国連子どもの権利委員会の「勧告」に違反する「全国学力テスト」は中止してください

 
 日頃からNGO活動に対して、ご支援・ご協力を賜り心から感謝申し上げます。
早速ですが、「子どもたちの人格、才能、そして精神的・身体的な能力を本来可能性としてもっている最大限度まで発達させること(要約)」を教育の目的として掲げ、どの子にもこのような教育が保障されることを求めているのが、日本政府が13年前に批准した子どもの権利条約です。
 さらに、本条約の国内における実施状況を報告した政府報告書(1996年5月・2003年11月)の審査の結果、日本政府に送付された「勧告」では、「過度の競争的な教育制度のもとで、子どもたちがストレスにさらされ発達のゆがみをきたしている(要約)」と指摘(98年6月)され、04年1月の「勧告」では前回の勧告が実施されていないので、「再勧告」すると言われています。
 今回の「全国学力テスト」は、まさに「過度の競争」をあおるものであり、子どもたちの声からもくっきりとそれが浮かびあがってきます。「平均点より上の子は,セーフって感じだろうけど下の子は、うちらのせいで、イロイロみんなに迷惑かけちゃってみたいな。。。」「うちらがアホなんは、学校のせいじゃないし、親のせいでもないし、自分が頑張らへんせいやねんから、お願いやから、周りを責めないでって感じかなあ。。。」 この叫びをどのように受け止め、お考えになりますか?私たちは、小・中学生がこんな思いをかみしめているのかと思うと、ただただ、ずきずきと胸が痛みます。
 しかも今回のテストには、下記のような問題点もありました。
 
① 採点・集計など民間企業丸投げで、企業の儲けの一助になっていること
② アルバイトに委託した採点のやり方にも疑問を禁じ得ないこと
③ 点取り競争の結果、事前対策など不正につながったこと

 
 以上のような「学力テスト」にたいして、下記のように強く要請します。
 

           記
 
1,今年度実施されたような「全国学力テスト」は今年限りとし、来年度からは中止することを心から求めます。
 
 


品川区日野学園 平成18年度教育課程について

2007年11月08日 | 教育資料
明日は日野学園の研究発表会です。私も参加させていただきますが、参考資料として公開されている日野学園昨年度の教育過程を掲載させていただきます。

1 プラン21に対する基本的な考え方
品川区では、学校を変えるという意図で、プラン21が進められてきた。学校選択制や習熟度別学習、小中連携教育、外部評価者制度、学力定着調査などがそれである。本校は、全国に先駆けて創られた9ヵ年の小中一貫校である。品川区が、義務教育の目的を真に果たすために周到な準備期間と多くの人々の英知とを結集して平成18年4月に開校する新しい9ヵ年の義務教育学校である。それは、21世紀の教育を目指す、初めての小中一貫学校であると言える。まさに品川区が進めてきたプラン21の成果であると捉える必要がある。
品川区が進める小中一貫教育は、これまでに行われてきた小手先の教育改革ではない。教育委員会と学校とが一体となって進める地方からの教育改革である。これこそ区民のための区民による理想の教育を目的としているのである。
21世紀に羽ばたく新しい教育を実現する本校は、このように品川区の教育改革の先頭に立つ学校であり、かつ、プラン21の理想そのものの具現化であるといえよう。よって、本校で学ぶ児童生徒はもちろんのこと、教育を担う教職員も、自分が学校の一員であるという意識に加え、区民の期待と保護者の信頼のもとに、一人一人が学校教育の新しい歴史を拓くという使命感を強く認識する必要がある。

第1表―2 学校名 品川区立小中一貫校 日野学園
2 教育目標
(1)学校の教育目標
小中一貫校日野学園の開設初年度にあたり、以下のように暫定的な教育目標を掲げる。小学校と中学校を通した9年間のカリキュラムによる教育を行なう本校では、人間尊重の精神のもと、児童生徒の知性や感性、市民性、社会性、体力などの調和のとれた個性豊かな人間の育成をめざして、以下の項目を教育目標として掲げる。
● 自ら考え自ら学ぶ
● 思いやりの心で助け合う
● 健康で明るくやりぬく
(2)学校の教育目標を達成するための基本方策
9年間の一貫した教育課程により、児童生徒の個性や能力の伸長をはかるとともに、豊かな人間性・社会性を育成するために次の基本方策を設定して推進する。
① 各教科や領域の活動、「根っこの時間」、ステップアップ学習を通して確かな学力の育成と個性や能力の伸長を図る指導を推進する。
② 少人数学習、習熟度別学習など個に応じた指導法や評価・評定の工夫・改善に努め、児童生徒の学力の向上を図る。
③ 学校の施設や区民施設を効果的に活用して児童生徒の体力向上および心身の健康づくりを進める。
④ 市民科を中心にして、全教育活動を通じて、人間尊重の精神を育て、社会人としての生きる資質を磨く。
⑤ 学校生活の中で、自他の生命を尊重できるようにし、自他を的確に理解することで、差別や偏見をもたない意識を醸成する。
⑥ いじめや不登校をなくすために、行事や地域での活動を通して学校への帰属意識を高める。
⑦ 心の悩みを早期に発見し、適切に解決するために、カウンセラーと学校の教職員が一体となった教育相談体制を確立する。
⑧ キャリア教育の視点から、地域社会や保護者との連携を強化し、地域とともに児童生徒を育てるネットワークづくりを進める。
⑨ 地域人としての意識を育て、地域の構成者としての責任を果たすために、積極的にボランティア活動に参加させる。
⑩ 9年間のカリキュラムの実践・検討を継続的に進めるために校内研究体制を維持し、教職員が一体となって研究を発展させていく。

日本国憲法施行60周年を迎えての会長談話

2007年05月03日 | 教育資料
日本国憲法の基本原理と立憲主義の重要性について

本年5月3日、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義を基本原理とする日本国憲法が施行されてから60年を迎えます。人であれば還暦というこの60年の間に、日本国憲法は、文字通り国民の血となり肉となってきました。

この記念すべき時を迎えるに当たり、日本国憲法が果たしてきた役割の重さに思いを致すとともに、日本国憲法の基本原理やその根底にある個人の尊重・法の支配の理念、そして、権力を制限して個人の権利を保障するためにこそ憲法は存在するという立憲主義の理念の重要性をあらためて確認したいと思います。


平和をめぐる問題について
日本国憲法は、先の大戦の反省の上に立って、戦争が最大の人権侵害であることに照らし、恒久平和主義をその基本原理としています。特に、第9条の戦争を放棄し、戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義は、他に類例を見ないものであり、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有しています。

しかし、ここ約10年を見ると、周辺事態法、テロ対策特別措置法、イラク復興支援特別措置法、武力攻撃事態法などの有事法制3法、国民保護法などの有事関連7法の制定、度重なる自衛隊法の改正や防衛庁設置法の改正に基づく自衛隊の海外派遣の拡大など、平和についての我が国のあり方を大きく左右する立法が続いています。

当連合会は、このような立法に対し、その都度、日本国憲法の基本原理に抵触するおそれや日本国憲法が禁止している武力の行使・集団的自衛権の行使に当たる危険性を指摘し、憲法の遵守を求め、なし崩し的な解釈改憲の弊をおかすことのないよう求めてきました。

このような緊迫した情勢において、当連合会は、今後とも、平和憲法の遵守の重要性をより強く訴えていくものです。


基本的人権をめぐる問題について
日本国憲法は、基本的人権について、現在及び将来の国民に与えられた侵すことのできない永久の権利であると高らかに謳っています。民主主義が十全に機能し、公平で調和の取れた社会を実現するためには、人々の基本的人権、とりわけ、精神的自由が確保されることが必要不可欠であることは、人類のこれまでの経験からも明らかです。

ところが、我が国の現状を見ると、民主主義が機能するための不可欠の権利であるとされる精神的自由が危機に瀕しています。

公立の学校現場において、国旗・国歌の不利益処分を伴う強制が行われていることは、教育の場における精神的自由を脅かす一例であり、公の秩序の名の下に個人の尊重の理念が損われないようにしなければなりません。また、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は、政教分離原則に違背する疑いがあり、ひいては信教の自由の確立を妨げるおそれがあります。さらに、政治的意見に関するビラの投函等が逮捕・起訴の対象とされたり、思想の段階で刑罰をもってのぞむ共謀罪の新設が国会で審議されたりするなど、自由な言論に対する公権力による規制が危惧されている上、放送事業者による報道の自由にも公権力が介入する事態が懸念されています。

当連合会は、このような危険な人権状況を踏まえ、人権擁護活動を一層充実させ、不断の取組みを続けていく所存です。


憲法改正に向けた動きについて
日本国憲法をめぐっては、近時各界から改正に向けた意見や草案が発表され、また憲法改正手続法については、法案が衆議院で可決され、現在参議院で審議されているという事態を迎え、憲法改正をめぐる議論が急を告げています。

当連合会は、日本国憲法の基本原理やそれを支える理念に照らし、改憲論議の問題点を指摘する一方、憲法改正手続法案についても、日本国憲法がもともとその安易な改正を予定しない硬性憲法であることに照らし、最も重要な最低投票率の規定が設けられていないことなど問題点が多く含まれていることを指摘し、国民に開かれた慎重な審議がなされることを求めています。是非とも参議院においては、この最低投票率の規定を設ける旨の修正を求めるものです。

今後、改憲論議においては、その是非の判断を行うために必要かつ十分な情報が国民に提供されるとともに、国民の間で十分な議論が尽くされるための期間が保障されることが不可欠であり、そして何よりも、憲法とは何か、憲法は誰のためにあるのかということが常に議論の中核となるべきであると考えます。

当連合会は、憲法改正をめぐる議論において、立憲主義の理念が堅持され、日本国憲法の基本原理が尊重されることを強く求めるとともに、これらの理念や基本原理の重要性が広く国民に理解されるよう最大限の努力を行っていくことを決意するものです。


憲法の理念の真の実現に向けて
我が国の現状を考えますと、立憲主義の理念や、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義という日本国憲法の基本原理が有する意義は、今日においても、いささかも変わるところがないばかりか、より一層その重要性が認識されるべきであると考えます。

当連合会は、憲法の理念を真に実現できるよう、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を果たしていくとともに、国内外の人々と協力して、21世紀を、全世界の人々の平和的生存権が保障され、恒久平和が実現する輝かしい世紀とするため、全力を尽くすことをここにあらためて誓うものです。
2007(平成19)年4月27日

日本弁護士連合会
会長 平山 正剛


犬山の教育の重要施策2006

2007年02月24日 | 教育資料
犬山の教育の重要施策2006
学びの学校づくり
○ 犬山の教育は、人格の完成を目指し、自ら学ぶ力を人格形成の重要な要素と位置づける。
○ 犬山の学校づくりは、子どもが学ぶ喜びを実感し、教師が教える喜びを感じ取り、親の願いや地域の期待に応えようとするものである。
○ 犬山の教育改革は、目の前の子どもを見つめ、教師の地道な教育実践の積み重ねによる、手づくりの学校づくりである。
犬山市小中学校長会
犬山市教育委員会
犬山市

Ⅰ 犬山の学びの学校づくりの基本的な考え方
1 自ら学ぶ力を育む授業づくりと学級づくり
○ 犬山の教育は、人格の完成を目指し、子どもに「自ら学ぶ力」を獲得させることを目標とする。自ら学ぶ力とは、「基礎的な学力を身につけ、家族や友達を大事にし、地域を支え、自分の人生を大切にするとともに、生涯にわたって自ら学び続けようとする資質や能力」である。自ら学ぶ力は、単なる正答率を競う学力ではなく、人格形成の重要な要素として位置づけられなくてはならない。犬山では、このような考え方に基づいて、市内全小中学校で学びの学校づくりを推進している。
○ 自ら学ぶ力を育むには、教え込む授業ではなく、子ども主体の授業でなくてはならない。犬山では、子ども主体のきめ細かな授業を実現するために、市費で非常勤講師を採用し、少人数による指導を積極的に進めてきた。犬山の教育は徹底的に現場主義である。教育実践の中で、学習と生活を一体とする少人数学級は、子ども同士、教師と子どもの人間関係を築きやすく、個に応じた指導を容易にすることなどから、人格形成と学力保障に最も有効な教育環境であることを確信した。教育改革は、まず少人数学級など教育への思い切った国家投資から始めなければならない。
○ 犬山市は、独自の財政支出により、少人数学級や副教本の作成を中心とした様々な教育環境を整備してきた。さらに、教師の内発的な動機づけにより、やる気と責任感を育て、日々の授業実践を積み重ねてきた。全国一律に学力調査を実施して子どもの学力向上を図ろうとする文科省の施策は、これまで積み重ねてきた犬山の教育と大きく異なり、実施にあたって慎重な対応が求められる。犬山の教育改革は、国主導の教育文化に対して、地方の価値観に基づく教育文化を提示するものである。
① ゆとり教育はどこに問題があったのか、教育現場で実際にどんなことが起きているのか検証することなく事が進められ、学力低下問題を引き起こした。そして、今度はその対応策として、全国的な学力調査を実施しようとしている。安易な対応策と言わざるを得ない。さらに、この学力調査は、テストでの得点力ではあっても、将来を切り拓く自ら学ぶ力にはほど遠い。この学力調査では、自ら学ぶ力を測る手だての具体化は極めて困難である。点数化による調査や集計は避けられないと思われ、教育現場では、ゆとり教育に逆行するような弊害が心配される。犬山の教育にとって、学力調査から得られる効果よりも、危惧される弊害の方が大きいと考えられる。
② ゆとり教育の核心にある学力は、「自ら学ぶ力」である。学力をめぐる議論で、テストの正答率は議論の対象になるが、この学力が俎上に上がることはない。自ら学ぶ力を抜きに学力議論は本来成立しないはずである。授業で自ら学ぶ力を育むには、子どもが授業に主体的に取り組む経験が欠かせない。それを可能にする教育条件が少人数学級である。このことは、少人数学級のもとで豊かな人間関係と豊かな社会を形成し、自ら学ぶ力を育み、人格の形成を図ってきた犬山の教育実践から明白である。
③ 犬山では、全国的な学力調査の実施については、さらに次の点から十分な議論が必要だと考えている。
第1に、犬山で子どもに身につけさせたい基礎的な学力は、決して教え込まれるものではなく、自ら獲得するものと考える。教え込まれた知識は単なる知識でしかなく、自ら獲得した知識は、知恵となり、生きる力を育む。犬山の教師は、少人数での授業づくりが基礎的な学力を育み、学び合いを通して授業が分かるようになったことに自信と誇りをもっている。こうした自信と誇りに裏づけられた教育実践を通して、基礎的な学力は、子ども自らが獲得していくものであることを実証してきた。
第2に、犬山では、学習指導要領が最低基準であるという国の規制緩和を主体的に受け止め、教師の手づくりによる副教本の作成・活用を図ってきた。そこでは、犬山の歴史、文化、自然などを対象に教材づくりを行い、教育課程を編成し授業実践を積み重ねてきた。この犬山の教育は、犬山の教育目標に即して総合的に評価すべきであり、全国一斉の学力調査によって評価すべきではない。
第3に、犬山は評価を軽視しているわけではなく、教育活動の中に重要なものとして位置づけている。評価は子どもの成長や教師の指導方法の工夫・改善のため、日々の授業実践を通して行われるべきものである。犬山では、日々の授業の中で確認テストや観察などによる継続的な評価を積み重ね、子どもの自己評価や相互評価をもとに指導方法を見直し、基礎的な学力の定着を図っている。学力調査は、本来子どもの学びや教師の指導方法の工夫改善に役立つものでなければならない。
2 教師の自己改革による主体的な授業改善と学校の自立
○ 学校の最も重要な役割は、子どもに「学び」を保障することであり、教師の役割は、子どもに質の高い授業を提供することである。そのために、犬山では、教師自らが日常の授業を振り返り、継続的に授業改善の積み重ねを図る「自己改革」によって教師としての資質・能力の向上を図ってきた。
○ 教師の自己改革を促すために最も重要なことは、できるだけ教育現場に近いところに裁量を委ね、教育現場に当事者意識をもたせ、活力と責任感を育てることである。これが「学校の自立」である。学校の自立は、教師の自己改革を制度的に支える。また、教師の自己改革は、学校を内側から変える原動力となり学校の自立が進む。こうして、教師の自己改革と学校の自立の相互作用が学校に学びの文化を根づかせる。
○ 文部科学省は「、教員の評価に関する調査研究」を各県へ委嘱し、それを受けて県教委は「教職員評価制度」を導入しようとしている。評価にあたっては、「だれが、何を、何のために」評価するのか、まずその仕組みと条件が整備されていなくてはならない。教員評価は、教師自身が子どもの姿を通して指導の結果を振り返り、授業づくりに生かすために行われるものであり、学校の裁量と教師の裁量が仕組みとして整えられていることが大前提である。
○ 犬山では、学校の裁量により、学級編制を実施するとともに、副教本づくりや自主教材づくりを中心とする学校独自の教育課程づくりを積極的に進めてきた。そして、教師の資質・能力の向上を目指し、教師自身の自己評価や「同僚性」に基づく相互評価などにより、日々の授業改善の積み重ねを図ってきた。この犬山の取り組みが、教師の指導力向上に最も有効な手法である。犬山の哲学と覚悟は明快で、市町村教育委員会の学校管理権を適切に行使することで、学校経営を全面的に支援し、子どもの学びを保障する責任を全うしている。
① 自ら学ぶ子どもを育むには、自ら学ぶ教師でなければならない。時代の趨勢といえ競争と評価で教育を活性化できるか、その妥当性の根拠は全くない。高邁な改革議論も教師の実践を通してしか実現しない。教師の実践が成果を上げるには、「私が教師であったとして通いたい学校」づくりを追い求めることで、自己改革を可能とする教育環境の整備が重要となる。教師は、もともと授業に工夫を凝らし、手応えを感じながら教育課程の充実を図ろうとする意欲と情熱を秘めている。ここにどう火をつけるか、その決め手となるのが学校の自立である。
② 学校の自立は、学校の裁量を拡大し、学校現場に活力と責任感を育てることにより可能となる。学校の自立は教師の自己改革を促し、授業づくりや自己研修などを通して教師相互が刺激し合い、質の高い授業を創造しようとする意識を高める。教職員評価制度の実施にあたっては、まず学級編制と教育課程づくりについて学校に裁量を与え学校の自立を図ることが重要となる。
3 学びの環境づくり
○ 学びの学校建築構想には重要な3つの視点がある。1つめは、学びの学校づくりの視点である。子どもの学びの意欲を引き出す豊穣な教育環境を構築することである。2つめは、生活空間の視点である。学校の授業は全時間の6割で、残り4割は授業以外の時間である。食事やくつろぎ、仲間とのコミュニケーションなど子どもから見た居場所にふさわしい豊かな空間の確保が重要となる。3つめは、地域社会からの視点である。学校は地域コミュニティの中心であり、生涯学習の拠点でもある。地域の活動の拠点にふさわしい学校施設でなければならない。
○ 犬山では、学びに視点を置いた学びの環境づくりを進めるにあたり、学校現場と市教委に学識経験者や建築専門家を加えた「学びの学校建築検討委員会」を組織し、検討を重ねてきた。
① 学びの学校建築構想の基本は、木造・平屋である。木造校舎は、木のもつ感触および利便性が優れている。平屋の校舎は、災害時の倒壊の危険性が少なく、子どもの避難も容易で、バリアフリーの実現にも適している。また、木造・平屋は、犬山市の街並み・まちづくりとも整合性がある。
校舎内は、学年を1つのユニットとし、2つの普通教室に1つのサブ教室を備え、学年エリアの中心に交流スペースを設ける。この交流スペース内に学年職員室を設置する。
② 羽黒小学校の改築を視野に入れ、城東小学校と犬山西小学校の増築工事を積極的に推進する。
4 地域コミュニティに支えられた学びの学校づくり
○ 学びの学校づくりには地域コミュニティの支えが必要であり、地域は学校を単位としたコミュニティを基本とするべきである。犬山では、学校、家庭、地域が一体となって「犬山の子は犬山で育てる」という共通認識をもち、地域の声に応える開かれた学校づくりを進めてきた。
○ 学校に課せられた最大の地域貢献は、子どもの「学び」を保障するとともに、将来のまちづくりに貢献できる人材の育成を図ることである。一方、地域づくりを進めるにあたっては、学校をまちづくりの拠点に位置づけた地域のコミュニティ活動が展開されることになる。
○ 犬山市では「全市博物館構想」を策定するとともに「自治基本条例」の制定に取りかかり、小学校区を単位とする地域コミュニティによるまちづくりを積極的に進めようとしている。地域が学校を育て、学校が地域づくりに貢献する学びの学校づくりを積極的に進めていきたい。
① 犬山の学校は、地域の教育力の発掘を進め、学校の教育活動の中で積極的に活用を図ってきた。このことは、地域の教育力を高め、まちづくりにも貢献しようとする取り組みでもある。生涯学習の観点からも、学校と家庭・地域社会が一体となって「子ども大学」を開催し、学校教育では学習できないような体験活動を通して、子どもたちが満足感や成就感を味わいながら知識や技能を習得することを目指してきた。
犬山市では「全市博物館構想」を策定し、まちづくりに貢献できる人材の育成を図っている。地域の教育力を活用し、郷土の歴史、文化、伝統について学ぶとともに、地域の課題を見つけることによって郷土愛を育むことが、地域づくりやまちづくりの大きな力となるからである。
② 現在、犬山市では「自治基本条例」の制定を進め、小学校区を単位とする地域コミュニティによるまちづくりに取りかかっている。地域コミュニティによるまちづくりは学区制が基本であり、多様な機能を備えた地域コミュニティの活動の拠点として学校を位置づけ、様々な施設・設備の充実を図っていく必要がある。
5 地方分権時代における市町村教育委員会の役割
○ 公立小中学校の運営は、教育の地方自治と学校の自立を基本としなければならない。市町村教育委員会が学校管理権を有するのは、第1に市町村を単位とする教育の地方自治を確保するためであり、第2に学校の自立を制度的に支えるためである。したがって、教育委員会と学校は相携えて地域の教育をつくり出す関係にある。
○ 学校と教師が負っている子どもの成長発達を保障する責任は、教育委員会の適切な支援のもとでよりよく達成されるものである。
○ 教育の地方分権が推進される今日にあっては、市町村教育委員会の役割と責任はこれまで以上に大きくなっている。犬山の教育改革は、教育委員会と学校のあるべき関係を探求しつつ、国や県の役割を明確化するとともに今後の義務教育の在り方を示し、教育の地方自治と学校の自立を真に実現しようとするものである。
① 昨年10月に出された中教審の答申では、教育の地方分権の名のもとに「学校の裁量」がこれまで以上に強調されている。しかし、学校の裁量は強調されるものの、そこには教育委員会の支援が必要なことが見落とされがちである。地方分権時代における教育行政の原点は、学校の自立を支援するという市町村教育委員会の役割の自覚である。
② 犬山では、学校裁量による授業づくりと学級づくりを中心に学びの学校づくりを積極的に進めてきた。市教育委員会は、学習環境の整備を中心にさまざまな支援を継続的に行っている。
Ⅱ 学びの学校づくりの具体策
1 学校裁量による学級編制
(1) 少人数学級の実現
学校裁量により少人数学級を実現する。
(2) 少人数授業・TT
個に応じたきめ細かな授業を実現するために、市費非常勤講師を配置し、少人数授業・TTを実施する。
2 学校裁量による教育課程づくり
(1) 教師による主体的な教材づくり
① 教材開発
地域素材の教材化をはじめ、子どもの興味・関心に基づいた教材開発を積極的に進める。
② 副教本づくり
国語・算数・理科の副教本作成作業を通して、教材分析力や単元構想力を高めるとともに、積極的な活用を図る。
(2) 総合的な学習の積極的な推進
教科の学習で培った自ら学ぶ力と教師の指導力を生かし、総合的な学習を積極的に推進し、充実を図る。
(3) 評価を生かした授業づくり
① 2学期制の実施
子どもの成長を、前期・後期という長いスパンでとらえ、評価を指導に生かす。
② 通知表の作成
子どもの学習状況を的確にとらえ、子どもにも保護者にも分かりやすい評価の方法を工夫する。
③ 振り返りカードの活用
単元・題材ごとに振り返りカードを作成して活用を図り、自己評価や相互評価をその後の学習に生かす工夫をする。
3 学び合いを中心とした指導方法の工夫・改善
(1) 少人数学級と少人数授業の組み合わせ
子ども主体の授業を可能とするために、少人数学級に少人数授業を組み合わせる。
(2) 評価計画の作成
教科の指導目標を明確にするとともに評価規準を定め、評価計画を作
成し指導に生かす。
(3) 学習集団の編成
少人数学級をさらに小集団に分け、教え合ったり意見を交換し合ったり
できる学習形態を工夫する。
(4) 学び合いの授業
指導方法の工夫・改善を図り、学び合いを中心とする子ども主体のきめ細かな授業により、自ら学ぶ力を育む。
4 学びの学校を支える体制づくり
(1) 学校運営機構の見直し
教師が授業改善に専念できるよう、学校運営機構の見直しを図り、校務分掌の簡素化、効率化を図る。
(2) 授業改善犬山プランの策定
「授業改善犬山プラン」を策定し、学校裁量による少人数学級を実現する。
(3) 市費常勤講師の活用
少人数学級にともなう学級増への対応として、市費常勤講師を採用し学級担任として配置する。
(4) 学校経営支援者等の活用
教務主任や校務主任が担任となる学校については、学校裁量により学校経営支援者や学級対応非常勤講師を配置する。
5 教師の自己改革と学校の学びの文化
(1) 教師の自己改革を図る
教師自身の自己評価や相互評価などにより、認め合い、高め合う学びの文化を学校に根づかせる。
(2) 同僚性を高める校内現職教育
① 授業の公開
学校が授業を公開し合い、授業研究により質の高い授業を目指す。
② 学校訪問
学校訪問を日常の授業実践として位置づけ、学校の現職教育計画にしたがって実施する。
③ 要請訪問
学校の希望により要請訪問を実施し、客員指導主幹を中心に市教育委員会が積極的に支援する。
(3) 交流による研修
① 犬山授業改善交流会
校内研修の成果を持ち寄り、指導力の向上を目指して広域での研修の機会とする。
② シンポジウム教育のまち
学校・家庭・地域が一体となり「学びのまちづくり」を目指す。
③ 授業研究会
市教委が中心となって有志を募り、授業研究を深め、指導方法の工夫改善を図る。
6 学びに視点を置いた学校建築の推進
地域コミュニティの核となる「学びの学校づくり」を目指した羽黒小学校の改築に向け、具体的な設計プランの作成を進める。また、城東小学校と犬山西小学校において、普通教室にサブ教室を備えた教室の新増築工事に取りかかる。
7 生涯を学びとして
(1) 地域の教育力を生かす
「全市博物館構想」・「自治基本条例」の趣旨に則り、地域ボランティアの積極的な活用を図る。
(2) 地域が子どもを育む
① 子ども大学
地域の教育力を生かし、学校では学習できない体験活動を通して満足感を味わいながら知識や技能の活用を図る。
② 地域に支えられた学校づくり
子どもたちが安心して安全な生活が送れるよう、防犯などの面から地域が学校を支え、学校は地域の発展に寄与できる関係づくりに努める。
(3) 部活動の支援
中学校部活動に部活動指導員を配置し、積極的に支援する。

「学びの学校づくり」の理解を深めるために
1 各学校は、「学びの学校づくり」を学校経営の基本に置き、具体的な方策を定め、学びの学校づくりを推進する。
2 犬山の教育の重要施策について、シンポジウム
「教育のまち」をはじめさまざまな場をとらえ、市内教職員はもちろん保護者や地域住民の理解を深める。
3 市内教職員に対しては、授業公開や授業改善交流会等のあらゆる研修の場をとらえて研修を深める。
お問い合わせ先犬山市教育委員会
所在地:愛知県犬山市大字犬山字東古券322-1
電話:0568-62-4717
FAX:0568-62-2292
メール:01596@city.inuyama.lg.jp

-学びの学校づくりを目指す犬山プラン-平成13年度  犬山市教育委員会

2007年02月22日 | 教育資料
犬山の3つの目標
1 教室の改革
 ◎ 自ら考える力を養う「学び」の実現
 ◎ 「総合的な学習」の工夫
 ◎ ティームティーチング・小人数授業の導入
2 学校の改革
 ◎ 子ども・教師・保護者・地域が学び合う場としての「学びの共同体」の実現
3 新しい学校経営
 ◎ 授業を中軸にした学校経営を進めるための校務分掌の見直し、学校運営の効率化、地域住民の学校運営への参加

はじめに
○ 教育は子どもの知的能力の発達とともに、心と身体を健全に育てることを目的とするものであり、社会全体がそれを支えている。そのなかにあって、学校の主たる目的は、子どもの知的能力の発達を保障することにある。また、すべての子どもに知的教育を保障できる場は学校以外にない。つまり、学校の最も重要な役割は、授業を通じて子どもに「学び」を保障することによって果たされることにある。
○ 平成14年度から実施される新学習指導要領は、学習内容や授業時間数が大幅に削減されることなどから、深刻な学力の低下を招くのではないかと懸念されている。そこで、犬山市教育委員会は子どもに基礎的・基本的学力を保障するとともに、それを応用して自ら考える力を保障するために、「学びの学校づくり」を当面の最重要課題と位置づけ、このプランを策定した。このプランの推進は学校・保護者・地域・教育委員会が一体となって取り組むことによって可能となる。
○ 平成14年度からの完全学校週5日制の実施に向けて、中学校における土・日曜日の部活動を地域の指導者の協力を得て、実施できるよう条件整備に努める。
○ 学校の主要な役割が知的教育にあることは前述のとおりであるが、学校は同時に、子どもの成長・発達を支えるために、広範な領域にわたって多種多様な教育活動を展開していることは言うまでもない。「学びの学校」づくりを目指す本プランは、小人数授業などの導入を通じてこの4月から実施に移されることになるが、ここで取り上げられなかった事柄についても、各学校・地域などで議論を起こし教育委員会にご意見を寄せてくださるよう期待している。「生きる力」を培う「学び」をめざすこのプランをより充実したものにするために、学校・保護者・地域の皆さんや児童生徒の皆さんが、ご提案・ご意見をお寄せくださることを切望する。

Ⅰ 犬山の8つの目標
1 教室の改革を推進する。
 ・自ら考える力を養う「学び」の実現
 ・「総合的な学習」の工夫
 ・ティームティーチングや小人数授業の導入
2 学校の改革を推進する。
 ・子ども・教師・保護者・地域の人々が学び合う場としての「学びの共同体」の実現
3 新しい学校経営を推進する。
 授業を中軸にした学校経営を進めるための
 ・校務分掌の見直し
 ・学校運営の効率化
 ・地域の人々の学校運営への参加

Ⅱ 具体的な施策
1 ~自ら考える力を育む「学び」へ~
 教室改革とは、知識を教え込みがちであった「勉強」から、自ら考える力を養う「学び」への授業改革を中核とする。
「学び」を実現するには、子どもの個性・発達段階に応じて教育課程を工夫し、指導方法を改善する必要がある。とりわけ、総合的な学習を工夫する。さらに、ティームティーチングや小人数授業の導入による利点を生かした授業改善を進める。

(1) 教科と「総合的な学習」
 ア 「基礎・基本」の定着を図る
 教科教育は、各教科の知識・技能の系統的な学習を通じて、人類の文化的な遺産を受け伝える営みであり、子どもが社会の一員として自立して生活を営めるように、その基盤となる能力を育てる営みである。しかし、教科の系統性の過度の重視や受験準備の要請の中で、教科教育はややもすると無味乾燥な学習に陥りがちであった。このような反省の上に立ち、どの子も抱く「わかりたい」、「できるようになりたい」という強い願望を踏まえ、「基礎・基本」の徹底的な指導を通して事物や事象について自分なりの意味を読み解き、新しい知の世界を切り開いていく力を育てることが大きな課題である。
 イ 応用力を育成する
 「総合的な学習」の時間は、主として教科教育を通じて育成する「基礎・基本」を総合的に応用して事物や事象の意味を読み解き、それらが自分自身にとってどのような意味を有するか、自分はそれにどのようにかかわっていくかについて、子どもたちが自ら考える力を養い、生きることと一体化した「学び」の場である。
 「総合的な学習」は、観察・調査・実験・議論等の体験を通じて互いに多様な発想・発見を提供しあい、個の学習を保障すると共に、それらを仲間同士で共有することにより、その効果が高まる。
 ウ 「学び」を「生きる力」へ
 自らの生に喜びを感じられない者に他者を大切にする心を育てることは難しい。いま子どもたちは日々生きることに十分な喜びを感じているだろうか。子どもたちの様々な生活場面がそれぞれより充実したものになるよう努力するとともに、子どもたちが「学び」を通じて生の喜びを感じられるようにし、自らの生を切り開く力と展望を獲得できるようにすることは、我々おとなが総掛かりで取り組むべき課題である。

(2) 「学び」の学級づくりのための指導方法の改善
 教育課程の編成は、校長の裁量である。したがって小人数授業、ティームティーチングの導入にあたっては、学校の実情に応じて校長が決定する。
 指導対象とする教科は、校長が判断するが、原則として学力差の生じやすい国語、英語、算数(数学)、理科とする。
 平成13年度は、別紙「(資料1)平成13年度小人数授業実施計画」及び「(資料2)平成13年度ティームティーチング授業実施計画」により実施し、今後改善充実を図る。

 ア ティームティーチングの導入
 ティームティーチング方式(TT)の授業は、非常勤講師を補助指導員として加え、学級担任或いは教科担任と共に指導する協力指導である。
 各学校は、教科の特性、児童生徒の実態、学校の実情を十分踏まえた「ティームティーチング年間計画」を作成し、学校経営に位置づけて教職員の共通理解を図ると共に、小人数授業と同様に家庭や地域への啓発に努める。
 ① TTの目的に応じた集団編成(課題別・方法別等)をする。
 ② 時間割を工夫して、事前の打合せや準備ができるようにする。
 ③ 研究課題を設定して、研究的にTTを進め、評価をしていく。

 イ 小人数授業の導入
 小人数授業は、現在の40人学級を20人程度に再編成して、新たに配置された非常勤講師により、指導をする。
 各学校は、教科の特性、児童生徒の実態、学校の実情を十分踏まえた「小人数授業年間計画」を作成し、学校経営に位置づけて、教職員の共通理解を図る。
①)学習集団の編成・・原則として、男女均等、能力均等とし、人間関係を考慮する。
② 時間割の編成・・・教師間の打合せの時間を確保する。
③ 指導方法の工夫・・集団編成や個別指導の工夫をする。
④ 教材の工夫・・・・小人数指導に適した教材を開発・検討する。
⑤ 評価の工夫・・・・評価方法の共通理解を図る。
⑥ 研究課題の設定・・各学校において小人数授業を研究的に取り組む。
⑦ 保護者・地域の人々の理解・協力を得る。


2 学校改革 ~「学びの共同体」~
 学校は、子どもたちが学び合う場所であると同時に、教師自身も授業の工夫・創造を通して学び合うとともに、保護者や地域の人々が参加して学び合う「学びの共同体」である。
                                        
 (1) 教師たちが学び合う場
 学校は、教師たちが互いに専門家として高め合うために、校内研修として定期的に互いの授業を公開したり、評価をし合うことにより、指導力の向上を図る。

 ア 校内研修の充実
 ① 校内の現職教育(全体研修会)
  学校の年間研究テーマに沿って、積極的に研修会を開催し、教師としての資質を高め合う。

注 【学校訪問及び・研究指定(委嘱)校の改善】
  学校訪問と研究指定校制度は、どちらも教職員にとって実際の授業を公開しながら研修する機会である。今後は、研修の質を一層高めるために、参会者全員が同じ土俵に乗り共同で研究する本来の「学び合いの場」とするために、次の点について改善する。
 ① 公開授業は、日常的な授業を公開する。
 ② 印刷物を簡素化する。
   ・要項等の印刷物を極力削減する。
 ③ 資料等では、「自主性」等の不明確な用語の使用を避け、誰にも分かる平易な言葉で表現する。

 ② 学年・教科研修会
   学年・教科に応じて、関係者で独自に研修会を開き、指導者としての力量を高め合う。

 イ 研修への支援
   市教育委員会に指導主事及び指導主幹を配置し、支援体制を築く。

 (2) 保護者や地域の人々が参加して学び合う場
  学校は、子どもの学びを支援するために、保護者や地域の人々が参加して学び合う場である。
 ア 子どもの教育活動に参加して学び合う
 保護者・地域の人々が教育活動に参加することは、保護者と地域の人々が学校と共同して子どもを育てることである。保護者や地域の人々が学校の教育活動に参加することは、次のねらいをもつ。
 ・保護者と教師の連帯を生むための連携作業の場とし、我か子中心の保護者の意識を我が子を含めた学校改善に向けていく。
 ・授業の活性化を図り、質の高い体験的学習や探究活動を子どもにさせるために、学校の教育活動や部活動の指導に参加してもらい、子どもだけでなく、保護者や地域の人々にも学ぶ機会とする。
 イ 学校施設を活用して学び合う
  学校を地域における生涯学習の拠点の一つとして考え、地域の人々が学校施設(学校図書館やスポーツ施設)を活用できるように改善して、施設を地域に開放する。

3 学校経営 ~学びの視点からの見直し~
  学びの視点から学校を見直すとは、学校経営の中軸に授業を置くことである。そのために、「校務分掌の簡素化」「学校運営の効率化」「部活動の指導技術向上と活性化」「地域の人々の参加」を進める。
 (1) 学びの視点より校務分掌の簡素化を図る
 校務分掌全体を「学び」の視点から、単純化して教職員の専門性・自律性が発揮できる時間の確保を図り、「授業づくり」「カリキュラムづくり」に専念できる体制をつくるために、校務分掌全体を簡素化し、現在ある各種の組織の見直しをする。
 (2) 学校運営の効率化を図る
 会議・委員会を削減したり、各種行事の準備を簡素化したりして、学校運営の効率化を進める。
 (3) 中学校部活動の指導に社会人を活用することにより、部活動の充実を図る。
 中学校の部活動の指導に社会人を活用することにより、生涯スポーツとしての部活動の充実を目指す。
 (4) 地域の人々の学校運営への参加を図る(学校評議員制の実施)
 地域ぐるみの教育を進めるために、地域の有識者、保護者、子供会の指導者、学校関係者で構成する組織(学校評議員)を設置し、子どもたちの成長を共に考える支援体制を築く。

注 シンポジウム「教育のまち」の開催
 「学びの共同体」としての学校は、教職員、保護者、教育委員会の三者が一体となった協力と連帯によって実現する。そのために、三者が地域の人々も交えて話し合う場がシンポジウムである。

教育基本法改正法案についての意見~日本弁護士連合会

2006年11月21日 | 教育資料
教育基本法について日本弁護士連合会が行なった学習会に参加しました。その際の資料を掲載します。

当連合会は本年2 月3 日、準憲法的な性格を持ち国際条約との間の整合性をも確保する必要性が高い教育基本法については、衆参両院に、教育基本法について広範かつ総合的に調査研究討議を行う機関としての「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、その改正の要否をも含めた十分かつ慎重な調査と討議をすることを求める提言を行った。
また、本年4 月25 日にも、同様の観点から、教育基本法改正法案の国会上程について最大限の慎重な取扱いを求める旨の会長声明を発したが、本年4 月28日政府案が上程され、衆議院「教育基本法に関する特別委員会」にて継続審議となり、9 月26 日に召集される臨時国会ではその成立を期する、とする政府方針が伝えられている。
しかしながら、政府案は以下に指摘するとおり、憲法に関わる重大な問題を含んでおり、また法案を対象にした委員会における審議のみでは、教育基本法についての広範かつ総合的な調査研究討議を行うには不十分である。
当連合会は、改めて、衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、教育基本法の改正の要否をも含めた十分かつ慎重な調査と討議を行うことを求めるとともに、提案されている内容でこのまま教育基本法を改正することには、強く反対の意思を表明するものである。

1 現行教育基本法の立憲主義的性格
現行教育基本法は「日本国憲法の)理想の実現は、根本において教育の力に、(まつべきもの」とされ「日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する」とされている(前文)。このように、教育基本法は日本国憲法に密接に関連し、我が国の教育法体系の中での根本理念を定める法律と位置づけられている。
のみならず、教育基本法は、憲法と同様に、その基本において名宛人は国家であり、教育の根本規範として、子どもが自由かつ独立の人格として成長するために必要な理念と基本原則を明らかにしたものであって、教育を受ける者との関係において「権力」を行使する立場にある者(国、地方公共団体、教育行政機関、学校、教員)に対し、憲法の精神に則り「すべきこと」と「してはならないこと」を命じる立憲主義的な性格を有している。
立憲主義とは、個人の尊厳と法の支配を指導理念とするものであって、ここで教育の権力的側面を見据え、現行教育基本法制定の背景となった教育に対する国家的介入がもたらした悲劇、一元的な価値観・一方的な観念を植えつける教育が過去に招いた惨禍を想い起こすとき、教育基本法は、今後も、その立憲主義的性格を失ってはならない。
ところが、政府案においては、以下のとおり、現行教育基本法が有する立憲主義的な性格を形作る重要な部分が失われてしまうのではないかとの問題がある。

2 現行法10 条「改正」の問題
教育は、教師と子どもとの直接の人格的な接触のなかで子どもの個性に応じ弾力的に行われるものであることから、本来的に、教師の自由な創意と工夫が求められる。教育内容に対する権力的介入を警戒しこれに対して抑制的態度をとることは、戦前の教育における過度の国家的介入と統制を反省するとき、その重要性は極めて大きい。最高裁判所旭川学力テスト事件大法廷判決が「教育に対する行、政権力の不当、不要の介入は排除されるべきである」と述べているのも、このような教育の本質と歴史からの教訓を背景にしたものとして理解されるべきものである。
そもそも、個人の基本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきことを求める憲法の下において、国家による教育内容への介入はできるだけ抑制的であるべきであり、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような教育への国家的介入、例えば誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制することは許されない。この憲法上の要請を確保するものとして規定されたのが現行教育基本法の10 条である。
同条は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を、負って行われるべきものである(第1 項「教育行政は、この自覚のもとに、。」)、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない(第2 項)と定め、教育に中立性・不偏不党性を求めるとともに、教育現場における自主性・自律性を尊重すべきことを表明し、もって、国家による教育内容への介入はできるだけ抑制的でなければならないとする憲法上の要請を担保するものとなっている。
しかし、これと対比されるべき政府案16 条は、現行法10 条1 項の「教育は不当な支配に服することなく」との文言は残存させながらも、同項の「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」との表現については「この。法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」へと改変し、さらに、同条2 項の「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」との定めは削除している。
その結果、政府案においては、政党政治の下で多数決原則によってなされる国政上の意思決定に教育を全面的に委ねることになりかねず、本来人間の内面的価値に関する文化的営みとして、党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきではない教育の在り方を損なうことが強く懸念されるとともに、教育行政の名で必要な諸条件の整備確立を超えて国家権力が教育内容に介入することも可能となり、これを抑制するための歯止めも失われることになる。
しかも、政府案の17 条は、政府と地方公共団体が教育振興基本計画を定めることを規定しているが、これにより「教育目標」の達成計画、達成度評価、効果的達成を促す予算配分などを通して、教育に対する更なる国家的介入を招きかねない。
立憲主義的性格を有する教育基本法においては、教育現場の自主性・自律性を尊重し、教育における自由な領域を確保することの重要性はいうまでもない。教育への国家的介入を抑制し教育現場の自主性・自律性を尊重する要となる教育基本法10 条の意味を失わせる政府案は、立憲主義的観点から重大な問題がある。

3 精神的自由が侵される危険
政府案の2 条は、教育の目的を実現するための目標として、個人の意志・意欲や内心にかかわることがらを含む事項を5 項目に分けて幅広く取り上げ、これを「教育の目標」とし、これを達成すべく教育が行われることを規定している。現行法の2 条が、教育の目的を達成するにおいても「自発的精神を養い「自他の敬愛と協力」によることを教育の方針とし、これにより一方的に特定の価値観を押し付けることのないように配慮すべきことを規定しているのとは対照的ですらある。
すなわち、政府案2 条が「教育の目標」として掲げる「徳目」は、本来、多様性をもつ多義的な概念であって、もとより一義的に決定できないものである。しかし、これらが達成すべき「教育の目標」として教育の根本規範である教育基本法に規定されるならば、教育の場においては、国・地方公共団体によって一定の価値選択がなされ具体的な内容をもったものとして一義的に決定され、その決定された一方的な観念が子ども達に植え付けられることにもなりかねない。しかも、先に指摘したとおり、政府案16 条では「この法律及び他の法律により行われるべきもの」とし、法律によってこれらの「徳目」の内容がいかようにも決定される可能性をはらむに至ったことによって、この懸念は一層大きいものになる。
また、この懸念については、次の2 点を併せ考えるとき、その影響は更に大きなものとなる。まず、政府案2 条の「教育の目標」は、義務教育(5 条)をはじめ、大学(7
条)や私立学校(8 条)も含む学校教育(6 条)において、それが達成されるよう「体系的な教育」が「組織的に行われ」ることになる。のみならず、家庭教育(10 条、幼児期の教育(11 条)及び社会教育(12 条)並びに「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力(13 条)などを通して社会の人々の生活全般」に及んでいくことも否定できない。
さらに、教育振興基本計画(17 条)に基づき、政府・地方公共団体により、「教育目標」の達成計画、達成度評価、効果的達成を促す予算配分などを通して多義的な「徳目」に一定の内容で具体化された「教育目標」の達成が、確実に図られるよう促進することも可能となる。
以上のように、政府案2 条が「教育の目標」として掲げる「徳目」については多義的であるが、教育の場においては、国や地方公共団体が一義的に決定することになりかねず、憲法の保障する精神的自由(憲法19 条、20 条、21 条、23 条)が侵害される危険が大きくなる。

4 むすび
教育の現場や、子ども達が直面している教育をめぐる状況に深刻な問題があることは大方の見解が一致するところと思われるが、このような状況を改善する処方箋として現行教育基本法を改正するという方向を目指すことに対しては、子ども達の事件を日々担当する実務法律家の立場からすると大きな疑問と違和感を抱かざるを得ない。
政府案は既に述べたとおり、重大な問題を含んでおり、また法案を対象にした委員会における審議のみでは、教育基本法についての広範かつ総合的な調査研究討議を行うには不十分である。
当連合会は、改めて、衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、教育基本法の改正の要否をも含めた十分かつ慎重な調査と討議を行うことを求めるとともに、提案されている内容でこのまま教育基本法を改正することには、強く反対の意思を表明するものである。
以上 2006 年(平成18 年)9 月15 日