月曜日の朝、私は電話の内容を機械的に所長に報告する。予想どおり、所長の表情は徐々に険しくなり、強い怒りを帯びてきた。「債権者には3ヶ月だけ待ってくれと言っちゃったんだろう? どう弁解するんだ」。所長の言う通り、私がどのように答えても弁解になってしまう。上手く言葉が出てこない。「法律家の言葉はそんなに軽くないという自覚が足りないんじゃないのか」と言いたげな所長の言葉を、私は自分の頭の中で補う。
しかし、所長は机を叩いて更に厳しいことを言う。「こっちから3ヶ月だと言っておいて、守れませんでしたと債権者に謝るようじゃ、うちは嘘つき事務所だということだな。事務所の信用問題になるだろう?」。所長の言うとおりである。この経済社会は、相互に期限を守ることによって、初めて順調に回ることが可能になる。これは最低限かつ最大限の約束事だ。私にはその自覚と常識が欠けているという厳しい指摘である。
「最初に契約した段階で普通に分割払いを始めておいて、死んだら終わりという正攻法で行くしかなかったんじゃないのか?」と所長は腹立たしげに続ける。次いで、「支払うべき債務を逃れさせてやろうとか考えて、姑息な手段を取るから面倒なことになるんだろう? 本当に3ヶ月なのか、俺は重ねて聞いたよな」と、いかにも弁護士らしく畳みかける。私はその都度「はい」と合いの手を入れ、かしこまって頭を下げるしかない。
所長は険しい表情を崩さないまま、「もう遅いだろう。3ヶ月前なら、無理にでも手を添えて分割払い承諾書に署名させれば済んだものを、今このタイミングでそれをやったら大問題だよな。奥さんからクレームが来たら終わりだろう」と機関銃のように言う。1つ1つの言葉が私に刺さってくる。心がゾワゾワし、全身がゾワゾワする。依頼人が3ヶ月で死亡しなかったという事実を前にして、瞬間的に背筋に冷や汗を感じていたのは私だ。
(フィクションです。続きます。)