くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

憧れはグラハム・カー 幼少編 4

2004-07-19 15:14:23 | 連載もの 憧れはグラハム・カー

 豪勢なメンチカツ・ランチの日々が続いた。
 来る日も来る日も肉屋に通い、熱々のやつを買ってきた。当時の子供は本当に肉に餓えていた。
「お肉は美味いなあ!」
「そうだねお兄ちゃん!」
 揚げカスも残さずに平らげたものだ。
 また、食事に使った食器類はきれいに洗って収納しておくことも忘れなかった。どういうわけか、親にバレることを怖れていたからだ。
 そうして怯えながらも誘惑に負け、毎日食べていたのだが、ある日、僕に変化が起こった。
 毎日安いメンチカツを注文することに、突然恥ずかしくなったのだ。
 肉屋のオヤジにはすっかり顔を憶えられてしまった。それである日、
「メンチカツ2枚下さい」
 このお決まりの台詞を
「いつものカツ2枚下さい」
 少々変更した。それで通じると思った。
 ところがオヤジは胴間声でこう言ったのだ。
「カツは100円じゃ2枚買えないねえ。100円しか持ってないんだろ?」
 恥ずかしかった。顔から火が出るとはあのことだ。
(大人はどうしてこんなひどいことを言うんだろ)
 僕はメンチカツと言い直した。オヤジは鼻を鳴らして油紙に包んだ。

 それから暫く経ったある日。
 午前の番組『セサミストリート』を観ていると、妹が突然言ったのである。
「お兄ちゃん。八百屋でチョコフレーク売ってたよ」
「えっ、ほんと!?」
「うん。昨日、お使いのときに見たの」
 森永チョコフレークは当時100円。これはビンボー家庭にとって高額だった。僕もお金持ちの松島君の家で初めて食べたのだ。
 品のいい甘さのチョコレートがコーティングされ、囓るとコーンフレークのような歯触り。
 駄菓子屋では到底味わえない優雅なものだった。
 その日、僕らはリカちゃんとミクロマンを突き合わせて会議を行った。
「チョコフレーク食べたい。どうしても食べたい」
「そうするとメンチカツは買えない。おかずはどうする?」
「いいよ、お昼なしでも。チョコフレーク食べようよ」
「よし、買ってこよう!」
 こうして幼い兄妹は、初めての衝動買いを経験することになる。
 チョコフレークの包装を開いたとたん、六畳間に夢のように香ばしい匂いが広がった。
「すごいすごい! 美味しいねお兄ちゃん!」
「ゆっくり食べるんだぞ。一つずつだぞ」
 残り少なくなってくると、チョコレート部分をまず舐めて堪能し、その後フレーク部分を食べるという2段階摂取方法を用いた。
 しかし、しょせんは餓えた子供に1箱である。饗宴はすぐに終わってしまった。
「お兄ちゃんお腹空いたよお。何か作ってよお」
「何もないよ、どうしよう」
「グラハム・カーの世界の料理ショーみたいなの食べたいよ。お兄ちゃん何か作ってよ」
 妹は涙を流している。無駄遣いをしてしまったという罪悪感まで沸いてきたのだ。
「もう絶対お菓子は買わないことにしよう。指切りな」
「もう買わないよお~。うわ~ん」
「うわ~ん」
 グラハム・カーへの道程はまだまだ遠い。




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