テポドン発射で損をするのは金正日だけ 6月22日

金正日の瀬戸際戦術も、何度となく続くと各国も余裕の構えを見せている。特に米国は、テポドンの威力がどれほどのものかを見定める絶好のチャンスと捉え、更に、北朝鮮と直近に位置する日本が、日米同盟の更なる強化を望み、米軍再編費用3兆円についても、のしをつけて出すに違いないと期待を寄せている。

金正日の求心力を後退させる最大の要因は、米国による金融制裁だ。ウルトラダラー(北朝鮮作成の偽造米100ドル紙幣)のマネーロンダリングに関与した「バンコ・デルタ・アジア」は、昨年9月米金融機関から取り引きを中止された後、マカオ当局により北朝鮮関連口座のすべてを凍結された。これを契機に、他の銀行も北朝鮮との取り引きを控えるようになり、その結果金正日は、国家予算の2割を失ってしまったと報道されている。

ウルトラダラーは、多いときで年間2,000万ドルを稼ぎ出したと言われている。更に麻薬や偽タバコの密売で年間10億ドルの利益を上げるとされる金正日の海外総資産は、約43億ドルにのぼると日経新聞は分析する。めぼしい工業や経済活動のない北朝鮮が、ウルトラダラーによってミサイルを保有することを、米・ロ・中・韓・ウクライナそして日本は容認してきた。ウルトラダラーの精巧さをチェックする偽札検知器を北に供給していたのは、日本企業だと言われているし、地位を利用して日本の国益ではなく北朝鮮の国益のために働いた「日本人」外交官が存在したことは、知る人ぞ知る深層だ。

北朝鮮を泳がせることを、各国は互いを牽制する材料に利用してきた。しかし、日本にとってそれは必ずしも吉とは出ていない。特に小泉外交の結果、対立が鮮明になった日本と東アジア諸国との関係を、金正日の瀬戸際戦術は更に悪化させるものだ。金正日の策略は、日本をアジアの中で益々孤立させ、「ロシア・中国・韓国・北朝鮮」連合対日米連合という冷戦後の新たな緊張関係を生み出す可能性をもたらしかねないのだ。「東アジア共同体」に、現状では日本の居場所は見出せない。

中国や韓国の心情を逆なでした小泉外交は、結局、拉致被害者の救済の足かせになっている。拉致問題解決のために日本が米国を頼らざるを得なくした張本人が、小泉総理であり、日本の国益よりも北朝鮮の国益にプライオリティを置いた、ときの「日本人」外交官だったのだ。拉致被害者家族は、想像を絶する不測の外交に、翻弄させられっぱなしなのだ。安倍官房長官が拉致被害者家族の皆様と向き合う姿は、見ていてむなしい限りだ。

中国・韓国との無用の対立は、結果として日本に大きな不利益をもたらす。米国追従に特化し、東アジア外交をないがしろにしてきたつけが、じわじわとにじみ出てきている。現状では、米国にとって日本ほど便利な国はない。米国以外からは孤立する日本は、米国依存度を益々高め、日本外交の選択肢を狭くする一方だ。中国・韓国・ロシアとの関係を改善することは、対北朝鮮政策を考える上でも、日本外交の大きな利益となるはずだ。

東アジアで孤立しアイデンティティを失いかけた日本では、愛国心を強制する議論など愚の骨頂だ。日本の文化を主張することは、他国の文化を受け入れることから始まる。小泉総理は、米国は受け入れても中国や韓国を受け入れようとはしなかった。テポドン発射で損をするのは金正日だけだが、東アジアで孤立し損をするのは、日本だけだ。誰がなってもポスト小泉には、柔軟な外交姿勢が求められる。今から小泉路線踏襲を宣言する安倍官房長官に、総理の資質などありはしないのだ。
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