トランプ新政権誕生~安倍総理では対応できない

1.トランプ次期大統領が言う「国境税」とは何か

トヨタ自動車の米国輸出用カローラのメキシコ工場建設について、トランプ次期大統領の1月5日のツイート、
”NO WAY ! Build plant in U.S. or pay big border tax.”
のborder tax「国境税」の内容が明らかになってきました。 

一つは共和党の議会指導部で検討されている税制改革案の中にある「国境税調整」border tax adjustmentです。たとえば輸出品・輸入品に20%の国境税をかけて、米国内の輸出企業にはその分を法人税から免除し、輸入企業の法人税負担を軽くする、ということのようです。

日本やEUでは、消費税・付加価値税があって、「最終消費地課税の原則」に基づいて、輸出企業には、消費税・付加価値税が還付されます。いわゆる「輸出戻し税」です。しかし、アメリカには、消費税・付加価値税にあたるものがなく、従って米企業は輸出戻し税がなく、相手国の輸入時には、消費税・付加価値税が課税されるという不公平感がありました。そこで考案されたのが、最終消費地課税の原則に基づいた法人税の導入です。

あるいは、国境税という名の間接税20%を米国内における生産・販売で得た利益と輸入品に課税し、輸出品への課税は免除される、付加価値税のような案も検討されている、との報道もあります。

これに対して、トランプ次期大統領は、これらは非常にわかりにくいと言って、難色を示しています。トランプ氏は、1977年の「国際緊急経済権限法」の「国家の緊急時」や「特別の脅威」、あるいは通商法の「著しい貿易不均衡」に対して、大統領権限で発動が認められている高関税をかけるつもりのようです。

いずれにしても、対メキシコの場合はNAFTA・WTO違反、その他の国の場合は、WTO違反となる可能性があるわけですが、トランプ氏にとっては、そんなことは問題にならないようです。

国境税創設なのか、報復関税なのか、いずれにせよ、強権発動の可能性は高く、日本経済、世界経済、米国経済への影響も大きく、目が離せない展開になりそうです。


2.トランプ次期大統領の標的は、中国・日本・メキシコなのか
1月11日、ニューヨークのトランプタワー1階ロビーで、昨年11月の大統領選後初めて、トランプ次期大統領の記者会見が行われました。トランプ氏のビジネスと大統領職の利益相反、ロシアのサイバー攻撃、トランプ氏のロシアでの「不名誉な情報」、CNNとのバトル等々、話題は多かったのですが、注目すべきは、トランプ次期大統領の発言の中に、「日本」が2回出てきたことです。

1回目は、米国の貿易赤字についてです。

「最近われわれの貿易交渉は全くうまくいっていない。毎年毎年何千億ドルも損ばかりしている。中国との貿易で年間数千億ドルもの損失を出し、日本やメキシコなどとの間に貿易不均衡がある。だから、政府にはビジネス界の成功者が必要なのだ。」という趣旨の発言をしました。

2015年の米国の国別貿易赤字は、中国3672億ドル、ドイツ748億ドル、日本689億ドル、メキシコ606億ドルの順ですが、トランプ氏が何故ドイツを口にしなかったか不思議ですが、日本については、中国・メキシコからの日本企業分も含めているのかもしれません。

2回目は、「中国は経済的にも軍事的にも現政権の弱腰につけ込んできた。私が政権を握ったあとは、中国、ロシア、日本、メキシコなどの全ての国が、米国に対してより敬意を払った態度を取るようになる」との発言です。

同盟国か否かに関係なく、日本が中国・ロシア・メキシコなどと並んで、トランプ次期大統領の主要な交渉相手=標的であることは間違いなさそうです。

ドイツについては、1月15日付のドイツの新聞のインタビューで、BMWのメキシコ工場で生産され、米国に輸出される車に35%の税を課す、と述べています。

また、同じく1月15日付の英紙タイムズと独紙ビルトとの共同インタビューで、ドイツのメルケル首相の100万人の移民受け入れは「破滅的な過ち」で、英国のEU離脱は賢明で、EUはドイツの乗り物(vehicle)となっており、今後ほかの国もEUから離脱する、と予想しました。

また、メルケル首相は、群を抜いて重要な人物だと評価し、就任当初は、ロシアのプーチン大統領とメルケル氏の両方をまず信用する、とした上で、それがどのくらい続くかわからない、と述べました。

1月20日に、大統領に就任するトランプ氏、トランプ政権は任期途中で倒れるか、1期4年で終了するのか、2期8年継続するのか、わかりませんが、その任期中は、トランプ政権と無用な対立をせず、先手を打って、winwinの関係を構築していくしかないと思います。

トランプ氏は政治の経験がなく、知識も十分でないので、きちんと説明すれば、TPPの重要性も理解するだろう、と安倍総理は考えているようですが、全く見当違いです。恥ずかしいくらいに、世界に「無能」をアピールしています。

トランプ氏の当選直後から、私が提案しているように、

トランプ氏の公約である雇用創出・インフラ整備のために、
●特にラストベルト(ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン)の米国製造業を、日本が協力して再生させることで雇用を創出する
●新幹線などのインフラ投資
●それらを日本政府保有の米国債を担保にして調達したドル資金(ドル・ドル基金)を活用して投融資する
などの計画を、オールジャパンで、トランプ大統領に提案していくしかない、と思います。

日米首脳間の利益相反問題になりかねないカジノ誘致などは、
NO WAY ! 
あり得ないことだと思います。


●NHK「トランプ大統領の記者会見」(要旨)

 

 

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安倍総理の年頭所感について

2017年1月1日、安倍総理は年頭所感を発表しました。

天皇陛下は、即位後の平成2年以降、毎年、新年にあたり「ご感想」を発表してこられましたが、今年は取りやめとなりました。その事情について、12月26日の時事通信は、次のように伝えています。


(時事)
宮内庁の西村康彦次長は26日の記者会見で、天皇陛下が新年にあたって公表される所感を取りやめると発表した。23日に83歳の誕生日を迎えられた陛下の負担軽減の一環という。

西村次長は「ご年齢を考え、陛下の了解も得て見直した」としている。

陛下は即位以来、新年の所感を宮内庁を通じて毎年文書で公表されてきた。

年末年始は、公務や行事が立て込んでいるほか、誕生日会見や新年の一般参賀などがあり、新年の所感をやめても気持ちを国民に伝える場があるのも理由の一つという。

新年の所感とともに恒例となっている陛下と皇后さまが前年に詠まれた歌については、宮内庁が例年通り発表する。

宮内庁は陛下の公務について「大幅に減らすのは難しい」と説明してきた。西村次長は今後の公務の見直しは「ケース・バイ・ケースで考えていきたい」と話した。
(以上)


記事の内容から、年頭の「ご感想」の取りやめは、陛下の了解を得て、宮内庁が決めた、ということです。首相官邸、安倍総理が決めたと言ってよいと思います。陛下のお言葉を封じ込めたとしか思えません。

産経新聞の報道では、11月中旬から検討していた、ということです。

安倍総理の「年頭所感」は、即位以来27年間続けてこられた天皇陛下の年頭の「ご感想」が取りやめとなったことを前提に発表されました。

「年頭所感」の冒頭で、安倍総理は30年前の昭和62年の歌会始における昭和天皇御製の歌を掲げます。安倍総理の「年頭所感」は6回目ですが、過去にそんなことは一度もありませんでした。天皇陛下の年頭の「ご感想」取りやめを強く意識していると思われます。

そして、この年、「日本は、そして世界はすでに大きな転換期に差し掛かっていました」として、
「出生数が戦後最低を記録します。経済はバブル景気に沸きましたが、それは、長いデフレの序章となりました。世界では、米ソが中距離核戦力の全廃に合意し、冷戦が終わりを告げようとしていました」
「あれから四半世紀の時を経て、急速に進む少子高齢化、こびりついたデフレマンド、厳しさを増す安全保障環境。わが国が直面する、こうした課題に、安倍内閣は、この4年間、全力を挙げて取り組んでまいりました」
と、続けています。

30年前の昭和62年に「出生数が戦後最低を記録します」と言っていますが、この年の出生数は134万6658人でした。2016年は、ついに100万人を割って、98万1千人となりました。安倍内閣が全力を挙げて取り組んだ成果は、全く上がっていません。それどころか、この少子化・人口減少が日本社会の危機である、という認識も全くありません。

「年頭所感」の後段では、「私たちの未来は、他人から与えられるものではありません。私たち日本人が、自らの手で、自らの未来を切り拓いていく。その気概が、今こそ、求められています」と記しています。産経新聞によれば、憲法改正の国民的議論を喚起する姿勢を強調したということですが、日本国憲法を遵守し、立憲主義に立つ天皇陛下に対して、対抗する考えのようです。

「驕れる者久しからず」と言うよりほかない、と思います。


首相官邸HP「年頭所感」(平成29.1.1)

 

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