ケアマネジャーの独立 6月10日

ケアマネジャーの独立は、介護保険制度の本来の目的を実現させるためには欠くべからざる必要条件だ。現在のように、介護サービスを提供する事業所や施設に所属している以上、ケアマネジャーは所属する事業所の利益を最優先にケアプランを作成する。そのため、利用者の自立を促すよりも、むしろ介護サービスがなければ生活できない状態へと、利用者の介護度を後退させてしまうのだ。結局、介護ビジネスだけが潤い、自治体は、膨らむ介護費用に頭を悩ませることにもなる。

際限なく増大する医療費に歯止めをかけ、家族の介護負担を軽減するとして、2000年4月、鳴り物入りでスタートした介護保険制度は、ふたをあけてみれば、参入したサービス事業者が1円でも多くの利益を上げようとして、所属するケアマネジャーに不必要なケアプランを作成させ、結果的に、医療費とは別に、数兆円規模でのあらたな負担を社会に強いることとなった。まさに本末転倒。家庭での自立を夢見た高齢者の多くが、家族の都合もあって施設に追いやられ、途端に痴呆が進行する例は、介護保険制度がスタートして以降枚挙にいとまがない。

今年度、介護保険制度は見直され、「予防介護」に重点を置くという建前で、トレーニングマシーンを利用した筋力トレーニングがサービスに加わった。高齢者にとって、骨折はある意味命取りだ。若いときならいざ知らず、60代、70代の手習いで筋トレを始めても、果たして本当に予防介護につながるのだろうか。慣れない筋トレは、逆に捻挫や骨折を誘発する。そもそも、高齢者を対象として、筋トレという発想そのものに無理がある。筋トレの導入の恩恵にあずかったのは、筋トレマシーン業者やスポーツジムのインストラクター、所詮は官業癒着の構造がそこにはあるのだ。

一方、利用者と介護事業者との狭間にあって奔走させられるケアマネジャーの報酬は、依然として中途半端なままだ。要介護1,2なら1万円、要介護3,4,5なら1万3千円と、一律8,500円と比較すると引き上げられたように見えるが、ケアプランを作成する利用者の数を事実上39人以下に制限したことで、結局はせいぜい月額50万円が精一杯。事業所に所属していれば、報酬はこれをはるかに下回る。勿論、質の高いケアプランを実行するためには、頻繁な在宅訪問は欠かせない。50人・60人と、担当する利用者の数が増えれば増えるほど、サービスの質が低下することは目に見えている。しかし、人数を絞り利用者と真摯に向き合ったとしても、ケアマネジャーが独立できるだけの報酬が与えられない現状は、ケアマネジャーの手足を縛り、結局は所属する事業所に利益を誘導するケアプランを横行させ、結果的に制度の主人公であるはずの利用者に、大きなしわ寄せをもたらすことになるのだ。

高齢者が医療や介護のお世話になることなく元気なまま年を重ねていくことが、社会の理想であるはずだ。しかし、一部では、介護保険制度が創設当時の趣旨を逸脱し、むしろ利用者の自立を阻害するほどムダなサービスを提供していることも紛れもない事実なのだ。日本の医療や介護は、高齢者の真のニーズに応えていると言えるだろうか。たとえ看護や介護が必要な体であっても、精神が健康で文化的な生活を保障する医療であり介護でなければならないのだ。そのためには、介護保険制度のあり方そのものの道標となるケアマネジャーは、公平公正に利用者本位のケアプランを作成する立場になければならないのだ。

私は、地域に密着した郵便局や街角薬局こそ、ケアマネジャーが所属するのに最も効果的でふさわしい場所だと思う。現状のままでは、ケアマネジャーは、介護ビジネスの経営者にとっての打ち出の小槌でしかない。一刻も早く、ケアマネジャーの本分を存分に発揮できるための環境整備に、厚労省は取り組まなければならない。郵便局の再編・民営化にあたり、是非とも郵便局の居宅介護支援事業への参入を考慮すべきだと私は思う。
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