〈検証Ⅷ〉口蹄疫対策検証委員会報告書が意味すること

@口蹄疫対策検証委員会報告書等、公表                                                                                            11月24日公表された「農水省口蹄疫対策検証委員会報告書」および「口蹄疫の疫学調査に係る中間取りまとめ」は、初発を6例目水牛農家としたままの、真相解明については非常に不十分な内容だった。この水牛農家に関する疫学調査チームの「調書」には、捏造された一文がある。この農家は非常に分かりにくい山中にあり訪問者は殆どいなかったにもかかわらず、「不特定多数が勝手に入っている」と記されているのだ。農場が訪問者に関する記録をとっていなかったこともあり、このことが水牛農家を初発とする根拠になっている。初発の冤罪が、水牛農家T氏の人生にどれほど大きな影響を及ぼすものか、国がT氏の人権に配慮しているとは到底思えず、一国民として国の人権無視の対応に大変失望した。

初発の真相解明なくして今後の防疫体制の確立はあり得ない。口蹄疫発生直後から地元紙・旬刊宮崎は第7例目とされている安愚楽児湯第7牧場の感染隠蔽工作の実態を、従業員への取材もまじえ伝えている。地元畜産農家などで構成される口蹄疫被害者協議会も、安愚楽牧場に対して踏み込んだ調査をしない県と国に対して不信感を募らせ、県知事に対して質問書を提出した。

@宮崎県は防疫指針に則った防疫体制をとっていなかった                                                                        検証委員会報告書には、しかし、いくつか重要な指摘がある。冒頭で、「防疫指針を中心とする防疫体制が今回の宮崎県での口蹄疫の発生に際して確実に実行されず、また、十分に機能しなかった」と、宮崎県が当初から「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に則った行動をとっていなかったことを指摘した。今回の宮崎口蹄疫を検証する上で、最も基本的かつ重要な指摘である。

私の6/12付ブログ「1/7付『韓国における口蹄疫の発生について』農水省動物衛生課長通知」は周知徹底されたのか」に対して、東国原知事は6/22付ブログで「本県では、確かにHP上での記載はしていないが、市町村や農業団体を通じて、FAXや電話等で農家一軒一軒に注意喚起を徹底している(農家はパソコン等をお持ちでない方が多く、電話やFAXの方が有効である場合が多い。また、HPに載せただけでお終いでいいのか?)。本県では、加えて、1月22日には、広く防疫会議も開いている。」と反論した。

しかし検証委は「国は、韓国での口蹄疫発生を受け、1/7と4/9に都道府県に対して口蹄疫の発生状況及び注意喚起のための通知などを発出し、家畜の臨床症状などの観察や衛生管理の徹底などを関係者に周知するよう依頼している。しかしながら、宮崎県は、こうした情報を受けて市町村、JAの関係者にまでは情報を伝達していたが、畜産農家にまで情報が伝わっていたかどうかの確認を行っていなかった。」「都道府県や家畜保健衛生所が日頃から農場の所在地や畜種、頭数などについて把握していることが重要である。しかし、宮崎県では、そうした最新の情報を十分に把握していなかった。このため初動対応などが遅れ、被害を広げたと考えられる。」と指摘している。東国原知事の主張が本当に事実なのか、知事自身が自ら検証すべきである。

@国の注意喚起のあまさ                                                                                           1/7付農水省消費安全局動物衛生課長通知は、近隣諸国の口蹄疫発生に敏感に反応し発出された点において評価できるが、都道府県・獣医師会等に通知するにとどまり、農家・農場に対して内容が周知徹底されたかを確認するまでには及んでいない。この点について検証委は、「都道府県に対する口蹄疫の防疫に関する国の指示は、近隣諸国での発生を通知するだけで事務的であった。」「実効性のある口蹄疫の防疫の指示が十分に国から都道府県に伝わっていたとは考えられない。」と、国の指導にもあまさがあったことを指摘している。

その他検証委は国の対応について以下指摘した。                                                                                         

・国と宮崎県・市町村などとの役割分担が明確でなく、連携も不足していた。

・宮崎県に国の対策本部、市町村に対策本部、首相官邸にも国の対策本部が出来るなど、対策本部が乱立した。対策本部の間では、権限と役割について混乱が生じ、時には対策をめぐって意見が対立するなど、連携もとれていなかった。

・日本周辺の中国、台湾、韓国で口蹄疫が発生しており、国は危機感を持って対応する必要があった。

・オーストラリアやニュージーランドのような徹底した口蹄疫ウイルスの侵入防止に係わる入国管理は実施されていない。

・口蹄疫に対する具体的な防疫措置の一義的な責任は都道府県にあるが、全体を統括するのは国であり、宮崎県も国も責任を十分自覚し、今後の防疫対応を改善していく必要がある。等々

@宮崎県当局の家伝法違反の疑い                                                                        初発の冤罪を着せられている6例目水牛農家は、自らのホームページで、3/31水牛を観察し検体を採取した県家畜防疫員(公務員獣医師)が「検体を東京へ送る」と言ったことを明らかにしている。東京とは当然動物衛生研究所のことを指し、口蹄疫を疑わなければ出ない言葉である。しかし、このとき検体は東京へは送られなかった。4/14も同様で、「検体を東京へ送る」と言いながらこの日も送らなかった。

この点について検証委は「防疫指針では、異常畜を発見し、口蹄疫が否定できない場合には、検体を採取し、動物衛生研究所に送ることになっている。また同時に、病性決定までの間に、殺処分の場所や防疫対策の検討などを行うようにしている。しかし、送った検体が陽性であった場合、宮崎県としてのダメージが大きく、現場ではできれば口蹄疫であってほしくないという心情が強く働いたと考えられる。このことは宮崎県だけの問題ではないが、こうした心理的な圧力が国への連絡を遅らせ、結果的に感染を広げたことは間違いない。韓国で口蹄疫がまん延し始めていたことを考えると、宮崎県はもっと早期に検体を国に送るべきであった。」と指摘している。

この指摘はつまり、宮崎県が防疫指針を全く守っていなかったと国の検証委員会が認定したということであり、3/31・4/14に家畜防疫員が「検体を東京へ送る」と言いながらこれを放置したことは、宮崎県が防疫指針どころか家畜伝染病予防法第13条(届出義務)及び14条(隔離義務)に違反した疑いが極めて濃厚であることを示すものだ。

@宮崎県の隠蔽体質                                                                                           宮崎県の「できれば口蹄疫であってほしくない」との心情は、5/13県の家畜改良事業団での通報の遅れ(隠蔽工作)にも表れた。家畜改良事業団は「発熱はあったが13日には流涎などがなかったため口蹄疫を疑わなかった」と言い訳するが、周辺が既に大変な口蹄疫パニックに陥っている状況で、このような発想があるはずがない。

家畜改良事業団については、種雄牛をめぐっても県は防疫指針を犯した。検証委は「近隣で口蹄疫が発生し、事業団が移動制限区域内に含まれているにもかかわらず、宮崎県は牛を移動させた。さらに、移動先でうち1頭に感染の疑いがあることが明らかになると、口蹄疫の防疫指針が『患畜と同じ農場において飼育されている偶蹄類の家畜の全部』の殺処分を求めているにもかかわらず、宮崎県は残り5頭の殺処分も再び見送った。」と指摘する。

更に、6/25ワクチン接種家畜の中に異常畜がいたにもかかわらず、県は国に報告せずそのまま処分した。検証委は「宮崎県では、6/25、発疹やびらんという症状がみられる牛がみつかったにもかかわらず、国に報告せずワクチン接種家畜としてそのまま処分していた。口蹄疫の典型的な症状とは認められなかったというのが宮崎県の説明だが、念のため写真を撮ったり、検体を採取するなど適切な調査をすべきであった。」と指摘する。

@殺処分・埋却に対する全くの準備不足                                                                                                  殺処分・埋却について、「宮崎県は、同県職員の獣医師で対応しようとし、民間獣医師を活用しようとしなかったため、作業が円滑に進まなかった。感染が拡大し、家畜保健衛生所のみで対応できなくなった段階で、実際の殺処分などは速やかに民間獣医師に依頼するべきであった。また、都道府県職員たる獣医師の任務に殺処分も含まれていることから、このような業務に対応できるように日頃から訓練しておくべきであった。」と検証委は指摘する。これはつまり、当初は、県の獣医師がなれない手つきで効率の悪い作業を行い、その結果、爆発的な感染拡大を招いたことを意味するものだ。

更に殺処分・埋却について、「宮崎県当局及び家畜保健衛生所職員による人員・物資の確保、現場の指揮命令などに問題があったのではないかと考えられる。」「防疫指針では、埋却などのまん延防止措置については原則として農場経営者が行い、都道府県は場所の確保に努めるように指導、助言を行うとされている。しかし、大規模に飼養している畜産農家を中心に、埋却地を確保していない畜産農家が多かった。また、宮崎県は、自己所有地での埋却が困難である場合の対応について具体的な検討をしていなかった。」と検証委は指摘する。

@全国有数の畜産県を標榜しながら口蹄疫に全く無防備だった宮崎県                                                   その他検証委報告書は、重要ポイントとして以下指摘した。

・県と市町村、獣医師会、生産者団体などとの連携が不十分で、(当初)消毒ポイントは4ヵ所しか設定されていなかった。

・市町村や生産団体においても発生前には口蹄疫に対する認識の欠如が認められ、口蹄疫の防疫への備えがなかった。

・口蹄疫を想定した研修や訓練は行われていなかった

・消毒薬の準備については、防疫指針でも『都道府県は、緊急時の防疫資材の入手方法などを検討するとともに、初動防疫に必要な資材の備蓄に努める』としている。しかし、消毒液などの備蓄は必ずしも十分ではなかった。こうした訓練の取組の遅れや必要な資材の不足は、初期の混乱を引き起こした原因となったと考えられる。

・各地域における第1例が確認された際の周辺農場に対する調査を感染の拡大防止の懸念から、立入検査ではなく電話による聞取調査のみとしたのは、不十分であった。

・口蹄疫発生後、宮崎県は、地域の畜産農家から発生農場の場所などに関する情報を求められたにもかかわらず、個人情報保護を理由として求められた情報の提供を行わなかった。等々

@家伝法違反のものが手当金等を受取れば補助金適正化法により厳罰となる                                                       以上のことから、今回の宮崎口蹄疫の感染拡大の最大の要因が、宮崎県の防疫体制の不備であることはもはや明らかだ。1/7付農水省消費安全局動物衛生課長通知がまったく周知徹底されず、また10年前の口蹄疫の教訓も生かされず、全国有数の畜産県を標榜しながら宮崎県は口蹄疫に対して極めて無防備であった。しかも発生当初から防疫指針を無視し、ルールに則った防疫対策をとらなかった。検証委の報告書をもとにしても、宮崎県が家伝法に違反した可能性は極めて濃厚だ。家伝法に違反したものが手当金等を受取ることは補助金適正化法により厳罰(刑事罰・警察マター)となる。県知事もまたその対象となり得る。また、安愚楽牧場は、今回100億円にものぼる手当金等を受取る計算だ。しかし感染隠蔽の疑いは極めて濃厚で、検証の結果、事実が確定すれば安愚楽牧場も補助金適正化法による厳罰の対象となり得る。(→安愚楽牧場の感染隠蔽疑惑

初発の真相解明をはじめ真実が公表されなければ、地元農家は安心して畜産を再開できない。このまま安愚楽・県・国一体の巨額税金(手当金等)不当取得・水牛農家冤罪事件が黙殺されて良いのか。その為に水牛農家の一青年の人生を踏みにじって良いのか。この不条理は必ず正されなければならない。

自らが国の防疫指針を全く守らなかった県の畜産課・家畜保健衛生所と、農水省消費安全局動物衛生課とが主導してきたこれまでの疫学調査チームには、感染源・感染ルートの解明は不可能だ。しかし、疫学調査チームの中間取りまとめは確定ではない。今後新しい情報が提供されれば、内容は修正・改訂される。係争中の安愚楽牧場と旬刊宮崎との裁判の場での真実の解明も期待される。あるいは地元農家等が刑事告発等を行えば、捜査機関による強制捜査もあり得るかもしれない。真実が解明・公表されなければ、どんなに検証しても意味はない。

 

(参考)                                                                                                                                            口蹄疫ブログ 検証Ⅰ~Ⅷ

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〈検証Ⅶ〉宮崎口蹄疫は大阪地検特捜部事件と同じで調書捏造・冤罪事件である

宮崎口蹄疫は大阪地検特捜部事件と同じで調書捏造・冤罪事件である 

 

公式には4/20第1例目を確認した宮崎口蹄疫は、7/5の第292例目を最後に8/27終息宣言が出されました。4ケ月あまりの間に37,454頭の牛、174,132頭の豚、14頭の山羊、8頭の羊、76,143頭のワクチン接種動物、合計287,751頭が殺処分となりました。

 

 

@宮崎県当局自身が家伝法違反の疑い

 最初に家畜の異常を正直に県の家畜保健衛生所に通報したのは6例目のモッツァレラチーズをつくる水牛農家です。水牛農家は、発熱や下痢等の症状を呈する水牛の検査を、県の家畜防疫員(公務員獣医師)に3/31要請しました。3/314/14には県家畜保健衛生所が水牛の検体を東京の動物衛生研に送ると水牛農家に言いました。しかし、実際に検体が送られたのは感染拡大が始まりつつあった4/22になってからでした。

韓国や台湾・中国では既に口蹄疫が発生し、17日には都道府県に対して注意喚起の農水省動物衛生課長通知が出されていましたので、3/314/14の段階で県の家畜防疫員が検体を動物衛生研に送っていたなら、感染拡大を防ぐことができた可能性も高く、県の対応は家畜伝染病予防法第13条「届出義務」・14条「隔離義務」違反の疑いが極めて濃厚です。(→水牛農家の日記 フライデー11/12号 1, 2

 

 

@「初発は水牛農家」は冤罪。初発は第7例目の大規模農場の可能性

 この水牛農家の検体は4/23感染が確認され第6例目となりましたが、現在は疫学調査チームや検証委員会によって3/31の検体が陽性であったことから「初発」の疑いをかけられています。ここでは県当局が水牛農家に関する「調書」を捏造したのではないかと思われます。3/314/14に水牛の検体を動物衛生研に送らなかった県の失態(家伝法違反)を隠ぺいした可能性があるのです。

 

しかし水牛農家よりももっと前から感染が始まっていたと疑われているのが、7例目とされている大規模企業経営型農場である安愚楽児湯第7牧場です。この牧場では遅くとも3月中旬頃から感染の疑いがあったにもかかわらず通報せず、感染を隠ぺいしていた疑いが強く、10/19の県と国の口蹄疫検証委員会合同会議でもこのことについて議論がありました。現地取材したジャーナリストの横田一氏も同牧場の現役従業員から直接、3月中旬頃にはこの牧場の牛が既に感染していた可能性を示唆するインタビューをとっています(→フライデー7/2号 フライデー7/30号 1, 2)。

 

この安愚楽児湯第7牧場は725頭の肉用牛を飼養する大規模な牧場で、この牧場の殺処分が行われた4/26、殺処分にあたった約50人の人々は壮絶な光景を目の当たりにすることになりました。殆どの牛が酷い感染状態にあり、現場の人々は上司の指示を仰ぐまでの数時間、手をつけることができなかったということです。中には口蹄疫の潰瘍が治りかけているものもあり、まさにこのことは、ずっと以前から感染していたことを強烈に物語っています。

 

 

@地元紙「旬刊宮崎」と安愚楽牧場の訴訟

 いち早く安愚楽児湯第7牧場の感染隠ぺい疑惑を報じたのが地元紙・旬刊宮崎です。結果的にほぼ間違いのない詳報でしたが、この記事に対し安愚楽は即謝罪広告掲載等を請求する訴訟を宮崎地裁に起こしました。当時は全国の多くの人々が県に同情的でしたので安愚楽も強気に出たのでしょうが、その後地元農家からも初発の真相解明を求める声もあがり、いまとなっては訴訟を起こしたことを安愚楽は後悔しているかもしれません。何故なら、旬刊宮崎の記事はその後次々と明らかとなった事実に符合する内容だからです。この訴訟によって、逆に、安愚楽牧場の家畜伝染病予防法13条(届出義務)・14(隔離義務)違反が証明されるかもしれません。

 

 

@宮崎県畜産試験場が感染拡大の最大の原因か

 宮崎口蹄疫が今回これほどまでに被害が拡大したもう一つの大きな要因が、10例目の県畜産試験場の豚への感染です。豚は呼気中に牛の約3,000倍ものウイルスを放出し、県畜産試験場の日本で初めての豚への感染は、今回、感染ルートとして非常に重要な意味を持っています。しかし、これについても今のところ掘り下げた議論・言及はありません。県は292事例全てに書かれているはずの「調書」を公開していません。個人情報はふせて、調書(=実態)については公表すべきです。→グラフで見る発生戸数の推移(鹿児島大 岡本嘉六教授HPより)

 

 

@国と県の検証委員会が真実を解明することが極めて重要

 今回の宮崎口蹄疫を検証する上での最大のポイントは

県の調書捏造疑惑と

県・安愚楽双方の家畜伝染病予防法13条(届出義務)・14条(隔離義務)違反容疑の解明です。

そして家伝法違反を犯したものが手当金等を受け取ることは補助金適正化法違反です。

補助金適正化法には厳罰があり(29条~335年以下100万円以下)、知事もその対象となり得ます。

 

被害にあわれた農家の方々が、安心して畜産を再開することができるよう、真相究明は急務です。しかし現状では県も国も検証委員会や防疫調査チームをつくってはいるものの、明らかに真相解明からは逃げています。初発の疑いをかけられたままの水牛農家の青年は、冤罪に苦しみながら今厳しい生活を送っています。

 

このままでいいのか。

犯罪の疑惑から目をそらし、夢を追い東京から宮崎へ移住し起業した水牛農家の青年を追い詰めるだけ追いつめておいて、それで良いのか。

このブログではさらに真実の追求を続けます。

 

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