09マニフェスト実現財源~フローの埋蔵金・不用額の活用を検証する

〈はじめに〉

2010年9月14日民主党代表選で再選された菅総理の立候補政見(公約)には、次のように書かれています。

~2009マニフェストの実現に誠実に取り組む~

2009マニフェストは、政権交代実現のため、『国民の生活が第一』の理念に基づき、私たちが魂を込めてまとめたものです。これを疎かにはできません。子ども手当・出産支援などの子ども・子育て支援、高校の実質無償化、年金制度改革、農業の戸別所得補償を始め、盛り込まれた政策は、無駄削減に全力を挙げた上で、できる限り誠実に取り組みます。一方、財源の制約などで実現が困難な場合は、国民に率直に説明し理解を求めます。(「民主党代表選挙立候補政見」の3ページ目)

要するに、財源があれば09マニフェストを実現すると言っているのです。しかし、「財源がないからマニフェストを修正する」という言い訳を、菅総理は既に始めています。本当に財源はないのか、これまでツイッターでも断片的に述べてきましたが、09マニフェストの財源論を財務省が公表した数値をもとに、あらためて検証してみたいと思います。

 

〈実現したマニフェスト政策について〉

平成22年度予算で実現したマニフェスト政策は、

① 子ども手当(月額13,000円)1.7兆円

② 農業の戸別所得補償0.6兆円

③ 高校の実質無償化0.4兆円

④ その他0.4兆円  以上合計3.1兆円です。

現実には3.3兆円の財源が確保されましたが、これらの財源には公益法人の基金返納等の一時的な資金1兆円が含まれているので、実際には、経費削減などで2.3兆円の財源が既に確保されたことになります。(「平成22年度予算のポイント」の10ページ目を参照して下さい)

 

〈09マニフェストでの財源内訳について〉

09マニフェストには平成25年度実現(捻出)額として以下に示す通り16.8兆円の財源の内訳が明記されています。(「民主党マニフェスト2009」主に4ページ目を参照して下さい)

まず一般会計・特別会計合計207兆円の中から9.1兆円を削減。

① 公共事業7.9兆円から1.3兆円削減

② 人件費等5.3兆円から1.1兆円削減

③ 庁費・委託費・施設費・補助金(両会計合計49兆円)55.1兆円から6.1兆円削減

④ 議員定数削減による歳費カットと予算査定厳格化で0.6兆円

そして特別会計の政府資産の運用益=フローの埋蔵金や資産の活用で5.0兆円を削減。

⑤ 「埋蔵金」の活用4.3兆円

⑥ 政府資産の計画的売却0.7兆円

さらに租税特別措置などを見直して2.7兆円の財源確保(増税)。

⑦ 租税特別措置の見直し、扶養控除・配偶者控除廃止2.7兆円(私見:できれば扶養控除・配偶者控除は廃止すべきではないと思います。)

今年度(平成22年度)で確保された2.3兆円の財源は、①の公共事業削減1.3兆円と③の6.1兆円のうちの1兆円です。

今年度は、⑤の埋蔵金は、財政投融資特別会計から積立金(ストック)を3.4兆円・剰余金(フロー)を1.4兆円の合計4.8兆円と外国為替特別会計から剰余金(フロー、22年度分0.35兆円先取り分を含む)2.9兆円の合計7.7兆円を一般会計に繰り入れました。しかし、これは平成22年度マニフェストの財源にはなっていません。(「平成22年度予算のポイント」の14ページ目を参照して下さい)

従って、09マニフェストの方針通り、フローの埋蔵金である財政投融資特別会計と外国為替特別会計の運用益(外為特会の先取り分と財投特会の運用益減少を踏まえ推定3兆円)を、来年度(平成23年度)予算以降のマニフェスト財源とすることを民主党政権が政治決定(閣議決定等)すれば、来年度(平成23年度)以降、新たに毎年3兆円分のマニフェスト財源が確保されることになるのです。

 

〈補助金の一括交付金化について〉

今回の代表選で小沢一郎候補が強調した補助金の一括交付金化は、③のムダ削減の一部にあたります。

09マニフェストでは、国の総予算207兆円(一般会計と特別会計の重複を除いた純支出合計額)の中から次のような取り組みで6.1兆円を捻出するとしています(以下転載)。

a.天下りの在籍する独立行政法人・特殊法人・公益法人などへの支出(年間約12兆円)や国の契約(年間契約8兆円の約半分が随意契約)を見直して、国の政策コスト・調達コストを削減する

b.補助金(一般会計・特別会計合計49兆円)改革で関連の事務費・人件費を削減。また、国の過剰な基準を強制せず、地域の実情に合った基準を認めることで、低コストで質の高い行政サービスを可能にする。

c.独立行政法人・特殊法人・公益法人の仕事を徹底的に見直し、天下りのためにある法人・仕事は廃止して、その団体への補助金等を削減。(転載終わり)

以上a・b・cを実行することで09マニフェスト③の6.1兆円は削減できるということです。

小沢候補はこのうち、bの補助金改革の一般会計分(約21兆円)の中の、主として公共事業分約6兆円の補助金を一括交付金化すれば財源が捻出できる(最大1兆円程度)と述べていたのです。財源問題だけでなく地方分権・地域主権を推進するために非常に重要な指摘でしたが、財源としてはごく一部であり、今回の代表選での財源論争は不十分なまま終わってしまいました。

 

〈不用額について〉

一方、09マニフェストの財源論の冒頭に書かれている「ムダづかい、不要不急な事業を根絶する」ために、09マニフェストには書かれていませんが注目すべきものに「不用額」があります。不用額とは、予算に計上されたけれどその年度中に支出されなかったもので、平成21年度決算(平成22年7月30日概要発表)では、一般会計2兆1,552億円・特別会計16兆5,547億円・政府関係機関1兆773億円の合計19兆7,872億円となっています。(平成21年度決算不用額

これら不用額は、一般会計分は補正予算や国債償還の財源、特別会計は繰越金や積立金等に通常充てられています。不用額は毎年発生し、フローの剰余金にあたるので、来年度(平成23年度)予算については、平成21年度決算一般会計不用額相当分約2兆円を民主党政権の政治決定(閣議決定等)によってマニフェスト財源とすることができるのです(補正予算の財源は一時的なものなのでストックの埋蔵金をあてれば良い)。一般会計分(決算剰余金)を補正財源に充てた場合でも、特別会計分不用額から2兆円をマニフェスト財源とすればよいのです。

不用額は、予算書・決算書では施策ごとの歳出単位である「項」ごとに計算されています。平成21年度決算では、一般会計で970項・特別会計で335項でした。ムダや不要不急のものが残ったままでも約20兆円の不用額が毎年発生しています。現在行われている「事業仕分け」も「行政事業レビュー」も、この「項」を単位に内閣と国会との総力で毎年不断に取り組むべきものだと思います。09マニフェストに示された財源の中の4,500余ある天下り公益法人も、4兆円の随意契約も、49兆円の補助金改革も、全てはこの「項」の中に潜んでいるのです。(平成21年度決算における(項)数項のうちわけ

 

〈まとめ〉

以上のことから、来年度(平成23年度)予算では、財政投融資特別会計と外国為替特別会計の運用益3兆円と、ひとまず平成21年度決算不用額(19兆7,872億円)の中から2兆円を確保し、合計5兆円を09マニフェスト財源とすべきだと思います。そうすれば、平成22年度マニフェスト実現分3.1兆円と合わせて、政権交代2年目で公約の半分にあたる8.1兆円分のマニフェストを実現できるということになるのです。

その上で、「項」ごとの事業仕分け・行政事業レビューを毎年四半期ごとに徹底的に行って、ムダの削減・不要不急の予算の執行停止を実行していく必要があると思います。

更に、国家公務員人件費の2割削減、政府金融資産約500兆円(平成20年度末確定。年金積立金130兆円、財政投融資資金200兆円、外貨準備100兆円、その他の特別会計積立金60兆円、その他独立行政法人・公益法人などの内部留保10兆円 下記リンク参照)の運用益の拡大などを目指せば、4年間で16.8兆円の09マニフェスト財源は、増税をしなくても十分に可能であり、同時に財政再建もまた十分に可能であると確信します。

いずれにしても09マニフェストに明記されている財源論は、財務省によってブラックボックスとされてきた国家会計の真実を探る上での突破口です。すべては、民主党政権が政治主導の真髄を発揮できるかどうかにかかっています。(財政再建論は別稿で考察したいと思います)。

 

 〈参照リンク〉

平成22年度予算のポイント(財務省HP)

平成21年度決算概要(財務省HP)

平成21年度決算不用額(財務省資料)

平成21年度決算における(項)数(財務省資料2010.8.10現在)

項のうちわけ(財務省資料)

年金特別会計~年金積立金は8~9ページ(財務省HP)

財政投融資特別会計~財政投融資資産は13ページ目(財務省HP)

外国為替資金特別会計~外貨準備高は2ページ目(財務省HP)

特別会計の積立金等一覧:平成20年度決算処理後残高(財務省資料)

特別会計のはなし(財務省HP)

 

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