シンドラーに発注した住宅公社 6月9日

「事故が起こるのは、保守点検の方法か、乗客の乗り方に問題がある」とのシンドラー社の見解は、あまりにも無責任で異常だ。しかし、シンドラーエレベーターの保守点検技能を有する人材がメンテナンスにあたっていたはずが、実際には、港区の住宅公社の事故機は、ブレーキを制御するブレーキパッドが磨耗し、緊急停止できない状況にあったことも事実だ。定期的に交換されるべき部品が、交換されぬまま放置された原因は、マニュアルの不備かメンテナンス会社の職務怠慢かのいずれかだ。

シンドラーエレベーターを発注した自治体は、単に価格だけが比較の対象だったのだろうか。安全性に関する調査を行わず採用を決定していたのだとすれば、自治体の責任も問われなければならない。更に、住宅公社の場合がそうであるように、殆どの自治体や国などの公共機関が、メンテナンス会社についても入札制度を導入している。その結果、本来期待されるべきメンテナンスが行われず、今回のような重大な事故を誘発させてしまったのだ。単に価格だけを選択の基準にした自治体や国などの公共機関の入札制度の在り方そのものにも、大きな問題があったと言える。責任の所在は、シンドラー社にとどまらない。

保守点検の不備が事故の原因だとするシンドラー社の主張は、シンドラー社のエレベーターが、そもそも、ドアが完全に閉まらぬまま動き出したり、人をはさんだまま動き出したりする可能性があるということを意味するものだ。世界中で続出するシンドラー製エレベーターのトラブルの状況を見ると、明らかにエレベーターの性能そのものにも問題があることが容易にうかがえる。シンドラーエレベーターは、紛れもない欠陥商品だ。世界シェア2位のシンドラー社が、製品のリコールに踏み切らない理由はただ一つ。自己の利益の追求だ。少年が犠牲になった港区の事案は、明らかにPL法の対象であり、耐震偽装問題同様に刑事訴追を免れるものではない。

いまだに謝罪の言葉を一言も発しないシンドラー社の本拠地は、永世中立国を標榜するスイスだ。しかしスイスには、北朝鮮に加担するプライベートバンキングが存在したり、米国政府要人へのインサイダーの疑いが濃厚なタミフルの製造メーカーであるロッシュが本社を置くなど、その片鱗をうかがわせる要素がある。最悪の事態を招きながら、メンテナンス会社に責任をなすりつけたり、「乗り方に問題がある」と耳を疑うような主張をするシンドラー社を、日本の法律は許さないはずだ。価格だけを指標とする公共機関の入札制度そのものも改めるとともに、少なくとも公共機関は、今後はシンドラー社を指名から除外すべきだ。

六本木ヒルズの回転ドアといい今回の事件といい、最悪の事態が発生しない限り、十分な安全対策は講じられない。エレベーターが危険なら当然エスカレーターも危険。特に公共機関は、安全面の再点検を早急に実施する必要がある。一方で公共機関は、入札制度自体を、あらためて見直さなければならない。都知事公舎に数百億円かけるくらいなら、高くても信頼のおけるエレベーターを選択すべきなのだ。一事が万事、税金は納税者の安心・安全のために使われなければならない。シンドラー社の姿勢は最悪だが、そのシンドラーを選んだ自治体にも、間違いなく大きな責任がある。愛すべき国家であるためには、今回のエレベーター事件に対して、公共機関が責任を回避するような態度をとっては、絶対にならないのだ。
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