中外製薬が自主回収「米国産ウシ由来の医薬品」 6月20日

中外製薬が、米国産ウシ血清を原料に使用していたとして、2002年から2003年にかけて出荷した2種類の医薬品(腎性貧血治療薬「エポジン」、白血球減少治療薬「ノイトロジン」)約90万本の自主回収に乗り出していることが判明した。米国でのBSE発生を受けて、ウシ等由来の原材料を使用する医薬品約2,100品目について、厚労省は当該原材料の原産国の変更を各メーカーに指導していた。たとえ治療上の効果がリスクを上回るとしても、原則としては認められない原材料なのに、期限やペナルティを課さない指導の結果、本年1月27日現在も尚、19品目の医薬品に米国産ウシ由来の原材料が使用されていることが、厚労省の発表によりわかっていた。

即ち、本年1月27日現在公表された19品目以外の医薬品については、ウシ由来原材料を米国から他のBSE未発生国に変更しているはずだったのだ。ところが、今日の報道によって、中外製薬が虚偽の報告をしていたことが判明したのだ。中外製薬は、「米国産ウシ血清を使用した製剤はすべて廃棄処分にしたつもりだったが、集計資料で『米国産』を『豪州産』と誤って記載した。人為的ミスの疑いが強い。」と釈明しているが、「すべて廃棄処分にしたつもりだった」のくだりは、にわかには信じ難く、誠実さに欠ける企業スタンスを自ら露呈させるものとなった。先週、川内博史代議士より、BSEに関する質問主意書が提出された直後の報道だけに、中外製薬の後手後手のリスク管理に不信感は募るばかりだ。

中外製薬は、カプセルの原料のゼラチンに米国産ウシを使用していた抗インフルエンザ薬「タミフル」について、2004年11月の出荷分から当該原材料の原産国を米国からオーストラリア・ニュージーランド・アルゼンチン・インドに変更したと発表している。いずれも、現段階でBSE発生の報告のない国々であるが、BSEの検査体制が整備されていないことが理由でBSEフリーとみなされているインドについては、重大なリスクが懸念されるのだ。

途上国であるインドで、BSEあるいはcVJD感染を確定することは非常に困難だ。インドで最初にCJDが報告されたのは1965年、その後1968年~1997年の間に報告されたCJD症例数は69例だ。先進国のデータを基に推計すると、インドでは年間150人程度がCJDを発症する計算になり、国民の8割がヒンドウ教徒であることを考慮すると、CJD感染の疑いのある遺体が年間約120体、川に流されていることになるのだ。流された遺体は、貧しい農民らにより収拾され、肥料や飼料に加工され、少なくとも1950年代から輸出が始まり、結果、それが英国のBSE発生の一因になった可能性があると、2005年9月、医学ジャーナリストの大西淳子氏が指摘している。

中外製薬は、何故、ウシ由来原料の原産国を米国から他の国に変更しなければならないのか、根本的な部分を正しく理解していない。大なり小なり必ず副作用を伴う医薬品は、両刃の剣であるからこそ、製薬メーカーには細心の注意が求められる。ベネフィットとリスクとを天秤にかけベネフィットを優先する場合でも、リスクは最小限に食い止められなければならないのだ。本年1月時点でなお原産国を変更できない理由について、「原産国を変更すると培養過程に微妙な変化が生じ、スムーズな生産ができなくなる。」とのメーカーの弁明は、説得力がないどころか、責任を放棄した企業の怠慢を示す言葉以外の何ものでもない。

今回の中外製薬の自主回収を受け、厚労省は、他にも同様のケースがないかどうか、都道府県を通じて各製薬メーカーに点検を求めるそうだが、そもそもは、厚労省のリスクマネジメントの甘さが底流にある。黒塗り報告書を国民に公表しておいて、米国食肉加工施設の安全性は確保されたと厚労省が主張する根拠は、いったいどこにあるのか。厚労省が守るべきは、米国の畜産業者や大手パッカーであって、日本の消費者ではないということなのか。一事が万事、こんにちまで厚労省は、患者の安全よりも、製薬メーカーの利益を優先してきた。明日21日判決が言い渡される薬害C型肝炎集団訴訟も、厚労省のリスク管理の甘さが招いた悲劇だ。最後に泣くのは、リスキーな医薬品を投与された患者であり米国産牛肉を食した消費者なのだ。

リスクマネジメントは、性悪説に立たなければ成り立たない。二度と厚労省が、「国民への加害行為」の片棒をかつぐことのないように、製薬メーカーへの天下りを禁止し、厚労省は徹底した情報開示に努めなければならないのだ。
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