「特別展 菱田春草」(後期展示) 明治神宮文化館

明治神宮文化館 宝物展示室(渋谷区代々木神園町1-1
「特別展 菱田春草」(後期展示)
10/3-11/29(前期:10/3-10/29 後期:10/31-11/29)



前期展示に引き続き、作品の大半の入れ替わった「特別展 菱田春草」へ行ってきました。

なお展示の概要などは前回の感想にまとめました。あわせてご参照下さい。

「特別展 菱田春草」(後期展示) 明治神宮文化館

それでは早速、後期に出ていたものより印象に深い作品を挙げてみます。(カッコ内は所蔵館)



「雀に鴉」(東京国立近代美術館)
リズミカルに伸びる枝を大きく振りかざした木に一羽の鴉と無数の雀がとまっている。モノトーンかと思いきや、木に付いた苔など、仄かな緑色が混じっているのが趣深い。全体からは非常に静謐な空気が感じられるが、近寄ると雀が口を開けていたりして、そのさえずりが聞こえてくるようで楽しかった。ちなみに本作は明治天皇の御遺愛の品とされている。まさに今回の場所に相応しい展観ではなかろうか。

「海老にさざえ」(東京藝術大学)
写実にも学んだ春草の一面を伺い知る一枚。立派な伊勢エビとさざえが西洋の静物画ならぬ細やかな質感表現にて示されている。海老を覆う無数の突起、それにさざえのゴツゴツとした表面の様子までが再現されていた。

「牧牛」(長野県信濃美術館)
狩野派風の古い木の描写を背景に、牛と戯れる童の様子が描かれている。靄のかかった大地は幽玄だった。

「牧童・秋草に鶏」(水野美術館)
右を大観が、左を春草が描いたという贅沢な合作。細やかで装飾的な秋草を描く春草に対し、どっしりとした黒い牛を描く大観と、それぞれの絵師の特徴も良く表れていた。

「湖畔の夕」(長野県信濃美術館)
湖畔の夕景を素朴なタッチで描いている。縦方向に長い軸画にも関わらず、横方向への広がりを意識させる構図感が絶妙。

「月四題」(山種美術館)
山種でも四幅揃いで展示されることは珍しいのではないだろうか。月を背に、春夏秋冬の草木の情景を軽妙な筆遣いにて描いている。やはり印象深いのは月明かりに沈む儚気な桜を描いた春の風景。自分の中で春草を意識したはじめての作品ということもあってか、特に感慨深いものがあった。

「夜桜」(飯田市美術博物館)
後期展示で一推しの一枚。セピア色の虚空には桜の立ち木が物悲しく浮遊するかのように立ち並ぶ。今にも闇に消えてしまいそうな桜の風情は、春草が故郷の様子を想ったその心象に由来するのだろうか。(春草は本作を米国に滞在中に描いた。)



当然ながら前期同様、春草の画業の全貌を知るにも相応しい壮観なラインナップでした。

「菱田春草/新潮日本美術文庫」

いつかは東近美クラスの箱でとは思ってしまうものの、ありそうでなかった春草の回顧展を開催した明治神宮には素直に感謝したいと思います。ありがとうございました。

春草は晩年をここ代々木の地で過ごしました。ゆかりの地での回顧展を是非ともお見逃しなきようご注意下さい。

11月29日までの開催です。おすすめします。
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