都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「特別展 菱田春草」(前期展示) 明治神宮文化館
明治神宮文化館 宝物展示室(渋谷区代々木神園町1-1)
「特別展 菱田春草」(前期展示)
10/3-11/29(前期:10/3-10/29 後期:10/31-11/29)

明治神宮文化館宝物展示室で開催中の「特別展 菱田春草」を見てきました。
まずは本展の概要です。
・春草の終焉の地でもあり、また代表作「落葉」のモデルともなった代々木の森(現明治神宮)での回顧展。
・出品は全60点。会期は前後期の二期制。一度の展示替えにて、ほぼ全ての作品が入れ替わる。(前後期各30点。)
・富山県美、水野、遠山記念館など、日本各地の美術館所蔵の春草作品を展観。前後期あわせれば、都内にて近年、これほどの規模の春草展が開催されたことはない。
上述の通り前後期各30点ほどの出品ということで、決して量で圧倒する展示ではありませんが、終の住処を構えた縁の土地で見る回顧展もまた趣き深いものがありました。早速、前期中より印象に残った作品を並べてみます。
「竹に猫」(水野美術館)
入口すぐ脇の展示ケースに置かれた屏風絵。やや凛々しい表情をした猫が、竹の方をじっと見据えている。竹との間にある余白の効果だろうか。竹と猫との間に流れる奇妙な緊張感も面白い。

「落葉(未完)」(個人蔵)
最も有名な永青文庫所蔵の「落葉」ではなく、数バージョンある類似したモチーフの中の一点。未完作ということだが、ともかく興味深いのは、他作にはない隆起する大地が描かれていること。永青の「落葉」が、うっすらと靄に包まれた静寂の空間に奥行きがあるのに対し、本作は前へと迫り出してくるような力強さが感じられる。なお今回は福井県立美術館所蔵の「落葉」のパネルが紹介されているので、それとの比較もまた楽しめるのではないだろうか。
「秋景山水」(東京藝術大学)
狩野派風の山水画。橋本雅邦に学んだというその出自が伺える。荒々しい岩山の渓谷に潜む小さな猿が何とも可愛らしかった。
「伏姫」(長野県信濃美術館)
南総里見八犬伝に画題を求めた一枚。池の前にて今にも自刃しようとする伏姫の姿が描かれている。画面を半分に分け、上に「落葉」風の余白のある林、そして下にその黒い影がのびる池が広がっている構図も良かった。水面にもうつる姫の様子は物悲しい。
「武蔵野」(富山県立近代美術館)
秋草の広がる大地の彼方に富士がそびえる。全てが永遠に続くかのような深淵でかつ雄大な景色に心惹かれた。かつての春草が見た代々木の武蔵野もこのような様子だったのだろうか。

「躑躅図」(遠山記念館)
艶やかなツツジがうっすらと芝色を帯びた山裾に群生する。その滲みだす色のコントラストが美しい。ツツジの花々も時に色を変えて細かく描かれていた。

「かけす」(個人蔵)
朴の木の枝にカケスがとまる。抱一の十二ヶ月花鳥図の一幅を思わせるような牧歌的な表現が良い。淡彩の中での浮かび上がる葉の金色の葉脈は琳派表現にも通じるものがあるのだろうか。
なお絵画の他、春草の書簡などもいくつか紹介されています。また図録はやや小さめでしたが、詳細な解説も掲載された本格版でした。(一冊1500円)

勝手ながらも明治神宮内の宝物室というと古びた施設をイメージしてしまいますが、実際には土産物屋や飲食スペースなども併設する真新しい建物で驚きました。なおガラスケースと作品がやや遠い箇所もあるので、単眼鏡などを用意しても良いかもしれません。
開館時間が明治神宮の開門時間に準じます。10月中の最終入場は16時まで、また11月は15時半(閉館時間は各30分後)とやや早めです。ご注意下さい。
後期には、神宮の祭神でもある明治天皇御遺愛の「雀に鴉」(東京国立近代美術館)が登場します。もちろんそちらも追いかけるつもりです。(追記:後期展示も見てきました。感想は下記リンク先へどうぞ。)
「特別展 菱田春草」(後期展示) 明治神宮文化館
前期展示は10月29日まで開催されています。
「特別展 菱田春草」(前期展示)
10/3-11/29(前期:10/3-10/29 後期:10/31-11/29)

明治神宮文化館宝物展示室で開催中の「特別展 菱田春草」を見てきました。
まずは本展の概要です。
・春草の終焉の地でもあり、また代表作「落葉」のモデルともなった代々木の森(現明治神宮)での回顧展。
・出品は全60点。会期は前後期の二期制。一度の展示替えにて、ほぼ全ての作品が入れ替わる。(前後期各30点。)
・富山県美、水野、遠山記念館など、日本各地の美術館所蔵の春草作品を展観。前後期あわせれば、都内にて近年、これほどの規模の春草展が開催されたことはない。
上述の通り前後期各30点ほどの出品ということで、決して量で圧倒する展示ではありませんが、終の住処を構えた縁の土地で見る回顧展もまた趣き深いものがありました。早速、前期中より印象に残った作品を並べてみます。
「竹に猫」(水野美術館)
入口すぐ脇の展示ケースに置かれた屏風絵。やや凛々しい表情をした猫が、竹の方をじっと見据えている。竹との間にある余白の効果だろうか。竹と猫との間に流れる奇妙な緊張感も面白い。

「落葉(未完)」(個人蔵)
最も有名な永青文庫所蔵の「落葉」ではなく、数バージョンある類似したモチーフの中の一点。未完作ということだが、ともかく興味深いのは、他作にはない隆起する大地が描かれていること。永青の「落葉」が、うっすらと靄に包まれた静寂の空間に奥行きがあるのに対し、本作は前へと迫り出してくるような力強さが感じられる。なお今回は福井県立美術館所蔵の「落葉」のパネルが紹介されているので、それとの比較もまた楽しめるのではないだろうか。
「秋景山水」(東京藝術大学)
狩野派風の山水画。橋本雅邦に学んだというその出自が伺える。荒々しい岩山の渓谷に潜む小さな猿が何とも可愛らしかった。
「伏姫」(長野県信濃美術館)
南総里見八犬伝に画題を求めた一枚。池の前にて今にも自刃しようとする伏姫の姿が描かれている。画面を半分に分け、上に「落葉」風の余白のある林、そして下にその黒い影がのびる池が広がっている構図も良かった。水面にもうつる姫の様子は物悲しい。
「武蔵野」(富山県立近代美術館)
秋草の広がる大地の彼方に富士がそびえる。全てが永遠に続くかのような深淵でかつ雄大な景色に心惹かれた。かつての春草が見た代々木の武蔵野もこのような様子だったのだろうか。

「躑躅図」(遠山記念館)
艶やかなツツジがうっすらと芝色を帯びた山裾に群生する。その滲みだす色のコントラストが美しい。ツツジの花々も時に色を変えて細かく描かれていた。

「かけす」(個人蔵)
朴の木の枝にカケスがとまる。抱一の十二ヶ月花鳥図の一幅を思わせるような牧歌的な表現が良い。淡彩の中での浮かび上がる葉の金色の葉脈は琳派表現にも通じるものがあるのだろうか。
なお絵画の他、春草の書簡などもいくつか紹介されています。また図録はやや小さめでしたが、詳細な解説も掲載された本格版でした。(一冊1500円)

勝手ながらも明治神宮内の宝物室というと古びた施設をイメージしてしまいますが、実際には土産物屋や飲食スペースなども併設する真新しい建物で驚きました。なおガラスケースと作品がやや遠い箇所もあるので、単眼鏡などを用意しても良いかもしれません。
開館時間が明治神宮の開門時間に準じます。10月中の最終入場は16時まで、また11月は15時半(閉館時間は各30分後)とやや早めです。ご注意下さい。
後期には、神宮の祭神でもある明治天皇御遺愛の「雀に鴉」(東京国立近代美術館)が登場します。もちろんそちらも追いかけるつもりです。(追記:後期展示も見てきました。感想は下記リンク先へどうぞ。)
「特別展 菱田春草」(後期展示) 明治神宮文化館
前期展示は10月29日まで開催されています。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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永青の「落葉」との違い、奥へ引き込まれる感じと手前に迫る感じ…
本当におっしゃる通りですね。
初めて伺いましたが、参拝者の観光施設の賑わいと、展示室内の静謐な空気が対照的でした。
後期も楽しみです。
縁のある場所で見る「落葉」も格別でしたね。
>観光施設の賑わいと、展示室内の静謐な空気
中は空いていましたね。良い展示なので少しでも多くの方に見てもらえればと思いました。
>後期
もちろん行きます!
はろるどさんのつぶやきのおかげで観ることができました。
私的には今年の目玉と言えるかもしれません。
どうもありがとうございました。
>つぶやき
いえいえわたしももかさんのブログで初めて春草展の存在をしりまして…。
つぶやきがお役に立てたようで嬉しいです。
>目玉
春草良いですよね。縁の地というのがまたgoodでした。