功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

迫れ!未公開格闘映画(3)『Trinity Goes East』

2017-10-15 22:55:29 | マーシャルアーツ映画:中(2)
Trinity Goes East
中文題:三位一體雲東
製作:1998年

●映画監督のケン・ラッセルを父に持ち、世界的な功夫映画マニアとして多方面で活躍しているトビー・ラッセル。私が彼の名を知ったのは、功夫映画評論家・知野二郎氏の著作「龍熱大全」を読んだことが切っ掛けでした。
トビーは単に功夫片の批評のみならず、『死闘伝説/ベスト・オブ・アクション』『死闘伝説TURBO!!』といった傑作ドキュメンタリーを製作。自ら香港映画の撮影現場にも立ち入るなど、ディープかつアクティブなアプローチで功夫片と向かい合っています。
 時には裏方から飛び出し、俳優としてアクションまで見せているトビーですが、そんな彼が製作総指揮を務めたのが『Trinity Goes East』です。この作品は直前に彼が手掛けた『Fists of Legend 2』と違って、完全オリジナルの新作として作られました。
ただ、監督はトビーと一緒に仕事をしてきた戴徹(ロバート・タイ)が務め、香港・台湾から多数の功夫アクターが集結。製作も東南アジアで行われており、まったくもって格闘映画に見えないのですが…まぁ細かい事は気にしない方向で行きましょうか(爆

 ストーリーは神秘の秘宝・龍の玉を巡って、泥棒のスティーブ・タータリア(『天地黎明』)、捜査官で子豚を飼ってるロベルト・ロペス(体格は太めだが現役のスタントマン)、石天龍(最狂のバッタもん李小龍)が巨悪と戦う様子を描いています。
主役サイドだけでも濃いメンツが揃っていますが、注目すべきは敵ボスを『南拳北腿』の劉忠良(ジョン・リュウ)が演じているという点でしょう。劉忠良はテコンドー仕込みの足技で香港映画を席巻し、70年代末期を中心に活躍した武打星です。
しかし徐々に時流から取り残され、いつしか表舞台から姿を消してしまいました。あれから20年近いブランクを経ての電撃復活ですが、本作でも鋭い蹴りは健在! ラストでは過去の因縁から石天龍と対峙し、世代を超えたドリームマッチを披露しています。

 ところが、ストーリーは子豚を追いかけて七転八倒するパートが大半を占めており、後半には瀕死の子豚をロベルトが抱きしめて涙する…という展開に。おかげで作品から殺伐さが消え、なんとも気の抜けた雰囲気で占められています。
私としては主役3人が秘宝を奪い合い、騙し騙されるような丁々発止のアクションを期待していたので、これには盛大な肩透かしを食らってしまいました。一応、この子豚が秘宝を飲み込んだという設定になっているんですが、いくらなんでもこれはなぁ…。
 また、ヒロインの存在意義が皆無だったり(お色気シーンすら無し)、キャラクター同士の掛け合いがパッとしなかったりと、ドラマにおける粗がいくつも浮き彫りとなっています。
そういえば本作の監督である戴徹は、過去の作品で必ず血とオッパイを乱舞させていました。しかし、今回は作品の雰囲気を考慮して暴力的な演出をカットしており、彼としても本調子では無かったのかもしれません。
 ただ、その一方で功夫アクションは相変わらず激しく、90年代になっても変わらない早回しファイトが炸裂! 序盤から石天龍と戴徹がバチバチと殴り合い、ロベルトによる軽快な棒術アクション、スティーブの派手な蹴りも見応えバッチリです。
後半ではロベルトがニンジャ軍団に立ち向かい、若山富三郎もビックリのハイテク乳母車で子豚がニンジャを大虐殺! 最後の石天龍VS劉忠良に至るまで、ハイテンションなバトルが各所で繰り広げられていました。
 功夫片に近付きすぎて格闘映画としての意義を失った作品は幾つもありますが、本作は夢の対決を目玉イベントとして用意しています。作品としては珍作止まりではあるものの、トビーの功夫片に対する思い入れが窺える一篇…と言えるでしょう。
さて次回からはアメリカ本国に戻りますが、登場するのは中国から来た少林僧!? ハリウッドで密かに主演作を作り続ける、謎のカンフー・アクターに迫ります!