功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『少年蘇乞兒』

2010-10-14 23:26:43 | ショウ・ブラザーズ
少年蘇乞兒
英題:The Young Vagabond
製作:1985年

▼1985年。かつて香港映画界の頂点に君臨していた業界最大手ショウ・ブラザーズにも、とうとう最後の時が訪れようとしていた。
同社の体制に反発したスタッフが次々と離脱し、対抗馬だったゴールデンハーベストも急成長を遂げた。観客の需要は功夫片から現代劇に代わり、更にはショウブラの立役者であった邵仁枚(ラミー・ショウ)が死去…勢いを失ったショウブラは映画製作から撤退し、活躍の場をTVへと移すこととなった。
 本作はそんな断末魔の年に作られたもので、『酔拳』で有名な酔いどれ師匠「蘇乞兒」を題材にしたコメディ功夫片なのだが…既に当時は現代アクションが主流となっており、コテコテの功夫片を作るにはあまりにも時機を逸している。
『ヤング・マスター』を意識した作風といい、どうしてこの時期に本作みたいな映画を作ったのか、まったくもって意図が解らない作品なのだ(ただし、製作年度に関しては1982年説もある)。

■劉家輝(リュー・チャーフィ)と汪禹(ワン・ユー)は良家の御曹司だが、いつも問題を起こしてばかりの暴れん坊兄弟であった。
行く先々でトラブルを起こす2人は、親の薦めで洋風の学校(カトリックハイスクール?)に編入させられるも、騒動を起こしたせいで劉家輝は退学処分に。結局、前に通っていた学校へ舞い戻った劉家輝であったが、教師の白彪(ジェイソン・バイ)が酔拳の達人だと知り、彼に酔拳を教わろうと思い立った。
 その後は色々とドタバタが続き、劉家輝が同級生だった黄曼凝の家に居候したり、黄曼凝の父親が警察隊長の谷峰だったり(ここの流れが『ヤング・マスター』にそっくり)、白彪の宿敵である王龍威が彼を殺害したり、その王龍威が次の目標を劉家輝に定めたりとユルい展開が続いていく(この間ずっとギャグだけで話が進むため、功夫アクションを期待している人にはかなり厳しいかもしれない)。
ところが、ラスト15分ごろに黄曼凝や劉家輝の親族全員が殺害される(!)という急展開を迎え、激怒した劉家輝は乞食の格好で王龍威と対決する。この劉家輝の姿が『ヤング・マスター』の黄仁植(脱獄する時)と酷似していて、がむしゃらな戦法で勝利するあたりも『ヤング・マスター』似。最後は王龍威の首筋を食いちぎった劉家輝が雄叫びを上げたところで唐突に映画は終わる。

▲王晶(バリー・ウォン)が脚本を担当しているせいか、本作はとにかくコメディ描写が多い。
そのため功夫アクションの割合は少なく、蘇乞兒が主人公なのに目立ったバトルは3~4回ぐらいしか用意されていない。それならそれでコメディ描写が楽しければ良いのだが、本作のギャグはくどい上に笑えないものばかり。功夫片なのにサッカーの試合をしたりと、王晶らしいフリーダムさはあるんだけど…。
 また、劉家輝・汪禹・白彪・王龍威・關鋒と猛者が揃っているのに、劇中の功夫アクションは精細さを欠いている。王龍威の部下が繰り出すムカデ部隊?はゴチャゴチャしているだけで、殺陣も雑さばかりが目に付く。そのうえ、作中で劉家輝が習った酔拳は実戦で全然使わないし、汪禹と關鋒はロクな見せ場も無いまま退場している。ただでさえ功夫アクションが少ないのに、いくらなんでもコレは酷いよ!(涙
ショウブラ晩年の動乱期に作られた作品だが、屋台骨が傾いてるだけあって散々な内容となっている本作。同じタッチの『弟子也瘋狂』はキャスティングが豪華なのでまだ見られたが、本作の場合は上記の通りの出来なのでスルーしてもOKかと。ただ、最後の劉家輝VS王龍威はそこそこ壮絶だったりします(しかし時間が短すぎる上に結末が…)。