功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『燃えよデブゴン!お助け拳』

2010-09-28 23:23:13 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「燃えよデブゴン!お助け拳」
原題:用牙老虎
英題:Two Toothless Tigers
製作:1980年

▼動けるデブ、香港映画界のドン、香港映画界のスピルバーグと、様々な2つ名を持つ男・洪金寶(サモ・ハン・キンポー)。彼は今までに多くの傑作を手掛けてきたが、その中から1つだけ代表作を選ぶとするなら、誰しも『燃えよデブゴン』を真っ先に思い浮かべるはずだ。
『燃えよデブゴン』は太っちょの李小龍(ブルース・リー)オタクが暴れまわる快作で、サモハンが劇中演じるファイト・シーンは李小龍そのものだった。このイメージがあまりにも強烈だった事から、日本では幾つものサモハン出演作が「デブゴン」として公開されるようになっていく。以下はデブゴンの名が冠されたサモハン映画を列挙したものである。

『燃えよデブゴン2(燃えよデブゴン/正義への招待拳)』『燃えよデブゴン3(燃えよデブゴン/カエル拳対カニ拳)』『燃えよデブゴン4/ピックポケット!』『燃えよデブゴン5(モンキーフィスト/猿拳)』『燃えよデブゴン6(燃えよデブゴン/豚だカップル拳)』『燃えよデブゴン7』『燃えよデブゴン8/クンフー・ゴースト・バスターズ(鬼打鬼)』『燃えよデブゴン9(プロジェクトD)』『燃えよデブゴン10/友情拳』
『デブゴンの太閤記(燃えよデブゴン/出世拳)』『斗え!デブゴン(燃えよデブゴン/地獄の危機一髪)』『デブゴンの快盗紳士録』『デブゴンの霊幻刑事(オバケだよ!全員集合!!)』『帰って来たデブゴン/昇龍拳(ペディキャブ・ドライバー)』『痩せ虎とデブゴン』…そりゃサモハンの代名詞といったらデブゴンだけど、いくらなんでもデブゴンって付けすぎだ!(爆

 題名こそ連番になっているものの、製作年度も時代設定もキャラクターも全てバラバラ。関係しているのはサモハンが出演しているというだけで、時には助演だったり師匠だったりする場合もある。おおらかな時代だったとはいえ、こんなムチャクチャなナンバリングをよくしたなぁ…と思えるようなタイトル群だ(笑)。これらの作品はほとんどがビデオやDVDで発売されているため、その気になれば国内版のソフトで全部揃えることも不可能ではない。
そんな中にあって、国内版が発売されず入手困難な作品が本作『燃えよデブゴン!お助け拳』なのである(『友情拳』『太閤記』あたりもレア度高し)。本作の主演は例によってサモハンではなく、まだ悪役に染まりきっていなかった頃の袁信義(ユエン・シンイー)が扮している。また、本作はいわゆるサモハン・コメディの初期作品にあたり、サモハンの試行錯誤っぷりも垣間見ることが出来る。

■袁信義はサモハン旦那のメシ屋で下働きをしている見習い料理人。あるとき彼はゴロツキ一味の邸宅へ出張サービスに向かったのだが、そこでは袁信義(一人二役)派と李海生(リー・ハイサン)派が財宝を巡って対立していた。そんな一触即発な状況の中、野心家で袁信義派の腹心・鐘發(チュン・ファト)は一派の乗っ取りを画策していた…もちろん目的は財宝の独占である。
まず鐘發はボス袁信義を暗殺すると、彼とソックリな袁信義を偽ボスに仕立て上げ、一派を完全に掌握。計画はスムーズに進み、最強の殺し屋・王龍威(ワン・ロンウェイ)を雇い入れて、李海生派を壊滅させたところまでは順調だった。ところが、財宝の地図を入手した鐘發は組織からトンズラし、用済みとばかりに袁信義を捨て駒にしたのだ。
まだ依頼料を貰ってなかった王龍威はカンカンになり、袁信義をタコ殴りにすると鐘發をも始末してしまう。サモハンの協力で逃げ出した袁信義であったが、追ってきた王龍威は「地図に何も書いてないぞ!」と怒り心頭で襲い掛かってきた。果たして2人の運命は、そして財宝の在りかは…?

▲財宝を巡る争奪戦とそこから巻き起こる騒動を描いた作品だが、残念ながら失敗作である。鐘發が袁信義を陥れるくだりが冗長だったり、袁信義が料理人であるという設定が何の意味も無かったり、登場人物をその場の都合で殺してしまうなど、ところどころでアラが目立つ。試み自体は革新的ではあったものの、当時はまだサモハン・コメディは未成熟だったということだろうか。
ちなみに本作の監督はサモハン組初参加となる劉觀偉(リッキー・リュウ)。彼としては『無招勝有招』に次ぐ監督2作目となったが、今回の失敗で本職のカメラマンに戻っている。彼が監督3作目の『霊幻道士』を撮るのは本作から5年後の事で、そこから先は皆さんもご存知の通り、一大キョンシーブームが花開いていくこととなる。

 結果的に不十分な出来となってしまったが、サモハン映画なので功夫アクションは上質かつ一級品。本作における最大の注目点は、ショウ・ブラザーズの名悪役・王龍威の存在だ。王龍威はそのドッシリとした功夫アクションを武器に、香港映画最大手のショウブラでナンバー1の悪役として君臨し続けた。その豪腕で劉家輝(ゴードン・リュウ)や傅聲(アレクサンダー・フーシェン)らと闘ってきた、まさに猛者中の猛者なのだ。
ショウブラを本拠地として活動していた王龍威は、内部のスターとは飽きるほど対決しているが、外部のスターとはほとんど接点が無かった。そこにきて本作は、李海生VS王龍威!鐘發VS王龍威!袁信義&サモハンVS王龍威!と、たっぷりレア対決を見せてくれるのだから堪らない(嬉)。洪家班・袁家班・ショウブラが勢揃いしたラストバトルも必見だが、個人的には身軽な相手を実力で追い詰めていく鐘發VS王龍威がオススメだったりします。
ところで、王龍威のスタントダブルは…もしかして[上下]薩伐?(最後の蹴りとか非常にそれっぽい気が…)。