功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『死亡挑戰』

2010-09-18 23:29:32 | カンフー映画:佳作
死亡挑戰
英題:Bloody Ring/Mandarin Magician
製作:1974年

●十分な実力があるものの、いざ実戦となると発揮できずにボチボチ止まり…そんな不遇な男が香港にいた。彼、李錦坤(ラリー・リー)は剛柔流空手の猛者でありながら、出演する映画はどれもB級ばかり。作品に恵まれないまま映画界をフェードアウトしてしまった悲運の存在である。
『一網打盡』では多くの武師からバックアップを受け、『黄飛鴻四大弟子』では梁小龍(ブルース・リャン)や白彪(ジェイソン・パイ)といった一流スターとも共演した。にもかかわらず、これらの援護射撃は彼を成功に導いていない。結局のところ、李錦坤は1本の傑作に巡り会うことも出来ないまま、70年代の終わりに映画界から去っている。不遇にして不運…そんなイメージがついて回る李錦坤だが、そんな彼が光り輝いた数少ない作品が本作なのだ。

 ストーリーはタイのムエタイ道場が日本人空手家たちから挑戦を受けるという話で、李錦坤は臨時のコーチとして就任した主人公を熱演している。本作のサプライズは、武術指導を当時ゴールデンハーベストに在籍していた洪金寶(サモ・ハン・キンポー)が担当している点だろう。
洪金寶が指導した功夫シーンはどれもスピーディーで、まどろっこしい出来だった李錦坤の過去作品とは一線を画している。中盤はムエタイ一辺倒になってしまうが、ラストでは李錦坤がビシバシと拳を叩き込む豪快なファイトを披露!洪金寶本人を筆頭に、林正英や陳龍といった"ご存じの顔"も絡み役で出演していて、彼らとのバトルもサマになっている。
このほかにも、味方サイドには『聾唖剣』の馬海倫(ヘレン・マ)や火星(マース)が名を連ねており、総じてアクションの質は高い(道場生として元華の姿も確認できる)。これで物語がしっかりしていれば李錦坤の最高傑作となったのだが…そう、本作が傑作になりきれなかった最大の理由は、根本となるストーリーそのものに原因があったのだ。

 本作は当初、主役である李錦坤の視点で始まる。色々あってコーチを引き受けた彼は、ムエタイ道場のエース・ウェイティア(演者不明)と出会った。彼には眼の病を患っている恋人がいて、手術には莫大な費用が必要らしい。その事が気になって修業に身の入らないウェイティアに対し、日本人たちは大金を手に八百長を依頼してくるが…と、こんな感じで中盤からは完全にウェイティアが主役となり、李錦坤の出番がほとんど無くなってしまう(!)のである。
この八百長試合に李錦坤が関わっていれば無理のない話になったと思うのだが、当の李錦坤は終盤まで八百長には全く絡んでこない。この話の流れを考えれば「八百長に関与したウェイティアは因果応報で命を落とし、彼の無念を晴らす為に李錦坤が闘う」という展開になりそうなところだが、まさか全く正反対のラストにしてしまうとは驚きだ。でも、この結末だと李錦坤は無駄死にじゃあ…(爆

そんなわけで、今回も傑作になれる機会を逸した李錦坤主演作だが、李錦坤と洪金寶のコラボレーションが実現しただけでも十分価値のある作品だった。…と言いたいところだけど、こうもB級続きだと李錦坤があまりにも報われなさすぎる。もしかしたら、本作ような煮え切らない作品に最も苦しめられていたのは、他ならぬ李錦坤自身だったのかもしれない。