図書館に予約していた黒川祐次の『物語 ウクライナの歴史』を、約4カ月かかって、おととい手にした。今、後半から本書を読んでいるが、入念に資料を読み込んで書かれているので驚く。歴史家より外務省官僚のほうが、もしかしたら、調査能力が高いのかもしれない。
出版されたのが、2002年なので、ソビエト連邦から1991年のウクライナ独立数年後までしか扱われていないのが残念だ。2014年のクリミア半島のロシア併合、ドンバス地域のロシア傀儡政権擁立は含まれていない。彼は、私より3歳上でしかないから、ロシア軍のウクライナ侵攻と合わせて、これから、改訂版を出すことを期待する。
黒川は学生時代『ウクライナの夕べ』という絵画をみてウクライナに強く印象づけられたという。
私のきっかけは、子どものとき読んだニコライ・ゴーゴリの『隊長ブーリバ』(カバヤ文庫)である。定年後、You Tubeで民族音楽を聴くようになったが、そのとき、たまたま、『タラス・ブーリバ』(ロシア映画)をみて、コサックの歴史に興味を覚え、ウクライナにヘトマンの時代があったことを知った。
ただ、東ヨーロッパからウクライナ、ベラルーシ、ロシア、バルカン半島は民族のモザイク、あるいは、るつぼであるので、民族主義より、人類普遍的な価値にたって、解決策を探る必要がある。
ロシアは100以上の言語が話される国である。その国が、ロシアの脅威だとしてウクライナに侵攻したことに、悲劇を感じる。ロシアの権力者は社会主義を放棄して、国を愛国主義でまとめようとしている。しかし、ロシアも民族のモザイク、るつぼであるから、ロシア大統領のプーチンの愛国主義は大国主義なのだ。強い国であることを誇りとし、そのために戦うことである。
プーチンはエカテリーナ二世を敬愛しているということをどこかで読んだ気がする。エカテリーナ二世はロシア人ではない。ドイツ人である。確か、ドイツ騎士団の国からツアー(ピョートル3世)の嫁に来た女である。伝記を読んでも醜女(しこめ)としか書かれていない。クーデターを起こし、夫を幽閉した女である。権勢を深め、愛人を多数もった大柄な女だ。プーチンがその女を敬愛するのは、オスマン帝国に勝利しクリミアを併合し、ポーランド・リトニアにも勝利し、ポーランドから領土を奪い取ったからだろう。
黒川の本書には、第2次世界大戦末期のヤルタ会談での秘密取引が書かれている。ヤルタはクリミア半島の1つの都市である。読んで私が驚いたのは、アメリカ大統領であったルーズヴェルトがソビエト連邦の最高指導者スターリンに、日本への参戦を迫ったということである。スターリンは日本との中立条約をたてに正当性がないとしぶったが、ロシアの南樺太と千島列島の併合をルーズヴェルトが認めることで、参戦を承知したという。
広島・長崎の原爆投下はルーズヴェルトの死後のことだが、彼が生きていてもなされたのではと思った。ルーズヴェルトの真珠湾奇襲攻撃への恨みは大きいのだろう。戦争は怨念を生む。
本来、土地の所有者とは、何の根拠もない。土地は人びとが行きかうだけで、神が誰かに所有権を与えたわけでない。昔と同じく、所有権は単に暴力の結果かもしれない。