ロシア軍のウクライナ侵攻が2月24日に開始されてから、ウクライナ軍とロシア軍の戦闘が4カ月も続いている。戦闘とは、人を殺し、人が殺されることである。ウクライナ側では捕虜に戦争犯罪の裁判を行い終身刑の判決を出し、いっぽうのロシア側はウクラナイ籍をもたない捕虜(義勇兵)は死刑にすると脅かしている。
佐伯啓思は、きょうの朝日新聞に『「普遍的価値」を問い直す』を寄稿した。彼の問い直す「普遍的価値」とは、「自由や民主主義、人権や法の支配」のことである。ロシアがこれに攻撃をかけていると「西側」が主張していることに彼は異議申し立てする。
私も、日本のメディアがこの「西側」の主張に疑問をもたずに、西側の価値を守るためにロシアと戦えとするのは、おかしいと思っている。私も、このことを、ブログ『ウクライナへの軍事支援で見え隠れする「西側」の傲慢さ』や『西側の価値を守れに同意せず、ウクライナ軍事侵攻反対する佐伯啓思』に書いてきた。
ヨーロッパにしろ、アメリカにしろ、「自由」や「民主主義」を実現しているわけではない。お金があれば自由があるというのにすぎない。トランプ流に言えば、あるのは既得権層の自由と民主主義にすぎない。民主主義の大事な要素「平等」が欠けている。
赤石書店の『ウクライナを知るための65章』を読む限り、「普遍的価値」がウクライナで実現されているわけでない。どこの国でも、人間は、とくに政治家や金持ちは、欲望の塊で自分の損得しか考えていない。
佐伯は、この既得権層の「普遍的価値(西側の価値)」を「アメリカ帝国」を維持する「アメリカ的価値」と名付けている。フランス国民やドイツ国民は何のためにロシアと戦わないといけないのか、迷っている。ニューヨークタイムズのコラムニストもアメリカがロシアと直接の対決にならないよう警告している。「普遍的価値(西側の価値)」を前面に出して勇ましいことを言っているのは、アメリカのジョー・バイデン大統領とイギリスのBBC放送だけである。
アメリカ政府が狙っているのは、ウクライナ人とロシア人とが殺し合うことだけである。
いま、岸田文雄首相はロシアとの対決姿勢を強調しているが、欧米から梯子をはずされないように、気をつけた方がよい。フランス、ドイツ、イギリスのいずれも、本気度が怪しい。ロシアへの経済封鎖を本気でやっているのは、アメリカと日本だけになりそうである。
佐伯は、それでも、多くの人が、ロシア軍の理不尽な侵略に腹をたて、「自国の文化や己の生活の理由なき破壊」に屈せず戦うという。「独立自尊」の精神があるという。
でも、それは「愛国主義」ではないか。
私の身近にいる年寄りにも、ウクライナの人びとの惨状に涙し、一緒に戦いたいと言っているひとがいる。
しかし、戦争とは、既得権層の利害のために、その外側の人間が殺し合うことである。ロシア軍がウクライナに侵攻したら、なぜ、日本人は中国と戦争をしないといけないのだ。なぜ、中国との戦争を準備するために、軍事費による経済の圧迫を日本人は我慢をしなければならないのだ。
「自国の文化や伝統」は「他国の人を差別し虐げる」ためのものにすぎない。あなたは日本語がオカシイから賃金が安い、あなたは七五三をしていないから友だちになれないと言われたら、人はどんな気持ちになるだろうか。
人はみなコスモポリタンになるのが良い。日本文化はべつにだいじなものではない。戦争をしないという選択肢があるのだ。