むかし、私がまだ会社員であった頃、会社が赤字を出し、金融会社連合から派遣されたコンサルタントたちが、会社の経営を担当した。そのおかげで、アメリカの会社はどういう方法論で運営されているかを、私は勉強できた。重要な概念の1つは権力(power)はどこから生じるかであるが、もう1つはブランド(brand)である。
当時、例として挙げられたのは、「コカ・コーラ」「マクドナルド」「ソニー」である。商品はじっさいに使うまえに買うものだ。イメージで買うのである。英語ではそれをブランドという。そのために企業は広告会社に多額のお金を払う。
長い目で見れば、だまかす企業はいずれ消費者にバレてブランドが壊れる。賢くなった消費者はもう2度と買わない。したがって、企業は、広告会社を利用するとともに、消費者の期待を裏切らないように努力する。
選挙でどこに投票するかも、みんなブランド・イメージで投票する。だから、自民党は電通に頼り切っている。現在の社会は、みんな自分のためにだけ生きているとされる。能力のある者が上に立ち、裕福になると思っている。そのように考えて、電通はキャッチコピーを作る。広告会社は人間の貪欲、強欲、利己心を煽ることを「なりわい」としている。
今回、「政権交代」を叫んで枝野幸雄は衆院選に臨んだ。しかし、立憲民主党が何をしてくれるかのブランド・イメージがないから、選挙に敗れたと人は言う。
じつは、立憲民主党の前身、民主党は、2009年の衆院選で、308議席を獲得し、政権を獲得した。戦後、1つの政党が獲得した最高の議席数である。選挙上手の安倍晋三のもとの自民党でも、2012年衆院選で294議席、2014年衆院選で291議席、2017年衆院選で284議席である。今回の岸田文雄のもとの自民党は261議席である。
2009年衆院選で民主党が勝った理由は、自民党が自分自身のブランドを壊したのもあるが、この選挙で、民主党が詳細なマニフェストを党として作って闘ったことにある、と私は思う。これまでの自民党のように、政治家個人がそれぞれ自分の小選挙区で利権の分配をほのめかしたのではない。
民主党政権の崩壊は、具体的なことで投票者の期待を裏切ったというより、メディアの攻撃に耐えられなかったことで、民主党の分裂を招いた。せっかくのマニフェストを実現しないうちに、4年もたたないうちに、自滅した。
それでも、ブランド・イメージにたよるのではなく、マニフェストを時間をかけて党として作るのが正しい選択だと思う。
民主政では、国会議員は国民の代表である。国民の一人ひとりが自分を代表する者を選ぶのである。自分に施しをくれる「ご主人様」の選択ではない。
今回、負けた立憲民主党議員が、枝野のイメージが悪いとか、共産党との共闘のイメージが悪いから言って、またまた、イメージにたよるのでなく、マニフェストをきっちりと作り、党の目標と原則を党員として共有することである。また、この作業に党員以外も参加できるようにすることである。論争はオープンにすべきである。マニフェストを、来年の参議院選挙までに、ひとまず作ればよい。
問題なのは、自民党の下部組織のような連合に引っかき回され、また自滅するようなことがないように願いたい。この間、新潟県では柏原発をめぐり、再稼働の連合と争って、立憲民主党は勝ってきた。きっちりとマニフェストを作った結果、連合が論争に負けて離れるなら、離れるに任せれば良い。排除と「離れるに任す」のは別で、排除というは、分裂と同じく、陥りやすい誤りである。今回、トヨタの労働組合が立憲民主党の支援をやめた。労働組合が第2人事部に成り下がる流れの中で、このようなことは、避けようがない。