新型コロナに関係して、メディアの報道で甘いと思うことがいくつかあるので、メディアの担当者に喚起したい。
第1は、日本で新型コロナの遺伝子解析が広く行われていないことである。遺伝子解析は、ウイルスが都市部から地方に運ばれていかの実態調査にも有用であるし、また、変異型コロナがどこで広がっているかを実態調査するためにも必要である。
問題は、昭和大学教授の二木芳人や自民党参議員の武見敬三が言っていたように、国立感染症研究所が一手に新型コロナの遺伝子解析がしているからだ。そのために待ちが生じ、現在2週間かかるようになった。きょうのNHKの報道では、事前に国立感染症研究所におくるかのスクリーニングをおこない、待ちを1週間にするという。これは、べつに褒めたことではなく、国立感染研究所が行政検査を独占しているからである。
ちょうど50年前、世界中で、人間の遺伝子の塩基配列をすべて明らかにしようというプロジェクトが起きた。私のいた大学院の物理教室でも、生物物理研究室はコンピューターによる塩基配列の自動決定機器を開発していた。40年前にはそのプロジェクトが世界的に成功し、人間だけではなく、色々な動物・植物・細菌の遺伝子の塩基配列が決定され、塩基配列の公開データベースが作成され、医療や製薬の現場で利用されてきた。
人間の遺伝子の塩基対の数は約30億である。新型コロナの塩基数は3万である。したがって、解明すべき塩基数は10万分の1であり、現在の技術では、数分で決定できるはずである。
先日、報道1930で、英国では、国立研究所、大学、病院、民間検査機関が、共同で新型コロナの遺伝子解析を行い、その塩基配列のデータベースを共有するようになっている、という。これがあって、英国では変異型コロナがどのように広がっているかの実態調査ができたのである。
日本では、PCRで2時間かけてウイルスを倍増したあと、塩基配列を決定せず、試薬で判断しておしまいとしている。もったいない話である。これまで、大学や大病院や大手の民間検査機関では、研究のため塩基配列を決定してきたのだから、その能力の一部を新型コロナにまわしてもらえばいいだけである。共有のデータベースができれば研究者は論文が書けるし、学生はアルバイト先が増える。これに国のお金を使うことは、選挙をめあてに、怪しげなところに、補正予算をばらまくより、ずっとマシであると思う。
第2に、新型コロナのPCR検査の標準化がどうなっているのか、の疑問がある。東大先端科学研の児玉龍彦が、PCRを何回まわすかが検査機関でバラバラであるという。PCRは回せば回すほど、少ない数のウイルスが増やされる。どこから採集したら何回まわして陽性と判断とするかの基準を決めないと偽陽性とか偽陰性の議論ができない。というのは、ウイルス数が非常に少なければ、他人にうつす可能性もない。陽性か陽性でないかの境界はあくまで便宜的なもので、それで、現場の医療に問題が生じなければ良い。
しかし、検査の基準がなければ、検査結果を感染拡大を抑え込むための基本情報として使えない。
マリアンナ医科大学の教授がPCR検査の信頼性が薄いといっているのは、その後の試薬による簡易検査に問題もあると思う。去年の2月に国立感染研究所が自分のところの試薬が95%といっていたが、これは塩基配列決定の結果と比較して、95%だということだと思う。試薬はどういう原理をつかったかの報道に接していないが、多くは抗原抗体反応を使ったものだと思う。教授が60%ないし70%だと言っていたが、もし、本当にそうなら、どこに問題があるかをキチンと調査し、公表すべきである。あいまいな話でPCR検査不要論をのべられても、社会的に悪影響を与えるだけである。
第3に、保健所の職員が忙しすぎるという理由で、感染経路や濃厚接触者の調査を原則的にしない、と、神奈川県と東京都の知事がしたことである。濃厚接触の調査は、家族と老人介護施設の利用者と職員だけに限定したことである。家族の調査はPCR検査を一律にすればよく、老人介護施設はクラスター発生が予想されるからである。
これでは、保健所が忙しいから、どこに感染源があるのか、家庭外で誰にうつした可能性があるのか、調査をしないということになり、感染症対策のだいじな基本的手段を放棄したことになる。
私からみれば、本当の問題は、保健所が人手を増やさないことにある。人手を増やせないのは、1つは予算のせいであり、もう1つは仕事がマニュアル化されていないことである。マニュアル化されていれば、これまで飲食店で接客に働いていた人たちを雇うことができる。これらの人たちにあらたに要求されることは、個人情報の機密を守ることであり、機密保持を口頭で宣誓し、宣誓書に署名してもらえばよい。マニュアルにしたがって集めた情報をパソコンに打ち込んでもらう。機密保持のためには、仕事を一連のプロセスに分解し、個人を特定できる人を絞ることである。例えば電話をかける人は、本人確認以外、電話に関与しないことである。
保健所のもともとの職員は、マニュアルで動く新規雇用者の仕事の質の管理と、高度の専門知識を必要とする臨機応変な対処にあてる。感染経路や濃厚接触者の割り出し、患者の転送先の調整は、マニュアル化とパソコンの使用で解決する。
IT会社の研究所にいて、業務フローの解析の研究もした者として、行政は何をしているだと言いたくなる。
第4に、テレワークがなぜできないかは、会社の運営に問題があるからではないか、と思える。私が疑っているのは、1つは朝礼などのミーティングがあるため、1つは職責ごとのミッションが決まっていないため、これに関連するが、職責の権限があいまいであるため、1つは業務フローが決まっていないため、1つは評価システムが恣意的で会社内の対人関係で評価が決まるため、でないかということである。問題はハンコのためではない。
もちろん、ベルトコンベアで働くような、装置に人間が固定される生産現場は別である。また、数人からなる会社では、私のかかげたようなことはいらないであろうが、そのように小規模であれば1週間に1回顔を合わせるだけで十分運営できるだろう。
私は外資系にいたから、20年前、アメリカでのテレワークが徹底しているのにびっくりした。
本社では、職場結婚をした共稼ぎの人たちが結構いた。このとき、一方が遠方に配置転換になっても、単身赴任とか引っ越しとかしない。テレワークで済ます。アメリカでは配置転換といっても、ジェット機で2,3時間のところに配置転換になる。
また、営業やシステムエンジニアは会社に出勤しない。電話やネットでお客や同僚と連絡し、現物を運ぶときだけ、会社から客先に現物を届ける。しかし、個人で動いているのではなく、チームプレーができている。業務フローがきまっており、個人はチームのサポートを受けている。
メディア関係者はもっと厳しい目で日本の現状をみるべきである。新型コロナで「7割テレワーク」を機に、働き方を改革するチャンスである。VRでリモートワークなどというバカなことをいうのは やめてほしい。
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