猫じじいのブログ

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モーセの五書は祭司の妄想の書である、オットー

2020-11-02 23:22:48 | 聖書物語


いま、ヘブライ語聖書の迷路に入り込んでいる。事の起こりは、加藤隆の『集中講義旧約聖書 「一神教」の根源を見る』(別冊NHK100分de名著)を読んだことである。

そこで、加藤隆は、複雑きわまりない旧約聖書をまとめる代表的なテキストして、『申命記』6章4-5節の

〈イスラエルの民よ、聞け。我らの神、ヤハウェは唯一のヤハウェである。 
あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、ヤハウェを愛しなさい。〉

を引用していた。これが、なぜ、旧約聖書を代表するのか、理解に苦しんで、E.オットーの『モーセ 歴史と伝説』(教文館)を読みだし、さらなる迷路に はまったのである。

新約聖書では、田川建三が指摘しているように、旧約聖書の引用の多くは、イエスキリストや洗礼者ヨハネの出現と死が予言されていたとするためのものである。そうでない数少ない引用は、『レビ記』19章18節の「自分自身を愛するように隣人を愛しなさい」で、マタイ、マルコ、ルカ福音書にもパウロの「ローマ人への手紙」にも出てくる。(「隣人」は翻訳の誤りで、『レビ記』19章18節ではたんに「相手」と書かれている。)

モーセに、自分の神ヤハウェを愛せよと、一方的に言われても困るだけである。これは理由もない強要だ。現代でいうと、信仰の自由の否定である。

オットーは『申命記』などのモーセの五書は祭司の著作だとする。

言われてみれば、あたりまえのことである。『申命記』の著者は、王についている祭司である。王の権威に裏づけられて、イスラエルの民に、ヤハウェを愛せと寝ぼけたことを言っているのだ。

エーリック・フロムは、モーセに導かれてエジプトを脱出したイスラエル民がヤハウェやモーセに不平不満を言っていることに着目した。民衆の反抗が『出エジプト記』『民数記』に繰り返し現れるのだ。ジークムント・フロイトは、これより、モーセはイスラエルの民に殺され、ヨルダン川を渡って、約束の地に行けなかったと推測する。

オットーは、そもそも、モーセがイスラエル人のエジプト脱出を指導したとは思っていない。さらに、エジプトの建設現場にいたベドウィンが逃亡したという可能性があるが、エジプトから部族連合体のイスラエルの民が脱出としたという大規模な逃亡劇はありえないと、考える。

オットーは、イスラエル王国が滅亡し、ユダ王国がアッシリア帝国の属国になったときの、ユダヤの民の不平不満をエジプト脱出という架空の物語に書きこんだと言う。

私は、エズラに引き入れられてのバビロン捕囚からの帰還でのユダヤ人の不平不満が書きこまれたのではないか、と思っていた。

『出エジプト記』の19章5-6節に、次のヤハウェの言葉がある。

〈今、もしわたしの声に聞き従い/わたしの契約を守るならば/あなたたちはすべての民の間にあって/わたしの宝となる。世界はすべてわたしのものである。 
あなたたちは、わたしにとって/祭司の王国、聖なる国民となる。これが、イスラエルの人々に語るべき言葉である。〉

「祭司の王国」は、ヘブライ語原文では「祭司がおさめる国」と書かれている。「祭司」の「王国」は言葉の衝突であって、新共同訳の翻訳のレベルの低さを物語っている。

ここの言葉は、ユダ王国がバビロニアに征服され、王が権力を失い、王に代わって祭司が捕囚の民をまとめたからと思う。すなわち、バビロン捕囚期を思いうかべて『出エジプト記』が書かれたのだろう。

『出エジプト記』32章25-29節に次の話がある。

モーセはイスラエル民が勝手なふるまいをしたことに怒り、「ヤハウェにつく者は、わたしのもとに集まれ」と言い、レビ人が全員集まると、「イスラエルの神、主が『おのおの、剣を帯び、宿営を入り口から入り口まで行き巡って、おのおの自分の兄弟、友、隣人を殺せ』と言われる」と命じ、およそ三千人のイスラエルの民を殺させた。
そして、モーセは「おのおの自分の子や兄弟に逆らったから、今日、あなたたちはヤハウェの祭司職に任命された。あなたたちは今日、祝福を受ける」といった。

これもすごい話である。フロイトはレビ人をモーセの護衛兵と推測した。もしかしたら、歴史的事実として、祭司たちは、自分たちにしたがわない人たちを、護衛兵に殺させていたのかもしれない。

まとめると、モーセの五書は祭司の妄想で書かれたもので、歴史的事実ではない。
そして、モーセの五書はヘブライ語聖書の一部にすぎない。
妄想によって書かれた『申命記』6章4-5節を加藤隆がヘブライ語聖書の代表とするのは、承諾しがたい。


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