親愛なる「笑わないお姫様」へ、
あなたのために、童話のおはなしをします。童話は、なにかしらの人間界の真実を書いています。真実は、トゲがありますから、気をつけてください。
例えば、「笑わないお姫様」の童話で、お姫様が笑うのは、自分より愚かな人々を見たからです。そして、愚かな大騒ぎを起こした少年と、お姫様は結婚します。自分が賢くないのではという、お姫様の不安が、愚かな人々の大騒ぎを見て、飛んでいくという話です。人間は愚かでよいという話です。「愚か」は英語で“silly”といいます。
あなたに話したいのは、アンデルセンの童話「みにくいアヒルの子」です。この童話にもトゲがあります。トゲで傷つかないよう、人を許す心が必要です。
アンデルセンがこの童話を書いたとき、みにくい「アヒルの子」と考えていたか、「みにくいアヒル」の子と考えていたか、の問題があるのです。そう、「みにくい」が「アヒルの子」をさすのか、それとも、「アヒル」をさすのか、ということです。
童話は、自分をみにくいと思っていた「アヒルの子」が、自分がみにくくない、そして、美しいハクチョウだと気づく話です。だから、「みにくいアヒル」が正解なのですが、これはトゲです。
あなたは充分賢いのです。論理的思考も抽象的思考もできます。また、記憶力もあります。容姿も美しいですし、体も健康です。ちゃんと話せますし、買い物もできますし、ひとりで職場まで行けます。あなたには何も問題がありません。
すると、問題はあなたの周りの人の偏見です。あなたに問題があると追いつめる周りの人にこそ問題があるのです。だから、自分に問題があると考える必要がありません。これが、アンデルセンが「みにくいアヒルの子」で言っているメッセージです。
童話「みにくいアヒルの子」では、はじめは、アヒルのお母さんが主人公を必死で、周りから、かばいます。が、そのうちに、周りの偏見にお母さんは負け、偏見にとらわれます。
あなたが大人になるということは、精神的に自立するということです。愚かなご両親を許すということが、精神的に自立するということです。
これから、あなたに起きることは、あなたが人生を賭けるパートナーをみつけることです。そのためには、自分のアンテナを外に広げ、アンテナを鋭敏にしてください。決して、暴力をふるう男を間違ってパートナーとしないでください。
あなたの味方のわたしから
童話には、色々なバージョンの笑わないプリンセスの物語がある。童話では、とろくて馬鹿正直な若者が、笑わないプリンセスを笑わす。しかし、焦点が笑わす若者にあって、童話では、なぜプリンセスが笑わないのか、説明しない。
2年前、芥川賞作家の津村記久子の小説をみて心が沈んだ。
主人公(女)は大学を出ている。女友達もいる。しかし、なぜ、生きていることを楽しめないのだろう。
ネットで見つけた2010年の日経BPnetのインタビュー記事を読んで、少し、津村記久子の気持ちがわかった。彼女は、大学を出て、トンデモナイ会社にはいって、すさまじいパワハラを受け、辞めている。
よく自死しなかった、と思う。電通に入った女の子は職場で孤立して自死した。
インタビューで、自分を責めないことが大事だ、と彼女は言う。ひどいことがあったら、「自分のせいじゃない」って逃げるのが良い、ひとのせいにするのがいい、と言う。
私もそう思う。上司が悪い、会社が悪い、社会が悪い、安倍晋三が悪い。
しかし、インタビューで、人とは関わりたくないんだけど、人みたいなものには関わりたい、と彼女は言う。一度、人からいじめられるとなかなか人を好きになる勇気がもてない、とも言う。人が恋しいのだ。
それでも、彼女は外に働きに出ることができるから偉い。地下鉄やバスに乗れるから偉い。
きっと、彼女を笑わす若者が、童話のように、現われるだろう。
その若者はトンデモナイ馬鹿者だが、プリンセスに勇気を与えるのだ。
私は年寄りだからその若者になれないのが残念だ。