中国の国家統計局が昨日(2月19日)、今年1月の消費者物価指数(CPI)を発表しました。前年同期比で7.1%上昇と、11年ぶりの上昇幅です。
●消費者物価、約11年ぶり高水準=1月7.1%、食品が高騰-中国(時事ドットコム 2008/02/19/11:57)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date1&k=2008021900319
【北京19日時事】中国国家統計局は19日、今年1月の中国の消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.1%上昇したと発表した。食品価格の高騰を主因に上昇幅は昨年12月の同6.5%から大幅に加速し、単月ベースでは1996年12月(7.0%)以来の7%台を記録した。今年も二ケタ成長が予想される中、インフレ懸念が一段と高まりそうだ。
1月のCPIの内訳は、食品価格が18.2%の値上がりで、うち豚肉は58.8%と大幅に上昇した。食品を除くと1.5%アップにとどまったが、1%をわずかに超える水準だった昨年からは上昇基調が強まった。また、農村部のCPIが7.7%上昇と都市部の6.8%を上回り、低所得層への影響が強まっている。
「食品を除くと1.5%アップにとどまったが、1%をわずかに超える水準だった昨年からは上昇基調が強まった」
「農村部のCPIが7.7%上昇と都市部の6.8%を上回り、低所得層への影響が強まっている」
の2点を指摘しているのはナイスだと思います。特に前者。各種原材料・エネルギー価格の上昇といった、今後の全面的なコスト増大につながる部分も「動き出した」ことを示唆しています。
後者については、簡潔な記事の中で「農村部の物価上昇が都市部を上回った」というポイントを押さえたのが秀逸。低所得層への影響は農村・都市部に関わらず存在するというべきでしょう。何せ物価上昇の牽引役が食品価格の高騰なのですから。
まあ例によって月ごとのCPI上昇率の推移を並べておきます。カッコ内の数字は牽引役たる「食品価格」の上昇率。これまたいつものことながら、中国当局が実情より悪い数字を発表することは考えにくいので、
「最低でもこのくらい物価が上がっている。現実はもっと厳しいかも」
と考えておけばいいかと思います。
2006年 12月:2.8% (6.3%)
2007年 1月:2.2% (5.0%)
2月:2.7% (6.0%)
3月:3.3% (7.7%)
4月:3.0% (7.1%)
5月:3.4% (8.3%)
6月:4.4%(11.3%)
7月:5.6%(15.4%)
8月:6.5%(18.2%)
9月:6.2%(16.9%)
10月:6.5%(17.6%)
11月:6.9%(18.2%)
12月:6.5%(16.7%)
2008年 1月:7.1%(18.2%)
国家統計局によると、今年1月のCPI7.1%上昇の原因は主に3点。
●昨年1月の基数が低かった。
●短期的に価格上昇が発生する春節(旧正月)前の消費シーズンが今年は1月にかかった。
●異例の雪害による影響。
……というものですが、一応は頷ける説明です。ただし、これだけで全てが説明できるとは思えません。
例えば上に示したように昨年1月の基数が低かったのは事実です。春節前の消費シーズン、昨年は2月18日が旧暦の元日のため歳末商戦は2月に入ってからでした。ところが今年の元日は2月7日だったため、今年は1月下旬から消費シーズンに入ったことで物価に影響した、というのも確かでしょう。雪害の影響も当然ながらあるかと思われます。
ただし、歳末商戦と雪害の影響は2月のCPIにより色濃く反映されることになると思います。それから季節変動などを吹き飛ばす「構造的要因」という最も重要な点には全く言及していません。
まあいいか。先に数字を出しておきます。1月のCPIの内訳はこちら(▼は下落)。
■全体 7.1%
食品類 18.2%
衣類 1.9%▼
たばこ・酒類 2.1%
家庭設備用品・補修費 2.!%
医療・保険関連 3.2%
交通・通信関連 1.1%▼
娯楽・教育・文化関連 0.3%▼
住居関連 6.1%
並べてみると食品価格の高騰がやはり目につきます。ただしより仔細に眺めると、
●「たばこ・酒類」のうち酒類は5.3%の上昇。
●「医療・保険関連」のうち薬剤(漢方薬含む)は11.4%増。
●「交通・通信関連」のうち自動車用燃料・部品は6.8%の上昇。
●「住居関連」のうち水・電気・燃料は5.5%の上昇。
……と、気になる品目が上昇傾向にあることがわかります。食品類以外でも庶民の生活に響きそうな分野が値上がり基調。今後が思いやられます。
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そして「牽引役」である食品類の分類は下記の通り。
●食品類 18.2%
穀物 5.7%
食用油 37.1%
肉類・加工品 41.2%
豚肉 58.8%
卵類 4.6%
水産品 8.7%
生鮮野菜 13.7%
生鮮果実 10.3%
昨年の主役だった「豚肉」は相変わらず飛ばしています。「肉類・加工品」も負けていません。政府が備蓄分を放出することで歯止め効果があるとしても、備蓄量にも限度があり、また飼料が世界的な高騰状態であるため、よくて価格の高止まりということになるのではないでしょうか。……これは「構造的要因」のひとつ。
実際、新華社電によると専門筋は豚肉価格について、
「春節後に小幅な下落があるかも知れないが、価格は概ね高い水準で推移するだろう」
とコメント。そりゃ春節は歳末シーズンに加えて雪害による需給逼迫で大変でしたから、「小幅な下落」は当然でしょう。ただこの雪害で家畜も凍死するなど、相当な被害が出ているのは今後の懸念要因。例えば広州向けの豚肉産地である湖南省が壊滅的被害を受けています。
野菜なども同様。白菜のようなものはともかく、青菜類などは雪害の影響を受けています。供給元を別の産地に振り替えるなどの応急処置はとられたものの、雪害で作物がかなりやられているので需給逼迫は避けられないでしょう。2月にはさらなる上昇が予想されます。
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とはいえ、真の「構造的要因」は穀物・穀物製品価格。雪害や毒餃子事件で随分昔のことのようにも思えますが、中国政府は今年から輸出関税引き上げや総量規制などによって国内向けの供給量増大を図っています。そのあおりを受けて、……具体的には穀物製品である小麦粉の品不足で香港が一時期「パン恐慌」に陥ったのは当ブログでも報じています。
●香港「パン恐慌」続報:高値のまま旧正月突入?(2008/01/11)
特に懸念されるのは食用油。大豆がアキレス腱になりそうな気配です。もともと国際市場でも高値が続いているうえ、国内の大豆生産が大幅な減産となったため価格上昇には拍車がかかることでしょう。当ブログでは先月、豚肉よりも今年はこの食用油こそ物価高の主役になるのではないかという見方を示しましたが、早くも37.1%高とは恐るべきハイペースです。
●物価上昇は今年もハイペース。(2008/01/16)
これまたかなり前の話のように感じられますが、穀物・穀物製品の輸出規制に加え、とうとう政府が価格統制令(価格違法行為行政処罰既定)を1月9日に打ち出し、広範な品目について「値上げ事前申請・許可制」を導入しました。こうした行政による有無を言わせぬ介入は、経済運営が手に負えなくなったときに中国でしばしば用いられる手段です。一種のハードランディング。
この価格統制令は思わぬ雪害の来襲による混乱で一時解除となりましたが、撤廃された訳ではありません。
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要するに、輸出規制や価格統制令を敷かなければならないほど危険水域に入った状況が改善されぬまま、下旬に雪害と歳末商戦を迎えたのが1月の中国経済です。
続く2月はすでに雪害からの復旧などで3分の2を消化してしまいました。「食品価格が落ち着きつつある」という報道が最近よく中国国内で流れていますが、
「前年同月比7.1%上昇・うち食品価格18.2%高」
という尋常でない1月の状況に戻りつつあるということにすぎません。今後、「二中全会」「全人代」「全国政協」といった政治イベントが続くことになりますが、こと物価問題に関しては縁起の悪い数字が並ぶことになると思います。
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/19/content_7629895.htm
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/19/content_7631452.htm
http://paper.wenweipo.com/2008/02/20/CH0802200005.htm
http://www1.appledaily.atnext.com
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2008&d=0219&f=business_0219_011.shtml
強引な価格統制は、当然闇経済、裏市場の成長とそちらへの横流しを加速することになります。当然それは物流の混乱を伴います。それでなくても、様々な経済統計公表値の実態との乖離が指摘されているところにこれでは、当局内部で押えてる(つもりの)現実数値と経済実態の乖離も酷くなるでしょう。北京政府と党中央は、自国社会の実態を正確に把握し続けることができるのだろうか。
北京オリンピック前にしてエライことになってきました。とにかく、開会式をやって閉会式までもっていけば万々歳、というのが北京政府と党中央の目論見なんでしょうね。
勝っても負けても「よくやった」そういう試合は多分無いでしょう。
大変ですね中共は
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