日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





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 私が香港に渡ったころ、中国経済はハードランデイングの影響で当時はまだ経済の根幹をなしていた国営企業が
「三角債」なるもので身動きがとれなくなっていました。

 あのころに比べれば中国経済の運営・調節システムは長足の進歩を遂げているでしょうが、マクロ経済がのっぴきならない状況に立ち至ったときに党組織や政府がパワープレーに走る構造にはあまり変化がないように思います。何事にも党中央の意向が優先される一党独裁体制という本質が変わっていないからでしょう。

 ひょっとすると遠くない将来、私たちは現代版「三角債」が出現するのをみることになるかも知れません。



 ●国営企業に荒療治 「三角債」整理が改革のカギ(1991年9月30日)


 経済改革のカギを握る国営企業の活性化を目指し、中国政府は先頃、300億人民元の資金を投入して三角債の整理に乗り出す決定を行った。

 三角債とは一種のツケ回し。金融引き締めで資金調達の道を狭められた国営企業が実施する3社以上の企業間融資のことだが、このために身動きがとれなくなった企業が続出して深刻な問題となっている。

 1988年の政策転換で銀行融資に大幅な制限が加えられ、それまで審査も返済圧力もないに等しかった銀行融資に頼り切り、生産拡大のための投資に狂奔していた国営企業は、新たな方法として企業間での相互融資に走った。

 しかしこれが3~4社間での融資に発展して関係が複雑化する一方、債務額も膨脹し、ついには経営に行き詰まる企業が出現すると「連鎖倒産」が続出。国営企業の活力は失われ、現在では経済改革の進展を困難にしている。三角債の呼び名はその入り組んだ企業間融資の構造によるもので、債務総額は全国で約2000億人民元。

 国営企業の低迷については財政減などの経済面だけでなく、公有制を基本とする社会主義経済を揺るがす政治的問題としても指導部は危惧している。今回の整理では資金を投入する一方で様々な措置がとられるが、その中でも在庫圧縮を図った生産停止や業績の悪い企業への融資打ち切りは過去にない「荒療治」。それだけに、三角債清算の実行に際しては、あるいは政治問題に発展しかねない多くの障害が予想される。

 まず、投下資金の大半は国による支出で、すでに進行している財政赤字をさらに悪化させる。

 また、前例のない全国的規模での操業停止は、膨大な「失業者」を生む。余剰労働者は夏の水害でも相当増加しており、流動人口問題などの社会的混乱が懸念される。

 地方政府の強い反発も予想されるところだ。管轄下企業の操業停止で財政収入が減るうえに「失業者」の生活保障を背負わねばならず、今回の措置に従わない地区も出る可能性がある。

 さらに、この措置の成否は実行責任者である朱鎔基・副首相の立場にも関わってくる。改革派のホープとして期待される同氏の去就は改革の方向にも影響する。

 ところで、三角債問題は膨大な債務を返済すればよいというものではない。

 ●技術革新よりも人・金・物の投入増で生産拡大を図る。
 ●従業員の生活全般を丸抱えしなければならない。
 ●経営担当者に十分な自主権がない。
 ●経営責任の所在が明らかでないために最後には国家財政にツケが回る。

 ……など、国営企業に関する根本的な問題を解消しない限り、真の解決はありえない。


 ――――


 ●三角債整理、地方の「不服従」で難航(1991年10月2日)


 先月20日、全国一斉に開始された三角債の整理作業は、中央政府の指示に従わない地方が相次ぎ、思うような成果を上げていないことが明らかになった。

 政府の三角債整理部門が発表した9月26日現在の中間統計によると、全国42の省、自治区、市における固定資産投資分の債務整理について、清算資金の投入状況は計画の80%を達成しているのみ。また、各地の自己調達による資金投入は28%しか行われていないことがわかった。

 統計によれば、当初の計画の9割以上を達成している地区は半分に過ぎず、広東、北京、天津などはわずか6割程度。自己資金の投入はさらに遅れており、上海が計画の41.7%、広東は25.59%、また12の省、市は10%にも満たないという深刻な状況にある。

 経済特区の深セン市などは資金投下が最も遅かったうえに、達成状況は11%、自己資金分に至っては0.04%。北京市では80部門のプロジェクトで整理が必要とされたが、資金供出に同意したのは11部門だけ。

 また69部門が回答を保留しており、三角債整理をテーマとする会議への参加を拒んだり、資金がありながら供出を拒否する部門もある。

 三角債の整理は地方政府にも大きな負担を強いるもので、当初から反発が予想されていたが、今回の統計でそれが裏付けられた。

 特徴的なのは、経済発展が進んでいる沿海地区ほど計画達成が遅れていること。9月27日付『人民日報』(海外版)が三角債整理の進行状況を報じた際、20省、市の名前を挙げながら広州以外の南部沿海都市や北京、上海、天津にふれなかったことでも示唆されてはいたが、この地域が経済的実力を背景にした中央への不服従を強めていることが改めて明らかになった。

 これは、中央のコントロール力低下による経済過熱再燃などを招来しかねない危険な兆候とみることができる。



 学生時代の一時期に「諸侯経済」なるものに入れ込んでしまったせいか、このころの私は、

「地方 vs 中央」
「沿海部 vs 内陸部」
「中央の統制力弱体化+地方当局の強い開発欲求=経済過熱懸念」

 といった言葉が大好きだったようです。いまでもあまり変わっていませんけど(笑)、これは中国の方が変貌してくれないので仕方ありません。

 ちなみに「このころの私」というのは大学を卒業して新卒として入社した商社がバブル崩壊の魁として3カ月で倒産し(笑)、たまたま香港での仕事にぶち当たって現地に渡航してほどないころです。

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 仕事の内容はたまたま大学で手を出した様々な分野の中のひとつにピンポイントだったので、未経験者として研修させられる筈がいきなり即戦力扱いにされて便利使いされるまま鬼のような構造的残業を連日こなしていました。

 ところが当時はそれを全く辛く感じませんでした。社会に出たばかりで素っ裸で路頭に放り出された(笑)と思ったら、再就職先では入社早々いきなり色々な仕事を任されて、期待されていなかっただけに過剰にほめられて、便利使いされるのがうれしかったのです。逆に会社の方が気を使って、

「御家人の仕事を減らすためにどうするか」

 というテーマのもとに社内会議が開かれたこともありました(笑)。

 それでもまだ試用期間中だったので、もしクビにされたらどうしよう、せっかく海外に出てきたのに……と私自身は一抹の不安を常に抱えつつ毎日を送っていたものです。

 ――――

 ところで、「三角債」というのは20年近くも昔の話にすぎません。当時と比較すれば中国はその市場経済めいたシステムの運営・調節メカニズムが進化し成熟し、当時中国国内の経済学者の間で「こうするべきではないか」と論じられていたような、いわば仮定の話が現実のものになっていたりします。

 私自身も素人の中国観察という娯楽には10年以上のブランクがありましたから、ブログの形でそれを再開したときには正しく浦島太郎のようで戸惑うことばかりでした。いまでも戸惑っています。

 国営企業も国有企業へと名称が変わり、無慈悲なリストラを行ったりや破産したりすることができるようになって身軽になり、また20年にわたる外資導入により中国経済の中で占めるウエイトも低下しており、一部の特定業種をのぞけば存在感はずいぶん希薄になりました。私企業もずいぶん台頭してきています。

 ただし、上でも書いたように
「一党独裁体制」という本質は変わっていないのです。政府のやることに党組織が口出ししないという「党政分離」は夢の話となり、同様に「党企分離」「政企分離」もかけ声ばかりで、実情は企業に対して所轄当局からの不当な干与が行われることが日常茶飯事、といっていいでしょう。その当局つまり政府部門の上には党組織が厳然として君臨しています。この点は多少の程度の差こそあれ、基本的には変わっていないと思います。

 それから当時の観察日記が指摘している
「粗放な成長モデル」というのも昔のままです。さもなくば胡錦涛がことさらに「科学的発展観」(成長率信仰を捨て、規模の拡大よりエネルギー消費節減などを含めた投資効率の追求を第一とする)なんてものを声高に連呼することはないでしょう。

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 本質に変化がないため、
いざ壁にぶつかったときに行政や党が介入してパワープレーが行われるという図式も,基本的には当時と同じままでしょう。先日、物価高への対策として国務院(中央政府)がやや一刀両断的な、力づくでねじ伏せるような措置を発表したことで私はそのことを考えました。



中国、値上げ承認制を導入 物価抑制へ食品や燃料対象(共同通信 2008/01/16/20:48)
http://www.47news.jp/CN/200801/CN2008011601000741.html

 【北京16日共同】中国国家発展改革委員会は16日、物価抑制のため食料品や燃料の値上げを承認制とする「臨時価格干渉措置」を15日から導入したと発表した。インフレ抑制に向けた価格統制色の強い措置だ。

 中国では昨年8月から消費者物価指数の上昇率が4カ月連続で前年同月比6%超を記録、インフレ懸念が強まっている。今回の措置の対象は穀物製品や食用植物油、肉類、牛乳、卵、液化石油ガス(LPG)などで、期間は物価の大幅上昇が収まるまでとしている。

 対象製品の生産業者は、値上げ実施前に政府に新価格の申請が義務付けられる。政府は値上げの「理由が不十分」「幅が不合理」と判断すれば、値上げを認めなかったり、値上げ幅を抑えることができる。

 卸売、小売業者に対しても(1)一度に4%以上(2)10日間で計6%以上(3)30日間で計10%以上-の値上げの場合は政府への届け出を要求。政府が不当と判断すれば、価格は元に戻される。




 国務院、さらにその上に君臨する党中央にとって、社会不安を呼びかねない物価高の存在は脅威でしょう。今回の措置は平時の経済運営システムがその「脅威」の拡大に太刀打ちできぬまま、予断を許さない状況になりつつあるために急ぎ打ち出されたものだと思います。

 ただ党中央にとっては、あるいは物価高よりも
地方当局レベルにおける固定資産投資の増加ペースの方が脅威に映っているかも知れません。これまた金融政策では実効が上がっていないため、そう遠くない時期に「党」および「政」によるパワープレーで強引に減速させる可能性が高いのではないでしょうか。

 結局、引き締め策は過去に幾度も繰り返された例と同様に「腕力に物を言わせて無理矢理」な形となり、経済はまたもハードランディングするのではないか、という考えが頭から離れません。

 そのハードランディングの局面で、約20年前の「三角債」と本質を等しくした
「21世紀型三角債」が姿を変えて出現するのではないか、と思うのです。

 ……ええ、以上は素人の妄想に過ぎませんから皆さんが案じる必要はないでしょうけど(笑)。


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コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
闇市場の奨励? (はげ親爺)
2008-01-18 20:43:41
>物価抑制のための「臨時価格干渉措置」・・・・

普通、物価をナントカしようと思ったら先ず供給量を増やすための手段(補助金や減免など刺激策)を講じますが、いきなり価格干渉とはちょっと理解できません。政府が闇市場を奨励してるとしか思えない政策です。
かの国のことですからきっと深~い理由があると思います。巨大な流通闇マーケットを表に出させ、一網打尽にする気かな?
 
 
 
まあ、中央が「白条」を地方に切れるかどうかかな。。 (dongze)
2008-01-19 09:28:01
御家人さん、
今度の「三角債」は20年前の国営企業(生産部門)の問題だったけど、今度は地方政府の投資活動(行政部門)だから落っこちるときはよりHardでしょうなあ(笑)
どういう形にすれ、またぞろ「白条」が出てくれば、アメリカのサブプライムに匹敵かそれ以上の信用問題がまたぞろ金融部門に出てきそうで。。。。。そろそろ投資信託の中身に中国入れ込んでる奴は全部外そうっと!
 
 
 
はげ親爺さんへ (御家人)
2008-01-26 03:07:07
>普通、物価をナントカしようと思ったら先ず供給量を増やすための手段(補助金や
>減免など刺激策)を講じますが、いきなり価格干渉とはちょっと理解できません。
 いや、そういったことも多少はやったのでしょうが、最後には唐突に行政の干与、というのが中国のお約束のパターンです。先日会った旧友の中国人は出国してから価格統制令が出たのでそのことを知らず、教えてやったら「行政控制!」とテーブルを叩いて憤っていました。

 ちなみに食品に関しては病豚肉の実例などから、闇市場が存在するというよりは闇産品が正規市場に出回る、といった感じではないかと想像しています。
 
 
 
dongzeさんへ (御家人)
2008-01-26 03:08:19
 「白条」とはこれまた懐かしい単語ですね。地方当局だと地元の銀行を手なづけているので上手くやってしまうのではないかという気がします。サブプライムといえば中国銀行がそれでよろめいたとか何とか。実際のところどうなのか気になります。

>そろそろ投資信託の中身に中国入れ込んでる奴は全部外そうっと!
 私は給与も原稿料も香港ドル建てなので最近は鬱です。orz
 
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