不思議です。
実に不思議です。締め切り仕事のデッドラインが近づくと、どうして他のことをしたくなるのでしょう?急に『河殤』や『紫電改の六機』を無性に読み返したくなったり、ハードディスクの中身の整理をしてみたり。
たぶんここへ逃げてきたのもその一環だと思いますが、安倍首相訪中を前にちょっと小ネタを。……ええ、電話線はもちろん抜いてあります(笑)。
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●従軍慰安婦問題、安倍首相は「河野談話を受け継ぐ」(読売新聞 2006/10/04/19:14)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20061004i112.htm
(前略)河野談話は、旧日本軍兵士を相手とする慰安婦の募集、移送、管理に、旧日本軍などの関与と強制性があったことを認めた内容だ。安倍氏は97年に国会で質問に立った際には、「強制性を検証する文書が出ていないことは明らかで、前提がかなり崩れてきている」と談話に否定的な見解を示していた。
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マジっすか?……というのが第一印象。村山談話は小泉前首相も踏襲しているのでともかく……というか本当はそこにさりげなくアレンジを加えて「安倍色」を出してほしかったのですが、この河野談話の線まで退くというのは訪中前に余計な波風は立てるべきではないということなのでしょうか。
いわゆる「従軍慰安婦」問題は余計な波風どころか歴史認識における重要な枝葉のひとつだと思うのですが、「否定的な見解」から一転してそれを認める理由は何なのでしょう?日中首脳会談ゆえなのか、他に原因があるのか。
それにしても「紅の傭兵」でも「江(沢民)の傭兵」でもいいのですが、化学兵器処理問題といいこの「従軍慰安婦」の一件といい、河野さんは対中関係ではロクなことをしていませんね。異名をとるほどですから中共政権の国益のために日夜汗を流しているのかも知れません。
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それはともかく、安倍首相の国会答弁で面白かったことがあります。
●A級戦犯の戦争責任、政府断定は不適当…首相答弁(読売新聞 2006/10/02/21:16)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20061002it12.htm
安倍首相は2日午後の衆院本会議で、首相就任後初の各党代表質問に対する答弁を行った。
首相は、昭和戦争に関するA級戦犯の戦争責任について「先の大戦(昭和戦争)に対する責任の主体については、さまざまな議論がある。政府として具体的に断定することは適当ではない」との見解を示した。
連合国がA級戦犯を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)については、「我が国はサンフランシスコ講和条約により、裁判を受諾しており、国と国との関係において、この裁判に異議を述べる立場にはない」と語った。(後略)
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このキモは……といっても小ネタですから大したことはないんですけど、
「我が国はサンフランシスコ講和条約により、裁判を受諾しており、国と国との関係において、この裁判に異議を述べる立場にはない」
という部分にあります。「受諾」したものが何か、ということで議論が分かれるところですね。具体的には日本がサンフランシスコ条約で受諾したのは「東京裁判」そのものではなく、判決だけを受け入れたのだ、という主張があります。
私が説明するまでもないでしょうが、このサンフランシスコ条約第11条において、該当部分の日本語は「裁判」となっているのですが、英文の原文では「judgments」(諸判決)となっているのです。
「『裁判』と『判決』では大きく意味が異なります。要するに日本は、東京裁判のあり方や組織、判決理由などを受諾したのではなく、『判決』即ち『戦犯』に対する懲役などの刑の執行の継続を約束したに過ぎないのです」(※1)
という見方があります。これについて安倍首相はその著書(※2)の中で、
「わたしは、判決と定められた刑については受諾して、今後日本は国際的に異議申し立てはしない、という意味に解釈している」
と述べています。「判決と定められた刑については受諾」という訳です。
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ただ日本語の条文では「裁判」となっていますから、
「我が国はサンフランシスコ講和条約により、裁判を受諾しており……」
という答弁も誤りではありません。質問者が、
「英語では『judgments』となっているが……」
とさらに突っ込めば面白かったのですが。……まあ、A級戦犯の戦争責任について、
「先の大戦(昭和戦争)に対する責任の主体については、さまざまな議論がある。政府として具体的に断定することは適当ではない」
としたことで、
「日本には日本の歴史観がある。中共史観を鵜呑みにすることはありえない」
という気配をそこはかとなく漂わせたのは興味深いところです。もっと興味深いのは「昭和戦争」という聞き慣れない言葉をひねり出した読売新聞の意図や如何に、といったところでしょうか(笑)。
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この国会答弁、「裁判」にせよ「A級戦犯」にせよ、本来なら中共系メディアにとっては恰好の「安倍叩き」ネタになる筈なのですが、やはり日中首脳会談を間近に控えていることで、「縁起物だから」(笑)と当局からNGがかかったのでしょうか。それとも香港各紙お決まりの弊風にならった単なる勉強不足?
「我が国はサンフランシスコ講和条約により、裁判を受諾しており、国と国との関係において、この裁判に異議を述べる立場にはない」
という安倍首相の答弁の翻訳が面白いのです。
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●香港紙『明報』(2006/10/03)
http://hk.news.yahoo.com/061002/12/1tyy6.html
「我們的國家接受《舊金山和約》,亦因而接受東京審訊的結果」。
「東京審訊的結果」というのは裁判の結果という意味ですから、「judgments」(諸判決)ということになります。これだと、
「東京裁判のあり方や組織、判決理由などを受諾したのではなく……」
という上述した意見に沿ったものになります(笑)。
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いや『明報』どころか、中国の国営通信社・新華社の配信記事も「judgments」なのです。
●『香港文匯報』(2006/10/04)
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=GJ0610040001&cat=004GJ
「他還説,日本根據《舊金山和約》接受遠東軍事法庭審判結果,日本不應對審判結果表示異議。」
日本は「サンフランシスコ条約」によって「遠東軍事法庭審判結果」を接受した、となっています。恐らく単に国会答弁に関する英文プレスリリースに拠って記事を書いたのかも知れませんが、ここをスルーしてしまうのは実に惜しいですねえ(笑)。
ちなみに、中国国内でも全く同じ文言が使われています。
●「新華網」(2006/10/04/14:14)
http://news.xinhuanet.com/world/2006-10/04/content_5168756.htm
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●安徽省でサーカスのライオンが観客席に飛び込む、3名負傷も生命に別状なし
http://news.xinhuanet.com/politics/2006-10/04/content_5169121.htm
このライオンと同じくらい決定力不足(笑)。
ああもちろん「ライオン」を「柳沢」とか「巻」に入れ替えても結構です。
ちなみに中共政権はサンフランシスコ講和条約の当事者ではありませんし、中華民国を継承した政権でもありませんから、戦犯を云々できる資格も立場もありません。そのあたり、根拠のない純然たる内政干渉である靖国神社への容喙とともに、そろそろ日本は凛然とすべきではないかと思います。
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【※1】『首相の靖国参拝は当然です! そこが知りたい19のポイント』日本会議編(明成社)
【※2】『美しい国へ』安倍晋三著(文藝春秋)
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ちなみにドイツは国会でニュルンベルク裁判の無効決議をしたそうですが、シナが言うように「ドイツを見習って」日本国会が東京裁判の無効決議をしたらどうなるんでしょうか(笑)。
日本語の「国連」より
シナ語の「聯合国」の方が適訳だと思いますね。
NHKのニュースの映像では言ってましたが、
どういう風に編集されているのか…。
わからないのでなんともいえませんね。
広義ってどのくらいまで指すのか。
勝ち目のなくなった左巻き陣営は
強制の意味をかなり拡大解釈してるんですよね。
60年以上経った今でも繰り返し喧伝してますからねぇ。
これって、GHQの報道検閲の残滓ではないかしらんw
日本が受諾した「ポツダム宣言」「降伏文書」には、
日本軍を無条件降伏させろ/日本軍は無条件降伏する、とは書かれていますが、
日本国は無条件降伏しろ/日本国は無条件降伏した、とは書かれていません。
「実質的には無条件降伏だった」とは言われますが、もしそれを認めてしまえば、
連合国(国連w)は事前に公式に取り決めた約束であっても、
守らないし守るつもりもない、という前例を世界中に示してしまう事になる。
だって、公式文書には「そんな文言」は一切書かれていないんですから。
国連(連合国)がイランや北朝鮮に約束を守れと詰め寄っても、
そりゃ説得なんて出来る訳がないでしょうねぇ。
約束守ったって、結局、日本の様に無条件降伏させられるんだからw
東宝怪獣映画で、「山から現れた怪獣をサンダ、海から現れた怪獣をガイラと呼称する!」などとやっているようで、朝から味噌汁吹いたってかんじでしたw
ぐぐればいっぱい出てきますが、ここにキャプがあります。
ttp://14471.iza.ne.jp/blog/entry/25581/
ttp://d.hatena.ne.jp/Apeman/20060908/p1
要は、死刑廃止論者が死刑判決を容認するのか、という問題ではないでしょうか。
死刑判決が確定すれば、法的には(再審事由でもない限り)覆すことはできませんし、執行されてしまえばどうしようもありません。
しかし、そのことによって、その判決の手続や内容の正当性、さらに死刑制度の妥当性の容認を強制されるわけではないでしょう。
いわゆる東京裁判は、手続や内容がその当時でさえ法的に問題があるとされるものですから、これに対して法的ないし歴史的な観点から検証し批判することは自由ですし、その価値観に日本国民が拘束される謂れはありません。
国家の継続性や国際的信用の問題をクリアにできれば、「政治的」に無効宣言をすることも可能だと思ういますが。。。
まだ戦争は終結しておらず、したがって日本はまだ戦争に負けていない可能性もあると思います。
史料を正確に読めばポツダム宣言も日本は受諾してないと思います。
ttp://news.xinhuanet.com/world/2006-10/07/content_5172363.htm
これに対して「日本国憲法」を『昭和憲法』と呼んだのが中曽根大勲位だったですかね。
これも歴史に名を残す作戦かな
全く逆です。「日本接受了遠東国際軍事法廷(的審判)」ですから、簡単にいうと、
「東京裁判(の諸判決)」を日本が受け入れた
という意味です。つまり「諸判決」を強調した形なのですが、これはこの記事を書いた記者が日本語から直接翻訳したためだと思います。安倍首相は「東京裁判」としか言ってないのですが、中国語に翻訳する上でそのまま訳すとしっくりしないため「(の諸判決)」とわざわざ付け加えたのでしょう。
改めてここまで「諸判決」を強調されてしまいプロ市民はいよいよ愕然?と言ってみるテスト(笑)。
いよいよ今日ですね。楽しみでもあり、一抹の不安もありでございます。
いやいや、考えてみれば「裁判を受け入れる」という言葉自体がおかしいんですよね。仮に私が原文に忠実に翻訳するとすれば、やはり、
「裁判(の結果)を受け入れる」
「裁判(の諸判決)を受け入れる」
みたいな表現になると思います。日本語と違って、中国語や英語はそのへんの曖昧さを許さないので、カッコ付きでフォローするしかなかったのだと思います。
ところで、昨夜の香港紙電子版と今朝の香港紙では「安倍首相の盧溝橋訪問はない」、とのことでしたが、首脳の訪中は急きょ予定変更みたいなことがあって「開けてビックリ玉手箱」な面がありますから、油断がなりませんね。正に「一抹の不安」が拭い切れません。
日中関係が悪化している中で、あえて「六中全会」とかぶるという異例の首脳会談ですから、予定調和的な形に落ち着く台本なんでしょうけど、中国はアドリブがあるから怖いです。
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