日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 いや、そういう疑問というか批判めいた声は、以前から日立の地元ファンの間にはあった。日立野球部でのプレー経験がなく、マネージャー→副部長→監督という経歴は、事務屋から管理職になっただけのことで、いわば実戦経験が皆無の「文官」が軍隊を直接指揮しているのに等しい。

「実際の采配は、事実上コーチに任せっきり」

 という噂は半ば公然と語られていた。実際、どの試合でもベンチ前で円陣を組んだ選手たちに指示するのは常にコーチではある。ただし、戦術はいかに任せっきりとはいえ、選手起用や途中交代などの選択肢について最終決定を下すのは、やはり監督の仕事だと考えるのが自然だろう。仮にそうでなくても、采配の当否について責を負うのは監督に他ならない。

 今日8月27日から、社会人野球における最大のイベント・都市対抗野球本大会が開幕する。その本番を控えた24日と25日に、日立は最後のオープン戦を組んだ。24日の相手は南関東地区代表の「かずさマジック」。新日鉄君津野球部が廃部になったのを受けて、地元企業が選手を雇用し、市民が資金援助するなどして運営されるようになった市民球団だ。

 選手たちは日立を含む企業チームとは異なり、8時間ちゃんと社員として仕事をしてから夜に練習する。クラブチーム同様の厳しい環境のなか野球を続けている。当然ながら、今年の都市対抗における下馬評は日立とは比べようもなく低い。

 だから俺は「勝つのは当然」と思っていた。日立の調整の仕上がり具合を見たくて、わざわざ千葉県君津市などというド田舎くんだりまで出てきた訳だ。

 当日の観客数は約30名。日立応援団は俺ひとりだ。むろんそれで萎縮するような可愛気などある筈もなく、俺は選手名鑑の「かずさマジック」の頁を開いて、周囲からもわかるようにそれを尻に敷いて座布団代わりに使いつつ、意気軒昂として日立の選手たちに声援を送り続けた。他の観客はよほど不愉快だっただろうが、俺の横に五合徳利が置かれているせいか、文句を言ってくる者は誰もいなかった(笑)。

 ところが、「勝つのは当然」だと思っていた日立が負けてしまった。しかも負け方が悪かった。

  日立  000 010 320  6
  かずさ 011 003 50X 10

 スコアだけを見ると打撃戦のようだが、実際はそうではない。日立ベンチの無策が試合を壊してしまったのだ。

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 日立の先発はエースの伊波。ああ伊波さんが投げるなら安心だ、それにエースの先発ということなら都市対抗の本番に向けた本気モードだな、と思っていたら、2回に珍しくも本塁打を打たれ、先制されてしまった。さらに制球難で三死球。3回は連続死球で走者を背負ったところでタイムリーを浴びた。ただ立ち上がりは悪かったものの、尻上がりに調子をあげて、予定回数なのだろうが5回を投げ終えてマウンドから退いた。

 相手の先発は左横手投げで、日立打線の苦手とする変則左腕。実際4回まで零封されたけど、俺は相手投手のレベルからして三巡目には攻略できるとみていた。そして実際に日立は5回表にこの投手を捉えて1点を返した。その裏を伊波が抑えて5回終了時点で1ー2とリードされていたけど、俺は相手が実力的に格下の「かずさマジック」だし、4点差くらいまでなら日立打線は逆転できると踏んでまだ安心していた。

 伊波同様に、相手の変則左腕も5回を投げ終えて交代。両先発とも「試合をつくった」といえるだろう。そして6回から日立の前に出てきたのは右の本格派。俺はしめたと思った。こういう素直なピッチャーなら日立打線の餌食になることは必定。

 近くにいた相手チームのファンに、

「どうして代えるんですかね?日立打線はああいうピッチャーは苦手なのに。今度出てきたピッチャーは火だるまにされますよ」

 と言ったが、なぜ代わるかは監督でない観客にわかる筈もない。しかし、果たせるかな右手本格派のこの投手、代わって早々に単打、二塁打と連打されて無死一、三塁。ほーらね。

 すると、相手の監督がすかさず投手交代を告げて「かずさマジック」は左腕にスイッチ。この試合において日立ベンチに最も欠けていたのはこの点だ。要するに勝負へのこだわり。話が先に飛ぶが、6回に門脇が3点とられて炎上しても、7回に平野が5点とられて試合の大勢を決められてしまっても、日立ベンチは両投手をイニングの最後まで投げさせた。

 打線はしっかり6点とったのに、伊波の後を継いだ投手リレーが全てをぶち壊した。

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 6回裏の相手の攻撃で、日立は新人の門脇投手を出してきたので俺は嘘だろ?と思った。

 確かに門脇は都市対抗の最終予選で伊波をリリーフして富士重工打線を零封してはいるものの、あのときも打順の2回り目からは結構合わされていたのだ。試合終了時にも走者を二人背負っていた。言わんこっちゃない、その門脇が打たれて相手に追加点を献上する破目に。

 そのときの一場面なのだが、無死一、三塁だったか二、三塁だったかで、相手はファーストゴロを打った。バックホーム態勢の日立内野陣はファースト田中がゴロをさばいて、この回からマスクをかぶっている新人の雑賀捕手へ好返球。タイミングはセーフだったが、雑賀捕手のブロックに阻まれて足がホームに届いていないのを俺ははっきりと見て、思わず親指を立てて天に突き上げ「アウト!」と言った。主審の判定もアウト。

 ところがだ。相手の監督が抗議に出てきたと思ったら審判4人の協議となり、何と判定がひっくり返って得点が認められ、アウトカウントは減らされた。……ハァ?

 すぐ日立の鈴木監督が出てきて主審を捉まえて何か言っていたが、抗議というより事情を聴いているといった風情で、すぐに笑顔を見せてベンチに帰って行った。何しに出てきたんだこいつは?

 雑賀捕手のブロックの仕方がルール違反ならともかく、そうでなければ完全にアウトだ。相手ベンチや主審以外の審判は視界の関係からタイミングでしか判断できないためセーフと思ったのだろうが、やや見下ろす形でバックネット席からクロスプレーを見届けた俺は、相手走者の足が雑賀捕手のレガースに阻まれてホームベースに届かなかったのを確かに見た。何で判定がひっくり返ったのかはわからないが、ひっくり返るというのは尋常なことではない。

 そして日立の鈴木監督の抗議は抗議といえないほど淡白で、これには非常にムカついた。もし日立の選手たちが俺みたいに「……ハァ?」と思っていたなら、監督による事情確認のような抗議というに値しないパフォーマンスで、士気は確実に下がる。

 ――――

 そして7回。打線が相手投手を捉え3点を奪って1点差(4ー5)まで追い上げた日立が送り出した投手は、平野。……思わず頭を抱えた俺は、正直、

(やる気あんのか日立は?)

 と、このとき思った。この平野というのはエース・伊波と同じ年に大卒で入って、しかしながら伸び悩んでいる投手。昨年の都市対抗でも大差で勝っているところで出てきて走者2人を出した上にホームランを打たれるという醜態を晒したが、今年も俺が観戦した試合に限れば、平野が投げて1イニングでも零封したことはない。出れば必ず点を奪われる疫病神なのだ。

 本番直前の試合で、しかも僅か1点差で負けていて、さらにいえば打線の本領発揮で流れは日立に来ているというのに、ここで平野はあり得ない。

「ねーよ!ねーよ!ねーよ!」

 と俺は愚痴った。そして平野は見事に期待に応え、5点取られて敗戦フラグを立ててくれた。orz

 日立の内野陣にも緊張感が欠けていた。門脇だったか平野だったか、ピッチャーゴロに討ち取った投手がゲッツーを焦ってセカンドに悪送球したり、内野ゴロをファンブルしたり送球がそれたりしてダブルプレーが成立しなかったり。先発の大森捕手が盗塁を刺すためにセカンドへ投げたボールも、大きく外れて外野に転がりそうになった。

 ……とはいえ、それにしても、だ。門脇にせよ平野にせよどんどん相手に得点を献上している投手を、どうして代えずにイニングの最後まで投げさせるのか、監督采配の真意がわからない。どうせ打たれるなら、どんどん投手交代をして打たれた方がいいではないか。うまくすると投手を代えたら相手の勢いを止めることができたかも知れないし。

 春先なら「敢えて試練を与えてみた」という解釈もできるが、すでに都市対抗本大会の開幕まであと数日を残すのみで、日立の初戦までも1週間を切っている。本来なら大勝して弾みをつけたいこの時期、しかも本番は負けたら終わりのトーナメントだというのに、「負けてもいい」と考えているとしか思えないこの鈴木采配はいくら何でもひどすぎる。オープン戦とはいえ、負ければ士気は下がるし「まあ仕方ないな。次頑張ろ」といった惰気も生じる。惰気の分だけプレーは鈍る。

 そして鈴木監督の、あの無能としか思えない演出感覚。例のクロスプレーで判定がひっくり返ったときに、ポーズでもいいから猛抗議してみせれば、選手も少しは奮起しただろうに。

 ――――

 そして、俺は怒った。

 試合終了でホームの前で両チームの選手が整列して一礼し、ベンチへ引き上げるところで俺は思わず駆け出していた。日立ベンチ近くのネットにとりついた。そして、

「日立の監督!」

 と怒鳴って面々を振り向かせた。

「調整試合か何だか知らないが、もっと勝ちにこだわれ!あんなチームに10点も取られて、恥ずかしくないのか!」

 俺の大声にその場が凍りついた。本当は「お前らそれでも日立人(ひたちびと)か!」と続けようと思ったが、そうだこいつらは日立マンだけど所詮日立人ではないなと思い返し、ベンチに背を向けて自分の席に戻った。

 「あんなチーム」とは相手に失礼のようでもあるが、「かずさマジック」は所詮その程度のレベルのチーム。それからもうひとつ、厳しい練習環境のなか少しでも上手くなろうと努力している「かずさマジック」の選手たちに対し、仕事は一般社員より早く切り上げて練習できるお前らセミプロは情けなくないのか、という思いがあった。

 よくJリーグのサポーターが応援するチームの不甲斐なさに激怒したりするけど、あの気持ちが今日初めてわかった。

 翌日は横浜でのオープン戦なので、君津駅に戻った俺は、逗子行き快速のグリーン席に収まった。本当は翌日の試合はもう観たくなかった。観ることなく帰宅したかった。でもホテルを予約しているので関内まで行かなければならない。行けば試合を観ることになる。

 やるせなくやり切れない気持ちを持って行く場がなかった。車内販売の缶ビールを4本飲んだけど、そんな程度でどうなるものでもない。俺が38年応援してきた日立が、都市対抗直前にあんな不甲斐ない試合をするとは裏切られたような気持ちだ。悔しくて涙が出そうになった。

 ――――

 翌日は神奈川地区代表の三菱重工横浜が相手で、接戦となったが3ー2でそれを制した。ただ水物とはいえ、売り物の打線が連打に乏しく、ちょっと元気がないのが気になった。

 試合終了後、偶然出くわした日立の若手選手2人に話しかけてみた。

「ひとつ聞いていいかな?俺が昨日の試合終了直後に怒鳴ったこと、知ってるでしょ?」

 と切り出すと、二人とも頷いた。

「昨日の試合のように、3点取られても5点取られてもピッチャーを代えない、ていうのはちょっと理解に苦しむんだけど」

 と言うと、左側の選手が、

「監督の采配ですからわかりませんけど、テスト登板かも知れません」

 と応えたが、

「でもそれってさ、春先とかならわかるけど、昨日と今日が都市対抗直前の最後のオープン戦でしょ?本番モードで戦う時期に、そんな余裕あると思う?」

 という俺の言葉に、その選手は答に詰まって黙ってしまった。そこで今度は右側の選手に、

「でもまあ、負けたとしても『仕方がない。次に頑張ろう』って気持ちを切り替えられるものなのかな?」

 という腹黒い俺の誘い水。若手選手はやはり青かった。

「そんなことないです。負ければやっぱり気分悪くなります。采配は監督が決めることなので、僕たちにはわかりませんけど」

 と応じてくれた上に、ちょっと小声になって、

「昨日だって、試合後はかなり雰囲気悪かったんですよ」

 ……と、相手が監督を怒鳴りつけた俺だからかも知れないが、聞いてもいないことまで教えてくれた。まあ常識的に考えて、あの試合内容ではチーム内に密やかな不協和音が生じていても不思議ではないと思う。首脳部と選手の間にも、6点取った打線と10点取られた投手陣の間にも。

 ――――

 中国語でいえば「安排」、より踏み込んだ表現なら「精心策劃」ということになるが、本大会を控えた直前に、チームを上げ潮にするためのマネジメントというものがある。

 他の出場チームと同様、日立も都市対抗本大会までの2カ月でオープン戦を数多くこなし、難敵とも試合をしている。選手にとってもチームにとっても実戦経験は十分。本大会を念頭に置いた戦い方はすでに固まっているといっていい。とすれば、本大会直前には確実に勝てる相手との練習試合をセットするというのもひとつの方法だ。

 「かずさマジック」も「三菱重工横浜」も本大会出場を決めているが、日立が本番モードで戦えばまず負ける相手ではない。試合のセッティングはマネージャーの仕事だろうか?この2試合に勝利して気分よく東京ドームに乗り込ませる、という深慮があったのではないかと勘繰ってみたい。

 そうでなくても、準備期間を勝って締めるのとそうでないのとでは、チームの雰囲気も選手たちのモチベーションも随分変わってくる。それは如実に本番でのプレーに反映される。

「一回戦随一の好カード」

 とされている8月30日の第三試合「日立vsJR九州」。このゲームでもし日立が不甲斐ない試合運びで敗れることがあれば、試合終了後に選手がスタンドの前で整列して挨拶するとき、

「スズキ!腹切れ!腹切れスズキ!」

 という怒鳴り声を聞くことができる筈だ。





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