日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 そういえば、そうでした。

 毛沢東、トウ小平、江沢民ときて、現在の胡錦涛は中国における第四世代の最高指導者です。毛沢東とトウ小平は激烈な権力闘争を経て「皇位」を自分のものにした訳ですが、江沢民と胡錦涛は違います。どちらもトウ小平直々の指名によるお声がかり人事です。

 江沢民は哀れでしたね。せっかく「皇位」に就いて、腹心を続々と中央入りさせて自らの周囲を固めることまではしたものの、

「江沢民の後継者は胡錦涛」

 とトウ小平に決められてしまっていますから、自分好みの若手を跡継ぎにすることができませんでした。国家主席・総書記が胡錦涛、首相が温家宝という第四世代シフトは気に入らなかったことでしょうけど、江沢民にもトウ小平の「欽定人事」を反故にできるほどの甲斐性がなかったのですから仕方ありません。

「銃口から政権が生まれる」

 という毛沢東の名言通り、中国の支配者は中国共産党の私兵である人民解放軍の掌握者でした。……逆ですね。軍権を握った者が最高指導者として君臨する、というお国柄なのです。その軍権を握るべき者に与えられるポストが中央軍事委員会主席です。

 このポストに執着していた江沢民は2004年9月にようやくその座を胡錦涛に明け渡して引退、ということになりましたけど、この中央軍事委員会、主席は胡錦涛でも江沢民に力があれば副主席や委員に腹心を滑り込ませることができた筈です。そして院政を敷く、と。

 ところがやはり甲斐性なしだからなのか、胡錦涛が主席となった中央軍事委員会の残るメンバーは全て制服組となり、江沢民の腹心はゼロ。もちろん制服組には江沢民寄りの将官が多く、胡錦涛の動きをある程度掣肘することはできました。でもそれも時間の経過、つまり胡錦涛が少しずつ権力基盤を固める一方で軍部の御機嫌取りを進めるにつれて、江沢民の影響力は低下していくしかありませんでした。

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 そして、それから3年余りの歳月が流れ、中共指導部は10月15日に開幕する第17回党大会を区切りとする世代交代を迎えることになりました。胡錦涛政権とすれば折り返し点です。ここで胡錦涛の後継者たる第五世代の最高指導者を明らかにしておいて、今後5年間で帝王教育を行うことになります。

 ところが、当の胡錦涛には後継者指名権がないそうです。

 正確にいえば、胡錦涛個人が「欽定人事」としてお世継ぎを決めることはしない、ということになります。まあ胡錦涛も甲斐性なしですから「決める権利がない」でもいいんですけどね。いまだに「胡錦涛同志を総書記とする党中央」みたいな呼ばれ方をしているのがその証拠。

 江沢民はその最盛期に「江沢民総書記を核心とする党中央」と称されていましたから、「もうそういう呼び方はやめよう」という不文律が生まれたのでなければ、胡錦涛はまだ「核心」扱いしてもらえないでいる、といっていいでしょう(このフレーズを使い続けてはや3年)。

 それはともかく。今回の党大会は江沢民時代と違って前もって後継者が定められている訳ではありませんから、最高指導者たる胡錦涛に縛りはありません。かつてのトウ小平同様に、お気に召すままの後継指名が可能なケースになる筈でした。

 ところが、胡錦涛は独りでそれを決めることはない模様、というのです。……いやこれは中共系といえる香港中国通信社の配信記事が北京の消息筋の談話として報じていますから確度は結構高めではないかと。



 ●外部で憶測飛び交うも、胡錦涛は後継者を指名しない(香港中通社 2007/10/11/09:15)
 http://www.hkcna.hk/doc/2007/2007-10-11/24739.shtml




 この記事は、

「後継指名というものは、毛沢東やトウ小平といったカリスマ性のある特殊な指導者にしてはじめて成し得ること」

 としています。そして、

「現在は中共指導部を取り巻く環境も大きく変わっており、胡錦涛もまた総書記就任以来、法治の徹底と科学的かつ民主的な政策決定を提唱してきた」

 と指摘。政治の民主化は中国において逆らえぬ潮流となっており、「欽定人事」にも終止符が打たれるのだ、とのことです。

 いうまでもありませんが、ここでいう「政治の民主化」というのは、カリスマという最高実力者を戴いた「鶴の一声」型一党独裁制から、集団指導体制へと移行したということで、国民に普通選挙権が与えられるとか多党制とか三権分立など、私たちがイメージする「民主化」とは全く異なります。一党独裁はそのまんま。ただ皇帝たるべきカリスマが不在のため、小粒な連中による合議制になったということです。

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 いわゆる「党内民主」の強化措置のひとつ、ということでしょうか。「胡錦涛は後継者を指名できない」ではなく「指名しない」となっているので、胡錦涛サイドが「党内民主」が進んでいることをアピールしているようでもありますし、逆にアンチ胡錦涛諸派が、

「党内民主の強化だろ」
「集団指導体制だろ」

 と、「欽定人事」に走ろうとする胡錦涛を牽制しているようでもあります。ちなみにこの記事によると、「欽定人事」は胡錦涛だけでなく、将来も行われないとされています。またこれからの「後継者」は特定の個人を指名するのではなく、選抜され育成されたひとまとまりのチームだ、ともしています。例えば、

「習近平総書記・李克強首相、んで旗本はこいつら」

 といったような、いわば丸ごとパッケージという訳です。

 またこの記事には、9日から北京で開催されている「七中全会」(党第16期中央委員会第7次全体会議=七全総)について、

「会期が4日間に延長された」

 という耳寄りなニュースも。その主たる理由のひとつが政治局が党大会で行う総書記による政治報告の、人事や各方面の制度改革加速をめぐる点についての調整が云々、となっていて、みようによっては指導部人事や総書記報告の内容に関する調整が難航しているといえます。

 あるいは党中央規律検査委員会による陳良宇(前上海市党委書記、汚職嫌疑で失脚)の処分をめぐる調整も結論が出ず、人事などが取引材料に使われてなかなかまとまらない状況なのかも知れません。

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 何やら香ばしい展開になりつつありますが、話がまとまらないために会期延長なのであれば、党大会では改正された党規約も総書記報告も、そして注目の人事も妥協色が強いものになるかも知れません。

 ともあれこの記事において、胡錦涛は毛沢東やトウ小平のようなカリスマではない、と烙印を押されてしまっているのが可哀想です(笑)。でもまあ根回しがうまく進んでいないようなので、ダメ出しされてしまっても仕方がないですね。胡錦涛は最高指導者ではあるものの、まだ最高実力者としての実が伴っていない、「核心」ではない、ということなのかも知れません。




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