日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 以下は「御家人の中文書館」で使おうと考えていたのですが、話が長くなりそうなので勝手ながら久しぶりにこちらで「楊子削り」をさせて頂きます。

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 唐突な話ですが、外国語の発音というものは最初の1年でほぼ固まってしまうそうです。そのあと癖を治そうとしてももう後の祭りだとか。……逆にいうと、最初の1年に全力を挙げて発音練習に取り組めば、その後
「よほど不憫な環境」に身を置くことがない限り、悪くない形で発音が固まってくれることになります。

 私は大学で中国語を習いました。幸い1年目は自分なりに努力したのがよかったのか、1年間の最後の授業のあと教官が私を呼んで、

「あなたは発音がいいから2年生になってからも手を抜いたらいけませんよ」

 と激励してくれました。そのころは中国語を学ぶのが楽しくて仕方ない時期で、発音も舌先が荒れて少し出血するくらいまでは根を詰めましたから、褒められて素直に嬉しかったです。

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 2年生のとき、学部は異なるのですが親しい先輩の中に中国の民主化運動を支援している人がいまして、ある日、

「ちょっと手伝ってくれないか」

 と自宅に呼ばれました。そこには民主化活動家の中国人も来ていて、日本語が下手なので中国語で雑談しました。中共保守派の政治家が近く来日するのに際して、中国大使館前に街宣車をズラリと並べるのだそうです。むろん並べるだけでなく、反中共のシュプレヒコールをスピーカーからエンドレスでがなり立てることになります。

 ほーそれはすごい。でも近所の人は迷惑だろうなー。……と思っていたら、何と先輩が、

「そのシュプレヒコールなんだが、君の中国語で録音してほしい」

 と言い出したのです。はぁ?と思ったのですが手伝ってほしいという用件がそれなのでした。活動家の声だと大使館側に特定されかねないので、日本人で民主化運動とは接点のない私に白羽の矢を立てたというものです。先刻の中国語による雑談が「面接試験」だったようで、中国人活動家からも、

「アナタ、ダイジョブ」

 と合格判定を出されてしまいました。

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 この活動家いわく、鼻音の抜け方が天津人ぽくて、悪くても巻舌音の出る華僑の発音には聞こえる、のだそうです。ただ「鼻音の抜け方が天津人ぽい」というのはnとngの区別が曖昧な発音ということで、決して褒め言葉ではありません(笑)。

 ははあ……と講評を聞いているうちに録音の準備ができあがり、原稿(シュプレヒコール)を渡されてしまいました。そうなると仕方ありません。スラスラ読めるまで練習して、リハーサルを経て録音です。内容はいまでも諳んじることができます。

「強烈抗議中国保守派頭目××来日活動破壊中日友好関係!」

 録音で難儀したのは語調と語気でした。街宣車から流れるシュプレヒコールにしては温和すぎるから、もっと怒気と勢いを込めてやってくれ、と。……なるほど理屈はその通りでしょうが、これがなかなか難しく、何度もNGを重ねてようやくOKとなりました。

 当日は録音された私の声が中国大使館前で延々と流されたとのこと。20年ばかり前の話です。××もとっくに鬼籍に入ってしまいました。

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 中国語にはその後も精進を続けていたのですが、卒業後、ふとしたことから
「よほど不憫な環境」に7年間も身を置くことになってしまいました。ええ、北京語使いには鬼門筋、悪夢の香港生活です。

 現在は知りませんけど、1990年代の香港では北京語の使える香港人は少数派でした。仕方がないから広東語を見よう見まねで何とか話すようになったのですが、気付いたらそのために北京語の発音がすっかり崩れてしまっていました。

 崩れてからの話ですが、台湾に出張したとき、ホテルにチェックインするのに北京語を使ったら、

「香港の方ですね?」

 と言われて愕然としました。タクシーに乗っても
「お前は香港人だな」と決めつける運転手がいました。正確にいうと、この出来事で私は自分の北京語の発音がすっかり崩れてしまっていることに気付きました。orz

 少なくとも学生時代、「お前の北京語は香港人に似ている」というのは北京語学習者にとって最大の侮辱であり恥辱でした。また、学生時代の努力が水泡に帰してしまった、というのは何か大切な物を失ったような悲しみがありました。

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 日本に帰国してから、何とかならないものかと発音矯正に取り組み始めました。そこで下の音楽CDとなる訳です。発音の理屈はわかっているので、それを改めて身体に叩き込もうと。

 野球選手のやるフォーム改造のようなものです。文章を音読するのもひとつの手ですが、CDに合わせて口ずさみつつ自分の発音をチェックする方が気楽ですし、別のことをしながら行うこともできます。

 Su Rui(蘇●=草かんむりに「内」)は台湾の歌手。ただ今も音楽活動を続けているのかどうかわかりません。私が留学していた当時、上海ではこのアルバムが人気を集めていて、特に1曲目の「跟着感覚走」が大ヒット。

 私の留学生活の前半は民主化運動のデモに明け暮れる毎日でしたが、学生たちがシュプレヒコールや「国際歌」(インターナショナル)に飽きると、この「跟着感覚走」の合唱が自然に沸き起こったものです。

 外灘(バンド)の市政府庁舎前で座り込んでいるときもそうでしたし、人民広場をデモ隊で埋め尽したときもそうでした。また、当時上海のトップ(上海市党委員会書記)だった江沢民の自宅前に押しかけて、

「江沢民,出来!」
(出て来い江沢民)

 と怒鳴るのに疲れると、やはりこの「跟着感覚走」の合唱となりました。

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 ……私には発音矯正ギプスという意味合い以外に上のような思い入れもあるので、ついこのCDを使ってしまいます。個人的には最後の曲「聖誕礼物」が発音矯正には最適かと。

 この歌は一種の韻を踏んだ巧みな歌詞になっていて、「-n」と「-ng」の使い分けや巻舌音の有無、また巻舌したときの音の出具合をチェックするのに向いています。あと例えば「dong」の発音が「du + eng」でちゃんと出せているか「jing」は「ji + eng」になっているか、などといったことも点検できるので重宝しています。

 まあ、徒労に終わる試みかも知れませんけど、北京語を使って「香港人だな」と言われる恥辱は何としても雪ぎたいので(笑)。


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