官公庁を中心に、障害者の法定雇用率が水増しされてきたことが社会問題化している。先週、厚生労働省が公表した調査結果では約8割の中央省庁で「水増し」などが確認された。障害者支援の名の下で、偽りの数字がはびこった原因はどこにあるのか。この問題が投げかけた課題を探った。
目標数値設定、現実的に 中島隆信・慶応大教授
明るみに出た役所の一連の「ごまかし」はとんでもない話ではあるが、背景には実態と乖離(かいり)してしまっている障害者雇用制度の「ひずみ」があるのも事実だ。問題の発覚を機に、実態に即した議論を進めてゆくべきだろう。
障害者の雇用義務は1976年に始まった。当初は身体障害のみで法定雇用率も1・5%と低く、バリアフリーを進める中でこの割当制度を守ってゆくという狙いは理にかなっていたと思う。97年に知的障害が加わったことでハードルが高まったため、2002年には特例措置として障害者を集中雇用した「特例子会社」を認めた。民間、特に大手企業はこれらを設立して雇用率増に対応してきたが、常に組織のスリム化、効率化が求められてきた官公庁には負担が大きかった。しかも民間よりも高い数値が求められてきた。
さらに今春、精神障害が加わり、雇用率もアップした。市場経済理論が働く民間と違って仕事量が自分で決められず、国会や議会対応などに追われることも多い官公庁の実態を考えると、今回の改正への対応はかなり厳しい状況にあると言える。その「ひずみ」が一気に噴出した形だ。ただ、そうした事情があるとはいえ「水増しではない」「知らなかった」というような不誠実な言い訳で押し通している点は、失敗を認めようとしない「お役所文化」そのもの。困難なのであれば正直に「できません」と言い、どうすればいいかを国民と一緒に考えればいい。
では、どうすればいいのか。まずは役所の働き方の見直しが必要だろう。現実的に障害者増員が困難なのであれば、雇用率の設定基準を見直せばいい。ただ、そのためには徹底した障害者と雇用状況の調査が必要で、それをもとに現実的な雇用率を設けるべきだ。日本は欧州諸国と比べると障害者の定義が厳密だが、もっと柔軟であってもいい。国全体の目標としてある程度高い数値を設けるのもいいが、義務は低めにする。例えば政策目標を4・4%としたとしても、義務は2%にとどめ、残りは直接雇用にこだわらない「みなし雇用」で補う。社会福祉法人やNPOが運営する障害者中心の事業所に仕事を委託すれば、その分をみなし雇用とする。民間だけでなく役所も同様にみなし雇用が使えれば、かなり楽になるだろう。
補助金の原資となっている「雇用納付金制度」も、そもそも必要なものなのか。事業所が集中しやすい大都市と地方との地域格差や、産業ごとに異なる就業環境にも配慮すべきだろう。単なる数合わせのために障害者に単純労働を押し付けるようなことはせず、個性ある貴重な労働力として仕事の現場で戦力にできるような働き方の見直しが必要だ。障害者だけでなく、高齢者や出産・育児時期の女性なども合わせた総合的な雇用戦略と働き方改革が必要だろう。
急速な少子高齢化と人口減少が進む中、政府は労働力不足に対応するため外国人を導入しようとしているが、まずは国内で眠っているさまざまな労働力を活用することが先決だろう。意欲と能力がある障害者は、少なからずいる。
毎日新聞 2018年9月5日
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