サンタの格好をしたペンギンやチューリップ、アサガオのイラスト。奥本章寛(あきひろ)死刑囚(29)が色鉛筆で描いた絵を載せた今年のカレンダーだ。支援団体「オークス」(豊前市)が1部1000円で販売し、売り上げの大半を遺族に送っている。
前身の「奥本章寛さんを支える会」は奥本死刑囚の地元近くの福岡県吉富町に住む岸本加代子さん(67)を中心につくられた。保育士として働き、奥本死刑囚の両親との知り合いが周囲におり、事件を身近に感じていた。死刑判決を聞いた岸本さんは「22歳、まだ子どもじゃないか。人間は変われる」と、高裁判決控訴棄却後の2012年7月に数人の仲間と会を設立した。
事件の経緯を説明する学習会を開き、減刑を求める嘆願書や署名も集めた。当時、障害者福祉施設で働いていた荒牧さんも学習会に参加して事件を知った。「この子は本当に死刑になるべきなのか」と疑問を持ち入会、やがて代表に就いた。
「事件の全容を知りたい。裁判で明らかになっていない被害に遭った家族の様子も調べたい」。そんな思いから荒牧さんは14年3月に宮崎市を訪れた。関係者に話を聞き回るうちに、20代の遺族男性にようやくたどり着いた。「怒られても仕方ない」と緊張しながらの対面に、遺族男性は優しい口調で「奥本死刑囚に会って話したいと思っていた」と応じた。遺族男性と奥本死刑囚の面会もここから始まった。
荒牧さんらは奥本死刑囚が支援者との手紙に添えていた絵にも注目し「販売して収益金を遺族に送ろう」と動いた。14年夏にポストカード2万枚を作製し、宮崎、豊前両市で販売した。この年10月の死刑確定後も、奥本死刑囚との面会の様子を報告する集会「くるま座」を毎月実施するなど精力的な活動を続けている。一方で遺族男性との交流も続き、カレンダーの売上金などを送るだけでなく集会にも招待している。
「奥本死刑囚と遺族男性をサポートしながら、何ができるかを考えたい」。荒牧さんは穏やかな表情でそう話した。
毎日新聞 2017年3月5日