「白杖(はくじょう)=全盲とは限りません」。ゆるキャラとともに、こんなメッセージが記されたストラップを関東、中部、関西に住む全盲ではない視覚障害者ら五人が共同制作している。「目が見えないふりをしている」というインターネットの書き込みなど、誤解を解きたいという共通の思いが、遠く離れた障害者同士を結束させた。
ストラップ制作の中心は神奈川県秦野市の渡辺敏之さん(46)。二〇一三年、糖尿病が原因で網膜症になり、現在は左目でわずかに人や文字を認識できる。移動には白杖を使う。
渡辺さんは一四年初夏、コンビニのベンチでスマホを見ていた時、隣席のカップルのささやきを聞いた。「目の見える人が白い杖(つえ)持っていいの?」「詐欺じゃないか」
道路交通法では、全盲でなくても、目の不自由な人が道路を歩くには、杖を持つことなどを義務づけている。だが、健常者の理解は進んでいない。
こうした誤解は、全盲ではない視覚障害者の多くが経験している。渡辺さんによると、ネット上に誤解に基づいた書き込みが行われ、視覚障害者側が削除を依頼することもあるという。
こうした誤解を解くために「ゆるキャラでソフトにアピールしよう」というアイデアが、会員制交流サイト(SNS)ツイッターで交流している渡辺さんの障害者仲間とのやりとりで生まれた。その一人、大阪府茨木市の主婦、伊敷亜依子さん(30)が一五年九月、白杖を擬人化した「白杖の天使 はくたん」を考案作成。渡辺さんが「ストラップにして杖に付けよう」と持ち掛けた。
渡辺さんが試作品を手作りし、ツイッターに写真を載せると評判に。二百個を無料配布したが追いつかず、一六年五月から、東京都新宿区の日本点字図書館で一個五百円で発売。六月には通販も開始した。
このツイッターを見た、視覚障害がある愛知県武豊町の通信工事業榊原英雄さん(56)が、昨年末から印刷担当として参画。現在は障害者四人、健常者のガイドヘルパー一人の計五人で「はくたんストラップ制作委員会」を組織し制作販売している。
これまでの生産数は約八百個。売り上げの一部は視覚障害者支援団体に寄付している。
藤井貢・日本盲人会連合組織部長は「SNSはマイナス面もあるが、当事者同士のネットワーク作りに有益。ぜひつながりを広げて外に出て行くきっかけにしてほしい」と期待する。
問い合わせは、はくたんストラップ制作委員会へ、電子メール=hakutan.strap@gmail.com=で。
◆軽度な人向けにカラー杖を 「安心して歩きたい」
白杖は全盲の人が持つもの、という誤解の多さから、ある程度見える症状の軽い人向けに、色のついた杖を導入してほしい。こんな提案を、本紙読者で神奈川県湯河原町の渡辺浩美さん(56)が本紙に投稿した。
約十二年前に緑内障になった。左右の目の視野の大きさが違うため遠近感のずれや視界のかすみなどがある。日常生活にほぼ支障はないため白杖は使っていないが、段差や下り階段などは見えにくく、家族に声を掛けてもらっている。
本紙への投稿は昨年十月。「安心して歩けるよう、杖を持ちたい。でも白杖を持っていると『普通に買い物しているじゃない』と大半の人が考えると思う」と悩みを吐露し「白杖と同じように地面を探りやすい機能を持ちつつ、色や模様などで違いが分かる杖を作ってほしい」と訴えた。
渡辺さんは取材に、「白杖を選ぶか色のついた杖にするかは、本人が自由に選択できるのが理想。違いがはっきりすれば誤解もなくなる」と思いを語った。
<障害者と杖> 道路交通法14条1項は、目の見えない人やそれに準ずる人が道路を通行する際、杖を携えるか盲導犬を連れていなければならない、と規定。施行令で、杖は白か黄色とし、通行に著しい支障がある肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害の人にも杖を持つことを認めている。
ストラップを白杖につける渡辺敏之さん
2017年3月6日 東京新聞