視覚障害者と健常者が協力してゴールを目指すブラインドサッカーのアジア選手権(東京・国立代々木競技場フットサルコート)が9月7日閉幕した。日本は4位に終わり、2位以内に入ると得られるリオデジャネイロ・パラリンピックの出場権を逃した。それでも連日大勢の観客が詰めかけ、盛り上がりという意味では成功。サッカー日本代表の香川真司(ドルトムント)ら多くのアスリートが「ブラサカ」日本代表に激励のメッセージを送るなど、ブラインドサッカーへの関心を一気に高めた大会となった。
ブラインドサッカーは視覚障害者らが楽しめるよう考案されたスポーツだ。フットサルと同じコートを使用し、1チーム5人で対戦する。GKは目が見える人が務め、それ以外の選手は障害の程度による差をなくすため、アイマスクを着用。ボールは転がると「カシャカシャ」という音がし、この音とGKやコート外の味方の指示を頼りにプレーする。パスを極力減らし、ボールを持った選手が足に吸い付くようなドリブルで相手ゴールに迫るのが攻め方の定石だ。
聴覚と触覚だけでプレーするのは想像以上に難しい。ピッチ上には味方や相手の選手が動き回っており、初心者は前に進むだけでも怖さを覚える。大会会場の一角にはブラインドサッカー体験コーナーが設けられ、アイマスクをした参加者からは「こんな状態でサッカーなんて無理」「ボールの位置が全くわからない」などの声が上がった。日本ブラインドサッカー協会の担当者は「選手たちはぶつかる可能性があってピッチに立っている。その恐怖を乗り越えて覚悟を持って戦う姿勢に、見る人は感動するのでは」と魅力を説明する。
日本が大会最終日に臨んだ韓国との3位決定戦。リオ出場権は既に逃していたが、永遠のライバルとの一戦に会場は熱気であふれていた。競技中は選手やスタッフの指示の声が飛び交うため、歓声はNG。サポーターはボールがピッチ外に出た際などに、ここぞとばかりに太鼓の音を響かせ、選手の名前を連呼した。
試合は一進一退の攻防が続き、前後半では決着がつかず、PK戦にもつれ込んだ。結局、韓国が勝利し、韓国選手らがピッチに倒れ込んで喜びを爆発させていた。
5日間の大会期間中に訪れた観客は延べ5555人。同協会によると、昨年に行われた世界選手権と比べると、1日当たりの観客動員数は約3割増だという。メディアなどを通じて周知が進んだためだといい、大会に臨んだ黒田智成選手は「夢のような環境でできた」と振り返った。
サッカー選手からも激励のメッセージが相次いだ。香川はツイッターで「リオ・パラリンピック出場は果たせませんでしたが、同じ日本代表としてこれからもサッカー界を熱く盛り上げていきましょう!!」とエール。なでしこジャパンの大儀見優季(フランクフルト)もツイッターで「ブラインドサッカー日本代表、リオパラ出場の夢は断たれてしまったけど、その先の未来に繋がる闘いをしてほしい」とメッセージを送った。同じサッカー競技に打ち込む選手として、大いに刺激を受けたようだ。
2020年の東京パラリンピックは自国開催のため、予選を戦わずに出場できる。日本代表の魚住稿監督は「(東京パラリンピックで)メダルを狙って、チーム作りをしていきたい」と気持ちを新たにした。リオを逃した悔しさを胸に、選手たちは5年後の大舞台に向けて歩み始めた。
韓国との3位決定戦でドリブルを披露する日本の選手(中央)
2015.9.27 産経ニュース