風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

石坂洋次郎 くちづけ

2011-05-26 09:52:13 | 思い出

 「青い山脈」「若い人」は、昭和の人気作家石坂洋次郎の代表作である。
   映画化もされた。
 
しかし、そのころ、風子ばあさんは、太宰治にかぶれていた。
   
    ♪ 若く明るい歌声にぃ ♪ 
 
  には、そっぽを向き、にきび面で暗~い顔をして人間失格に没頭していた。

   つまり、せっかく「高校生の石坂洋次郎宅訪問」に指名されても、
  石坂洋次郎の小説はまったく読んでいなかったのである。

   そういう生徒のところに話をもってきた教師も教師だが、
  はいはいと承知した生徒も生徒である。

  もう暗くなりかけた夕方、心きいた母親が言った。
 「いくらなんでも、何か一冊くらい読んでから行ったほうがよくない?」
 
  それから、近くの小さな書店に走った。
 石坂洋次郎の本は「くちづけ」というのが一冊だけしかおいてなかった。

   その夜、あわてて読んで、翌日、母のすすめにしたがいそれを持参して、サインしてもらった。
  ちょっと恥ずかしかった。
 
  大作家と何を話したのか、とんと覚えはないが、
 その様子は記事になり、旺文社の高校時代という雑誌に写真いりで掲載された。
  サインいりの「くちづけ」とともに 今も本棚のどこかにしまってあるはずである。