「僕たちの記念写真」は仮題だ。これといって気に入った題名がまだ見つからない。
「僕たちのナントカ」「俺達のナントカ」などという題名は世の中には腐るほどある。あるが「僕たち」にこだわりたかった。「記念写真」というワードは心の印画紙、思い出とか回想とか懐かしいとか、そういう想いから考えた。
左端の松葉杖の男の子は中学一年生。足が不自由という気の毒な設定だが、ここでは原因の細かい記述はさける。その事に勉強不足だからだ。というより今は頭の中にとどめて置く。
過去におつき合いした方に足が不自由な方が四人いた。一人は怪我によってでこの方は以前に勤めていた会社の先輩だ。もう一人は違う職場の後輩で原因を聞くには忍びなかった。明るくてひょうひょうとしていたが、今から思うと無理して、そう振る舞っていたのかもしれない。もう一人は職場の経営者で先天的なものであると、後から人づてに聞いた。
最後が若い女性でバイト先での後輩だ。この方の境遇や身の上を参考とした。勿論先の三人も加味してたが、とりわけ彼女の身の上は当時の時代を象徴していて興味深い。近隣の炭坑が閉山して親も失業して不自由な足で自活しなければいけないのだ。本編の中学生もそういう事情で炭坑村から引っ越してきて、この東路(ひがしろ)市でいろいろな人に巡り会い生きて行くという設定だ。蛇足だが、ひがしろ市は架空の町だが、その字面から道東の釧路市がモデルだ。
次に後ろ向きにこちらを見ているリーゼントの若者はベース担当だ。アイドルはポール・マッカトニーだが流行歌が本当は大好きだ。夜学に通いながら自転車屋で働いている。こちらもモデルがいる。近所の鉄工所のお兄さんで、昼間は真っ黒くなって働いているが、夜になるとポマードで髪を整え縞の背広でキャバレーでベースを弾いているのだ。爪は黒く血豆の指で譜面に見入る姿は感動的であった。
当時は夜学に通いながら働く方が廻りに沢山いた。昼間の高校が駄目で夜学に流れるという方もいたが、多くは家が貧しく自力で学業に専念するという若者が主で、力強い世の中、時代であった。
真ん中の若者が本編の主人公だろうか。だろうかというのは主人公とは特定したくない。他の脇役も主人公たらんと考えているからだ。便宜上主人公とする。
服装はともかく髪が長髪で茶髪というのはいかがなものかと思われるかもしれないが、この時代確かにそういう方もいた。
主人公の家庭は漁師だ。年の離れた姉がいて、水商売の経営者でお店のママだ。
高校を中退して無職だが、姉の仕事を手伝いながらアチコチのバンドに参加して夜もキャバレーで音を出したりしている。ゆくゆくは、家業を継がなければいけないのだが、この数年家には帰っていない。
ギター歴は古く、幼少の頃から天才ぶりを発揮した。水商売の環境柄、出入りの流し達の影響でギターにさわり、ひがしろ市で伝説の流しのギター弾きから手ほどきを受けた。だから酔客の望むままに流行歌や演歌をやってのけ、姉の店でも人気の的で他店からも引き合いが出るほどだ。
ジャズは姉の旦那、義理の兄の所属するバンドに参加して勉強した。兄は北洋船団の船員で、大学を出たインテリだ。アラスカのアンカレッジに立ち寄った時に主人公達の為に貴重なブルースやロックの洋盤を買って来てくれる。友人の手伝いで漁船に乗りロシアに拿捕された事もある。トランペットの名手で中央からの誘いがあるほどの腕前だ。後に仲間の罪をかぶり刑務所に入る。ロシアのスパイ組織から遠のく為だと説明して姉は号泣する。
主人公は自身のバンドを組み、町のエレキ合戦に参加しようとするが様々な障害や困難が待ち受ける。またライバルバンドも登場して予選を通過して本選まで行き決勝では聴衆の喝采を受ける。
次に控えしはサイドギター。便宜上サイドとする。サイドは普通に昼間の高校に通い家庭も裕福で秀才だ。幼少の頃からピアノを習い譜面も読め、初見もきき、バンドの要だ。主人公は聴覚は優秀で一度聴いたフレーズははずさないという天才だが譜面がベタ譜が苦手でサイドには一目置いている。
サイドはギターの名手でもあり、他のバンドからの誘いもあるほどで高校でもバンドを結成している。主人公からも自身のバンドで参加しろと勧められるが、尊敬する主人公について行く決心をする。
正直サイドのバンドは他のメンバーがイマイチだが、彼の抜けた後にヴァィオリンが得意の女子高生が入り、付け焼き刃でギターを習得して主人公達のバンドをおびやかす存在となる。
何と女子高生にギターの手ほどきをするのは義理の兄だ。高校バンドが女子高生にバンドの参加を懇願する様は滑稽だ。ヴァィオリンとギターは素人目には似ていなくもないが別物だ。
最後はドラムだ。彼は看板職人で中学を卒業して働いている。義理の兄の関係する、フルバンドのセカンドドラムだが内気な性格で前面に出るのは苦手でフルバンドで叩く事は滅多にない。いつもドラムのセットや片付けに終始して前二人にポジションを譲っている。前に二人いるから二番手ではなく正確には三番手、サードだ。
サードは地味だが正確なリズムを刻み、主人公の変幻自在なギターもサードのリズムキープがあってこその真価なのだ。実際バンドの連中は4ビート主流の演奏をしているからサードの8ビートの凄さを知らない。それどころか若者の流行の音楽をテケテケと嘲笑するところがある。
年配が多くクラシック出身や戦争経験者もいる。海軍軍楽隊出身もいて、いかにも進駐軍の音楽をやっている感じがしてレパートリーのほとんどはダンスミュージックだ。そういうサードをみかねて主人公がバンドに誘ったのだ。
以上