机の上

我、机の上に散らかった日々雑多な趣味(イラスト・劇画・CG・模型・HP・生活)の更新記録です。

書棚に無い本

2015-03-14 05:21:00 | 楽描き
「倫敦塔」
 夏目漱石の短編である。


 二年の留学中ただ一度倫敦塔(ロンドンとう)を見物した事がある。その後(ご)再び行こうと思った日もあるがやめにした。人から誘われた事もあるが断(ことわ)った。一度で得た記憶を二返目(へんめ)に打壊(ぶちこ)わすのは惜しい、三(み)たび目に拭(ぬぐ)い去るのはもっとも残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う。

冒頭の部分。

 二十代の半ば頃まで釧路市に住んでいた。繁華街の一角に「倫敦塔」という喫茶店があった。その名を示す通り趣きのある店で、勿論入った事もある。

 その倫敦塔で映画「挽歌」のロケが行われた。当時、某喫茶店でバーテンダーをしていたのでよく憶えている。出演者の田中健と秋吉久美子が某喫茶店に突然入ってきたのだ。倫敦塔とは目と鼻の先である。おそらくはロケの野次馬から逃れて来たのであろう、関係者に促されて、すぐに出ていった。秋吉久美子の肌の白さとそれとは真逆に田中健の顔の黒さは印象的であった。

 原作に登場する喫茶店は「ダフネ」という名前だ。実在の喫茶店であったらしい。
むかし会社の先輩の御宅に御邪魔した時の事。部屋の壁一面にキャバレーやスナック、喫茶店のマッチがコレクションされていた。その中に喫茶「ダフネ」のマッチもあった。一緒に連れ立った事務員の女性との会話は誇らしげだ。

 会話の中で、今は無い「ダフネ」は「エデン」という喫茶店の辺りにあったという。エデンは承知していたから五十年前の記憶をまさぐると幣舞橋の近く釧路川沿いの北海道新聞社旧跡地の裏あたりだろうか。今は大きなホテルが建っているし廻りの様子も変わっている。勿論記憶はあてにはならない。間違っているかもしれない。

 夏目漱石に興味をもったのは友人の影響だ。それからというもの機会ある度に調べている。この雑文を書くきっかけはテレビで英国の作家スティーブンスンの一文が引用されていたからだ。なつかしくネットで検索していたら漱石に辿り着き「倫敦塔」となった次第だ。

 ガリバー旅行記や宝島、シャーロックホームズにアーサー王の竜退治と幼い頃より慣れ親しんだ英国の名作なのだが本は書棚にはない。ないがわかったつもりでいるから始末に悪い。少年の頃に裕福な友達の家に遊びに行った時に部屋の本棚の少年少女名作文庫を読み漁った思い出があるからだろうか。

 それでもうつらうつらと夜中に、当てにならない知識や記憶を頭の中で彷徨うのも、それはそれで一番の旅行かもしれない。ひがみではなく金もかからないし、忘れていた数十年前の思い出にも巡り会える。

 最後にロバート・ルイス・スティーブンスンの一文を、記憶に足りないが・・・

「若者よ、何を所有するかではなく何を欲するかの問題であり結果ではなく過程が大事なのである」

・・・・だったような。