十年近く病院の守衛をしていた事がある。三軒の病院を経験したが一番最初の病院は終末期の医療介護の病院であった。入院患者の多くは老人で外来には、あまり重きを置いていなかたった。
夜中、守衛室で仮眠をしていると患者様の叫び声に驚くこともあった。廊下を巡回で歩いていると老婆の痩せ細った手足を垣間見ると、子供の頃に見た地獄絵図の様で驚いた。
時折、聞こえるバキュームの音とズズズッという音は喉に詰まった淡を吸引している音なのだろうか。何かで読んだのだが、あれは当の本人は相当、苦しいらしい。深夜の病院の廊下は恐ろしい。
勤務時間は夕方から朝までの十五時間。その間に多い時で三回も葬儀屋がくる事もあった。当然、家族の方の出入りもある。仮眠も休憩も許されているのだが、そういう時は朝まで大変であった。
亡くなった方を霊安室までお運びした事が二度ほどある。これは守衛・警備員の仕事ではないのだが頼まれれば仕方がない。夜間、看護師が三人とヘルパー、一人が常駐しているのだが、これはどういう事だろう。
他人様とはいえ亡くなった方を目の当たりにするという事は身も心も疲弊する。先輩は、すぐに慣れると言っていたが、そうはならなかった。亡くなった方の家族の有様もいろいろで対応も苦労であった。
最近は老人医療や延命治療も問題になってきているようだ。国の予算も深刻のようだ。病院で他人様の死と少しとはいえ係ると人間の死というもを考えてしまう。人間の死は、自死なのか他死なのか、それとも自然死なのか。
題名の007は殺しの番号とは、くだらない題名を付けたと思う。不謹慎で炎上するかもしれないが、守衛の立場とはいえ医療現場に入って一番先に浮かんだフレーズだ。
ポツンと離れた守衛室の一角で、自分はまったく係りがないのだが、患者様の死の一端は、その運命は自分にも関係があるのかも知れないと考えてしまう。自分がここに居なければ、地球の歯車が少し変わり患者様は延命するかもしれない。