ひまわり博士のウンチク

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中平康監督『変奏曲』

2015年02月26日 | 映画
 日本映画専門チャンネルで長く続いていたATGアーカイブが3月で終わるらしい。残念である。ATG映画は多数の名作・話題作を排出したにも関わらず、DVD化されずに現在では観ることが困難な作品が多い。


 
 この映画は五木寛之原作の小説を映画化したもので決して傑作とは言えないが、記憶に残るシーンが多い。撮影はカメラマンの浅井慎平である。

 1972年のパリ。商社マンの夫(二谷英明)が買い付けの旅に立った後、杏子(麻生れい子)はカフェで、強いコニャックをたて続けに3杯飲む。そこでギャルソンに「アンコール」とお代わりを告げるシーンが眼に焼き付いている。そこで、偶然昔の男森井統三(佐藤亜土)と再会した。
 森井は今も、国際的な政治組織に属し、危険な活動を続けている。しかし神経をすり減らしていた森井は、杏子の前で不能であった。そんな森井に暖かな感情を覚えた杏子は、2人でアバンチュールの旅に出ることを提案する。
 二人はオルリー空港から南フランスのマントンに向った。毎年この町で催される有名なコンサートのためホテルはどこも満室だった。タクシーの運転手に探させてやっと古びたホテルの一室を借りる。杏子は、わざと森井の前で裸体を見せ、卑猥な言葉で感情を刺激して回復させようとしたが、森井が機能を回復することはなかった。
 マントンからニースに出向いた二人は、杏子の夫の友人である水品(松橋登)に出会う。彼もまた金髪の女性クリスチーヌとの秘められたの旅だった。四人で向かった水品のアパルトマンで、杏子と水品、森井とクリスチーヌというカップルの交換が行われる。帰りの車の中で森井は、クリスチーヌとの間では可能だったことを杏子に告げる。しかし、ホテルに帰ってから森井は杏子の裸体を直視できなくなる。
 サンミッシェル教会の前庭で、世界的なチェリスト、オイストロボーヴィッチのチェロが奏でられている。チケットのない二人は、ダフ屋に特等席があると案内された民家のベランダからこの音楽祭をながめる。このシーンも強く記憶に残っている。
 森井はその音色に心を奪われているが、その背後の部屋で男女が絡み合う。杏子はそれをのぞきながら、自分自身を慰めた。
 演奏が終り、二人は心がまじりあわないまま夜の浜辺を歩いた。
 杏子はこの短いアバンチュールの代償として今の安楽な生活を捨る決心をしてパリに帰った。ところが、森井のアパートには、組織の仲間が待ち受けており、森井を連れ去った。
 
 1970年代は全共闘運動が挫折し、学生運動は国際的なテロ組織に飲み込まれていった時代である。その流れの中で、テルアビブ事件やよど号ハイジャック事件が起きている。詳細は描かれていないが、森井はそう言った組織から離れようと策略したことから追われている。
 しかし、映画はそんな社会背景をにおわせながらも、主題はメロドラマである。メロドラマなのに台詞がやたら理屈っぽく、時代を感じさせる。
 ろくでもないストーリーだが、映画全体から醸し出される雰囲気は官能的でスリリングだ。数あるATG映画の中でも、時々見たくなる作品のひとつである。真剣に見るわけではない、いわば環境ビデオみたいなものである。
 公開当時どうだったか記憶にないが、ベッドシーンでの頻繁なブラックアウトや画面4分の1くらいにべったりと張り付いたべた塗りはオリジナルにはなかったと思う。VHS化した時か今回の放送時か、どの段階で処理したのかわからないがあまり気分のいいものではない。
 主演の麻生れい子は見るからに浅井慎平好みの女優だ。さすが女性を撮らせるとうまい。もしかすると、浅井慎平がオリジナルフィルムを持っているのではないだろうか。もし現存するなら再編集した完全版をぜひ観たい。


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