ひまわり博士のウンチク

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川手鷹彦『とらおおかみ』

2010年12月11日 | 本と雑誌
Toraohkami1
 
とらおおかみ
川手鷹彦 著
地湧社 発行
 
 勉強会から生まれた

 創作民話と唄

 
 この本は子どもたちとの懇談会の中で生まれたという、唄と創作民話の本である。
 
 変な本である。
 フツーの大人が忌み嫌うゴキブリやオニやオオカミが当たり前に登場して、当たり前のようにいたずらをしていく。
 しかし、「変」と思うのは大人だけで、子どもにとってはちっとも変じゃない。
 ゴキブリもオニもみんな友達なのだから。
 
Toraohkami2
 
 ごきぶり五郎兵衛 黒びかり
 ネズミの忠太郎 ねずみいろ
 五郎兵衛忠太郎に追いかけられる
 こら待てーこら待てーこら待てー

 
 この手書きの楽譜も著者の手による。
 
 未就学児童が好きなものの一つに、必ず入るのが「ウンコ」。
 ウンコの模型やウンコのぬいぐるみは必ず売れる、幼児玩具の鉄板アイテムなのである。
 
 この本にウンコは出てこなかったと思うが、ウンコは子どもの感覚が大人の物差しでは絶対に計ることができないことの、証拠だ。
 世の中に存在するもののすべてを、その名前や外見だけで善し悪しを決めつけたりしないのが子どもなのである。
 
 「良くないことはちゃんと教えなければ、社会に出てから問題ではないか」などと、大人ぶった頭で心配する必要は全くない。
 なぜなら、そんな時期を経て、誰もが大人になっているのだから。
 
 みんな子どもだった時期があるのに、小さい子どもを理解することができずに、虐待やらいじめやらが頻繁に起きている昨今、こんな「変な本」がすこしでも子どもの感覚に近づく助けになるのなら、これは価値ある出版物ではないだろうか。
 
 最後に、著者に無断で拝借して叱られるかもしれないが、短い創作民話を一編紹介しておく。
 小さい子どものいる親たちだけでなく、子どもの感覚を忘れていない、あるいは忘れたくない大人にも必読の書である。


 
  鬼たちの粥

 昔まだ鬼の身体に色のついていなかったころ。
 ある日鬼たちがお腹をすかせ、太郎のところにこぞって押しかけました。
「おーい太郎、おまえをペロリと食べにきたぞう」
「それなら鬼さん、まず裏山から刈り、枯れ木を拾ってきてください」
「よし、わかったー」
 鬼たちは一目散に駆けてゆき、お山と家を何度も行き来して運びました。身体は真っ赤っかに光り、汗がシューシュー飛び散りました。太郎の家の前は山のようなでいっぱいになりました。
「おーい太郎、おまえをガブリと食べるぞう」
「けれども鬼さん、その前に畑へ行っておを掘ってきてください」
「よっしゃー、わかったー」
 鬼たちはまた一目散に駆けてゆき、畑に跳び込むと、ものすごい勢いで土を掘り起こし、芋を取りました。身体は土まみれ泥まみれで真っ黒くろになりました。太郎の家の前にはもうひとつ、芋の山が積み上げられました。
「おーい太郎、今度こそおまえをガリガリ食べちゃうぞう」
「いいえ鬼さん、もうひとつだけお願いします。海へ行って塩を取ってきてください」
「よぉーし、わかったー」
 鬼たちはまたもや一目散に海辺まで駆けてゆき、ざぶーんと海に飛び込むと塩を取ろうとしました。けれどもどう泳いでももぐっても、さっぱり塩は取れません。鬼たちは困りました。
 すると浜辺で塩を乾かしている村人たちがおりましたので、少し分けてくれるように頼みました。
 すると村人たちの言うには、
「塩などは、少し分けるわけにもゆかぬ。どうせならそこに積まれた塩袋を、みんな担いで持ってゆけー」
ところがこの塩袋の大きいこと重いこと。鬼たちは一所懸命運びました。けれども柴は刈ったわ芋は掘ったわ、海にももぐりましたので、大そう疲れておりました。重たい塩の袋を担いで歩くのもへっとへとのふっらふらで、中まっしらしらけになりました。
 太郎の家に着くころ、鬼たちはぐったり。今にも絶え入りそうでした。
「おーい太郎~、わしらはもうへとへとじゃ~。おまえを食べる気にもならんし、おまえをみ込む力もねぇ~。けれども腹はペコペコだぁ~。何かつくって食わしてくれ~ぃ」
 そこで太郎は家の前にある山のような薪を燃やし、山のような芋を大鍋でぐつぐつぐつぐつぐつぐつ煮て、鬼たちの持ってきた塩でパッパッパッと味つけし、おいしいおいしい芋粥をたっぷりつくってやりました。
 腹をすかせた鬼たちは、ガツガツ・モリモリ・ペロペロと大喜びで食べました。
 太郎もいっしょに食べました。大きな鍋はたちまち空になりました。
〈えことば〉
 ああうまかったー うまかったー
 こりゃー 人の子よりうまい
 今度も腹がへったなら
 うまい芋粥炊いてくれ
 芋は掘ってきてやるぞー
 柴も刈ってきてやるぞー
 塩も運んできてやるぞー
 ああうまかったー うまかったー

 唄いながら踊りながら鬼たちは上機嫌で帰ってゆきました。
〈唱えことば〉
 ああうまかったー うまかったー
 こりゃー 人の子よりうまい
 今度も腹がへったなら
 うまい芋粥炊いてくれ
 芋は掘ってきてやるぞー
 柴も刈ってきてやるぞー
 塩も運んできてやるぞー
 ああうまかったー うまかったー ああうまかったー うまかったー……

 唄声が遠ざかるのを聞きながら、太郎も嬉しく、けれどほんの少しだけ鬼たちを気の毒に思いながら、家の中にはいりましたとさ。おしまい。


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