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シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』(上下巻、光文社古典新訳文庫、小尾芙佐訳)

2018-02-06 | 書評「ハ行」の海外著者
シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』(上下巻、光文社古典新訳文庫、小尾芙佐訳)

幼くして両親を亡くしたジェイン・エアは、引き取られた伯母の家で疎まれ、寄宿学校に預けられる。そこで心を通わせられる人々と出会ったジェインは、8年間を過ごした後、自立を決意。家庭教師として出向いた館で主のロチェスターと出会うのだった。ジェインの運命の扉が開かれた。(「BOOK」データベースより)

◎『ジェーン・エア』は自伝小説

『ジェーン・エア』をはじめて読んだのは、おそらく高校時代、角川文庫(田部隆次訳)だったと思います。エミリー・ブロンテ『嵐が丘』(新潮文庫)を読んで、お姉さんのほうにも関心がむいたのでしょう。実際にはブロンテ3姉妹ですが、残念ながら3女・アンの著作は住まい(北海道標茶町=しべちゃ町)の図書館にはありませんでした。

 今回新訳(光文社古典新訳文庫、小尾芙佐訳)がでたので、再読してみました。再読といっても、ほとんど記憶に残っていませんでしたので、初々しい気持ちで読むことができました。

『ジェーン・エア』は「自伝」と明確な副題がついています。そのあたりについて、小説と現実を重ねてみたいと思います。

小説1:幼くして両親を失ったジェーン・エアは、冷酷な伯母の家に預けられます。
現実1:C・ブロンテは1816年、イギリスのヨークシャーの牧師パトリック・ブロンテの長女として生まれました。5歳のときに母を失い、伯母に育てられます。

小説2:その後ジェーンは、ローウッドというひどい環境の寄宿舎に送りこまれます。ジェーンはここで生徒として6年、教師として2年をすごします。
現実2:1824年、ランカシャーのカウアン・ブリッジ校に入学します。その学校は施設・教育ともにひどく、2人の姉は学校の不衛生が原因で肺炎のために死去しました。

小説3:18歳になったジェーンは、ロチェスター家に家庭教師として雇われます。ジェーンは醜男の主人と恋におちいり結婚の約束をします。
現実3:1842年、教師資格を得るためにブリュッセルの学校に入学します。そこで妻帯者のエジェ氏に特別の感情を抱きます。

 ところが結婚式の当日、ロチェスターは精神を病んだ妻を、屋敷の奥に幽閉していることが明らかになります。深い悲しみのなか、ジェーンは屋敷を去ります。

 そして牧師をしているセント・ジョンに救われ、プロポーズされます。しかし彼の生き方に同調できず、ジェーンはその申し出を断ります。

ある夜のことです。ジェーンは遠くで自分を呼んでいる声を耳にします。不吉な思いのなか、彼女は屋敷へと飛んでかえります。そこでジェーンが目のあたりにしたのは、火事で妻を亡くし、片腕を失い盲目となったロチェスターの姿でした。

 C・ブロンテのおいたちから、作品を照射した解説があります。
――ジェーン・エアは「ちびで、血色がさえない上に、不細工で、ひと癖もふた癖もある顔」をした家庭教師だったが、真の意味の愛と自由を求めつづけていた。この愛と自由を追求する姿勢は、「なぜわたしがこのように苦しまなければならないのか、という問いかけ」を発した子供時代から一貫している。(知の系譜明快案内シリーズ『イギリス文学・名作と主人公』自由国民社)

◎少年少女小説ベスト45位

意外に思われるかもしれませんが、『ジェーン・エア』は老若男女から親しまれています。『少年少女小説ベスト100』(文春文庫ビジュアル版)という本があります。各界の著名人143名が選んだものです。私の読書の道しるべになっている本のひとつです。

『ジェーン・エア』は、トゥエイン『ハックルベリの冒険』とともに45位にランクされています。ちなみに第1位はダニエル・デフォー『ロビンソン漂流記』、つづいてアレキサンドル・デュマ・ベール『岩窟王』、ジュール・ベルヌ『十五少年漂流記』、スティーブンスン『宝島』、バーネット『小公子』となっています。

日本の作品では、中勘助『銀の匙』11位、宮沢賢治『風の又三郎』20位、下村湖人『次郎物語』22位となっています。夏目漱石『吾輩は猫である』は57位でした。

落合恵子は『ジェーン・エア』を中3のときに読み、ひどく暗いものがたりだと思ったそうです。映画『帰郷』を観て、『ジェーン・エア』の再読を思い立ちました。そして「ヒロイズム」についておおいに考えることになりました。落合恵子が引用している文章を、孫引きになりますが2つ紹介します。あまりにも的確に、本書を語ってくれているからです。

――もし男性が、私たち女性の実際の姿を見ることができれば、彼らは少々驚くでしょう。どんなに賢いどんなに洞察力のある男でも、女性について錯覚に陥っていることがしばしばあるのです。(落合恵子執筆、朝日新聞社学芸部編『読みなおす一冊』朝日選書、エレン・モアズ『女性と文学』(青山誠子訳、研究社出版からの引用)

――『女性と文学』(青山誠子訳、研究社出版)の著者・エレン・モアズは、ジェーン・エアの愛情の選択について、次のような解釈を加えている。「ジェーンが自尊心を持って」見つけだし、「自分を委ねることができるのは」、あらゆるものを失ったロチェスターのような男に対してだけなのである」と。(落合恵子執筆、朝日新聞社学芸部編『読みなおす一冊』朝日選書)

 夏樹静子が『ジェーン・エア』を読んだのは中1のときで、「私はたちまちヒロインに感情移入した」と書いています。そしてクライマックス・シーンについて、つぎのような文章を寄せています。
――深夜に「ジェーン」という叫び声を聞いて、馳せ戻るあたりで、私は魂がふるえるような感動を覚えた。ああ、これが愛なのだと、十三歳の私は生まれてはじめてそれをありありと疑似体験した。(夏樹静子の寄稿、文藝春秋編『青春の一冊』文春文庫より)

 最後にジェーン・エアの人物にせまっている文章を、紹介させていただきます。
――恋愛における男女の対等性を強く主張する彼女は、人間は感情に支配される存在であるという基本的な人間観をもっている。虐待には怒りを、愛情には情熱をもって応えることが人間として当然の行いであると信じている。(日本イギリス文学・文化研究所編『イギリス文学ガイド』荒地出版社P101より)

『ジェーン・エア』は、中学校の図書館に常備しておかなければならない作品のようです。私は異なる訳書で3回読んでいますが、いつも新鮮な感動を覚えています。もっとも私の記憶力の欠如が、そうさせているのかもしれませんが。今回、小尾芙佐訳に接して、私は「山本藤光の海外文学」の順位を、少しだけ上に修正しました。
(山本藤光:2011.04.23初稿、2018.02.06改稿)

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