信用金庫に入庫して以来、鹿島支店に5年間勤務した私に昭和53年2月、新築なったばかりの「宮野町支店」勤務の下薙が降りた。
母方の祖父の菩提寺があるほかにまったく武雄に縁の無かった私は、まず情報収集先の確保と、地元のコミュニティに参加することから始めることにした。
コミュニティは地元の合唱団やまびこに入団して一段落。
当時の情報収集先は、1に床屋さん、2に米屋さん、3に酒屋さん、変った処では武雄温泉もいい情報源であった。
その中でも床屋さんは超一流の情報収集先と定義していた。
私は、周りの先輩の薦めもあって支店の近くにある「Yさんの床屋さん」に散髪に通うことにした・・・・・。
そこは当時、住み込みのお弟子さんがいつも5人くらい居るという有名な床屋さん
狭い店内には人がモコモコの状態で、その中を口髭をたくわえパンチパーマで彫りの深いメキシカンのようなマスターがハサミを片手に走り回っていた。
当時ニューブリードという楽団のバンドマスター「ダン池田」にそっくりのマスター。
それ以来、私はこの床屋さんの常連客に収まったんである。
今でも、月に一度この床屋さんに行く前に必ず電話で予約をするのが習慣となっている。
予約しないと、結構忙しくされていて「待ちぼうけ」をくらうことが多いからだ。
予約の時は電話で声色を変えて、わざと仰々しく・・・・
「もしもし、保健所ですけど今日立ち入り調査にお伺いしたいんですけど・・・。」
またある時には・・・
「あのぅですねぇ。国税なんですがねぇ、昨年の申告のことで、ちょっと調べさせて貰いたいんですがねぇ・・・・・。」
とか云うんである。
はじめは効果抜群で、明らかに電話の向こうの声が上ずっていたものだが、
さすがに最近は店のスタッフも慣れたもんで、
「どうぞ、うちは完全明朗申告、一円まで誤魔化したりしませんよ・・・。」
と、余裕なんである。
実は私はこの床屋さんから気配りの他にも多くのことを学んできた。
それはサービスの極意とは、お客様の(ちょっとうれしい)を引き出すこと。
五年ほど 前になるだろうか、暮れも押し迫ったある日、いつものように散髪を済ませ代金を払って帰ろうとすると・・・・
『尾形さん、年末キャンペーンでくじ引きをやっています。一枚引いて下さい。』
ええーっ、こんなことまでやるのかと思いつつ、勧められるままにくじを引く私
一枚引いてそのまま店員さんに渡すと
「ジャジャジャ-ン!」といいながら、目の前でくじを開封
『あらーっ凄い、尾形さん特賞よ、特賞・・・・。』
店のスタッフが慌ててレジの前に大集合という演出
『凄い、凄い、凄い!!!』の大合唱なんである。
内心私の心は揺れていた。もしカラーテレビでも当ったらどうしよう。たった3,500円ほどの床屋代で豪華賞品でも当った日には気の毒で申し訳ないからだ。
それでなくてもここの床屋さんの気配りは、いつもさりげなくて最高なのに・・・・。
本気で特賞などと云われても困ってしまうと思っていた。
でもそれは私の取り越し苦労であったのだ。
『はい尾形さん、特賞の爪切りセットでーす。』
内心ホッとしながらも要らぬものでもないし、正直嬉しかった。
そして、ああこれだ!と気づかされたんである。
相手の心にプレッシャーを与えず、ちょっと嬉しいを感じさせるのが最高のサービスだということに・・・・。
ここの床屋さんはいつも必ずお見送りをなされる。
私の車が見えなくなるまで手を振って下さる。
北海道で見かけた囲炉裏のような、陽だまりのような暖かい床屋さん
誰にでも分け隔てなく優しく声を掛けられるマスター
人の良さが顔に出ている若マスター
サービスの本質を究められたお店
中味ともいえる本業の理髪は勿論、お客様をお迎えする前味、そして再来店に結びつく後味も相俟って、実にいい味を出されているのだ。
毎月髪切りに いくのが楽しみで仕方が無い、そんな私の大切な床屋さんなんである。
いい替え歌ですね。
今度お店のテーマソングにオススメ致しましょうね。暖かいコメントありがとうございます。
当たり前のようで中々できることではありません。またスタッフの皆さんから人の悪口を一度でも聞いたことがありません。
いつも人のいい所を見つけて、そこに光をあてていらっしゃいます。
見習うことばかりです。
すべてマスターがコツコツと積み上げていらっしゃった結果が花開いていられるのだと思っています。
柚の木なんの木床屋の木って歌が流行りましたよね。
素晴らしいサービス、私も見習いたいと思います。
北へ南へ、東へ西へとお忙しい日々を過ごされているようですが、
お身体無理しないで頑張ってください。
常日頃、風竿さまの文才に感心しております。