風竿の「人生の達人」烈伝

愛すべき友、仕事・趣味の磯釣り・ゴルフ・音楽、少しの読書などにまつわるあくまで「ヒト」に重点をおいたブログです

冬の木立ち

2014年02月20日 23時57分47秒 | 風竿日記

それは、国際線の待合室でのことだった。

手荷物検査を受けて、税関も通過して、後は飛び立つばかりと心は高揚していた。

そんな時に、ある優良企業に勤務する親しい友人から電話が入った。

始めは仕事関係でのお付き合いであったのだが、ふれあいを重ねるうちに、彼の人柄に魅かれて、「一生涯のお付き合い」をお願いした貴重なる大切な友人。

彼の勤めている会社には同じような経緯で「一生涯のお付き合い」をお願いした男が、あと二人いる。

この三人は大企業の社員にしてはまったくと云っていいほどに気取りがなく、しかし、胸の中にはいつも熱い血潮が流れていて、つい引き込まれてしまう素晴らしい人間なのだ。

  

空港はこの寒い時期にも拘わらず、わりかし混んでいて、滑走路を大きな窓越しに見ると、こな雪が降っていた。

こんな日に南の国に行こうとしているのだから、つい口元が緩んでしまう。

私は早々と免税店で家内へのお土産を買い求め、待合の椅子に腰かけて、楽しいことになりそうな南国のことに想いを馳せていた。

そんな時に携帯のベルがなったのだ。

「尾形さん、今何処にいらっしゃるのですか???

「実は私も福岡空港に居ましてね・・・・・。もしお会いできるのなら一目だけでも会いたいのですが。」

私のブログかfacebookの記事で、私が福岡空港にいるかも知れないと思ったに違いない。

思いがけない場所で思いがけない弟分からの電話にちょっと驚いた私。

九州出身者の彼のことだから、帰省してたのだろうと思ったのだが、その後の彼の話を聞いて天と地がひっくり返ってしまった。

「尾形さんにだけはちゃんと云わなければと思っていたのですが、実は私、昨年会社を辞めまして・・・・。」

「なんで辞めた。あんないい会社を・・・・。」

電話の先では詳しくは尋ねられないもどかしさもあったのだが、彼の居る所は国内線、こっちは国際線だから同じ福岡空港といっても相当離れている。

まあ、今回は会えないかと、また今度ゆっくり会おうということで電話を切った。

しかし、何で急に辞めたのだろうかと心配でたまらなくなり、彼のことを良く知っている、もう二人の一生涯のおつきあい友達に電話をかけた。

「彼のことは、残念としかいいようがないんです。むしろ彼の方が被害者だと思っています。仕事熱心な彼のことですから、遅くまでミーティングやら検討会議やらをやっていたらしいのですが、それをパワーハラスメントだと内部告発されてしまって・・・・・。」

そんな・・・・・私は絶句するのみであった。

彼がパワーハラスメントを起こすような男でないことは、ちゃんとしたコモンセンスのある人間なら誰だって判る筈なのだ。

人を思いやる優しい心根も常人のレベルを遥かに超えている。

それは私がここ3年、しっかりと見てきた。

私が保証してもいいくらいなんである。

彼は本社にパワハラを告発されてから、潔く辞めたというんである。

大企業病だと直感した。

組織は決められた通りにしか動けない。そこに人の客観的要素は入る余地がない。

口では温かみのある商品を売っているクセに、組織は血が通ってなく、冷たいのである。

仕事に厳しい上司を告発する軟な社員も社員だが・・・・・。

彼に救いの手を差し伸べられない上司も上司だ。

これまで、散々にコキ使っておきながら・・・・。

私は悔しくて国際線のロビーで思わず泣いてしまった。

   

そんな時に、また彼からの電話がなった。

「尾形さん、今国際線ターミナルまで来ました。会えませんかね・・・・・。」

税関に掛け合うが、一端、ここのゲートを潜ると、簡単には戻れないらしい・・・・。

その旨を告げると・・・・・

「ゲートはどこですか・・・。つまらないものですが、ちょっとしたお土産があるので手渡ししたいのです。」

双方が電話しながら相手を探しあっている。

残念なのは相手が男だというくらいで、空港の中のワンシーンとしては映画にでもなりそうな感動的シーンなんである。

やがて、手荷物検査場の向こう側から、必死に携帯電話に話しかけている彼の姿が目に止まった。

同時に彼も私を見つけたようだ。

50mくらいの距離であろうか、顔を見合せながら携帯で話す。

「辞めた理由は聞いたよ。君は絶対に悪くないと信じている。再就職先でまた頑張ってね。いつもどんな時も君を応援しているからね。」

「今、空港の係員にお土産を預けました。飛行機の中ででも食べて下さい。」

やがて特段の計らいで、税関越しにその「新宿カレーあられ」なる彼の気持ちのこめられたお土産が私のもとに届けられた。

それを受け取る姿を確認すると、彼は大きく手を振ってくれ、やがて私は機上の人となった。

飛行機の中で彼のお土産を口にしながら、ショックを受けた心を落ち着かせる。

「悔しかったろうね。はがゆかったろうね。」

と云いながらポリポリ食べた。その味は苦い大人の味がした。

その昔、一緒に酒を酌み交わしながら

「病める時も健やかなる時もずっと友達だからね。」

と云った言葉を、自分自身も反復していたのである。

 

冬の木立は、寒い荒野に一人で立っている。

愚痴も云わず、恨みごともいわず、寒風吹きすさぶ雪の中、一人で黙って立っている。

一切、弁解しなかった彼に、冬の木立の厳しさを見た。

新天地で頑張ってくれと心から願わずにはいられない。

いや、彼ならばきっと大丈夫。

また再び、いい仕事をしてくれると信じている。

なぜならば、彼のペースにはいつも「お客様の幸せ」がキチンと据えられているからなのだ。