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中村るいの「ギリシャ美術史入門」

2019-09-02 13:16:21 | 読書
三元社から2017年に出た中村るい著「ギリシャ美術史入門」を読む。220ぺージほどのコンパクトな本だが、うまくまとめてあって、古代ギリシャ美術の概要が良くわかる本だ。筆者は東京芸大を卒業後にハーバードで博士号を取ってギリシャ美術史を専門にしている研究者だが、素人にも判りやすく書いている。あとがきを読んでみると、大学で教えている内容を分かりやすくまとめた本だと書いてあった。こうした本では文章だけだとイメージが湧かないので、図版が多く入れられるが、豪華な大型美術本でもないと、写真の鮮明さが欠けてよく判らないことが多い。それがこの本では、加藤公太による復元線描画が多く入れられていて大型の図版でなくても説明がよく判る。こうした図版が100点以上も入っているので助かる。

本の構成は年代順に分かれていて、全体が11章で構成されている。後ろに簡単な年表もついているが、青銅器時代、幾何学様式時代、アルカイック時代(黒絵、赤絵を含む)、クラシック(古典様式)時代、ヘレニズム時代と順番に説明される。これまで、なんとなく黒絵、赤絵(この本によると最近は黒像、赤像と呼ぶらしい)やアルカイック・スマイルなどは知っていたが、全体の関係が判っていなかったので、この本を読んでなんとなく全体像が頭に入った気がする。

この本のもう一つの特徴は、我々が知っている、ミケランジェロやピカソ、モジリアーニや、ギリシャ美術に影響を与えた、エジプト美術やペルシャ美術などとの関係を具体的な図版で示していることだ。ピカソの「アビニョンの娘たち」はアフリカ美術の影響を受けていると考えていたのだが、この本を読むとギリシャ美術の影響が強い様だ。ミケランジェロの描いたシスティーナ礼拝堂の天井画と、ラオコーン像との比較もなるほどと納得した。

美術の専門家というのは、こういう点に関心を持って研究しているのかというのも大変に勉強になった。

もう一つ驚いたのは、「ニケ像」の説明だ。ルーブル美術館の階段の途中に有名な「サモトラケのニケ」と呼ばれる像が置いてあるが、この「ニケ」というのは勝利の女神で、アテナが遣わすらしい。このニケを英語読みすると「ナイキ」となり、有名なスポーツ用品メイカーの商標になっているのだ。

確か映画「バックトゥザフューチャー」で、1950年代の過去の世界へ行った時に、主人公はナイキの靴を履いていて、それを見た不良連中が「ニケというのはインディアンのブランドか?」などと言って、からかう場面があったような気がする。それを見た時にこれが勝利の女神の名前であることに気が付くべきだったといまさらにして思った。