ロシア正教会駐日ポドヴォリエ 聖ニコライ聖堂
(住所:東京都文京区本駒込2-12-17)
(住所:東京都文京区本駒込2-12-17)
11月23日(日)、地下鉄丸ノ内線の本郷三丁目駅で下車し、東京大学へ向かう。前回もお知らせした通り、私は東大の一般市民向け公開講座を受講している。会場は本郷キャンパスだったので、この日も講義の合間に周辺の教会巡りに勤しんだ。東大を中心とする本郷界隈は、ちょっとした「教会銀座」の様相を呈しているが、今回はロシア正教会モスクワ総主教庁駐日ポドヴォリエの聖ニコライ聖堂を訪ねた。「ポドヴォリエ(露語で旅籠屋などの意)」は、ロシア正教会の「日本出張所」である。
駐日ポドヴォリエの沿革を概観すると、アメリカとロシア(旧ソ連)に翻弄された日本正教会の「教会分裂」の悲劇が見えてくる。戦後、日本正教会は「GHQの意向」を汲んで、米国正教会から主教を迎えることになった。この動きに反発した一部のグループはロシア正教会の帰属を望み、ポドヴォリエが“モスクワ派”の拠点となったのである。宣教の正当性やニコライ堂の取戻などを巡って、両派は米ソ冷戦のように争ったが、後の米ロ両正教会の「雪どけ」により、現在は完全に和解している。
東大正門から徒歩20分ほどで駐日ポドヴォリエに到着。玄関周りに生神女のイコンや八端十字架などがなければ、そこがロシア正教会の「出張所」とは気付かないだろう。この古い建物は「旧ロシア民間人クラブ」だったらしい。今は「権力闘争」の嵐も過ぎ去り、静かな時間が流れている。近年、駐日ポドヴォリエは主日の聖体礼儀を目黒の新聖堂(2008年成聖)で行っているため、駒込の聖ニコライ聖堂は平日の奉神礼だけのようだ。私は午後の講義が迫ってきたので、慌てて本郷へ戻った。
駐日ポドヴォリエに近い旧理研23号館。1919年竣工。
(住所:東京都文京本駒込2-28-45)
<付記>
日本正教会の「教会分裂」につき、牛丸康夫神父は次のように指摘されている。「終戦時代の混乱期において、ソ連のロシア正教会の事情も、アメリカのロシア正教会の事情も知ることは困難で、正しい情報もなかったので正しい判断を誰もが下すことはできなかった。ただ敗戦の結果、連合司令部の許可なくしては国外のどのような教会とも交渉関係をもつことはできないということだけは誰もが知っていた」(『日本正教史』より)。その後の和解への経緯は、中村健之介氏の著書『ニコライ』が詳しい。
◆主な参考文献など:
・「日本正教史」 牛丸康夫著(日本ハリストス正教会教団府主教庁・1995年再販)
・「ニコライ」 中村健之介著(ミネルヴァ書房・2013年)
・「ギリシア正教 東方の智」 久松英二著(講談社選書メチエ・2012年)