Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展

2022年12月26日 | 美術
 国立西洋美術館で「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」が開かれている。ベルクグリューン美術館はベルリンのシャルロッテンブルク宮殿の正面側の向かいの建物にある。現在改修工事中なので、所蔵作品の引越し展が実現した。

 展示作品の総数は108点。内訳は、ピカソ46点、クレー34点、マティス16点、ジャコメッティ5点、セザンヌ4点、ブラック3点で、ピカソとクレーが圧倒的な割合を占める。ピカソ好き、クレー好きの人には見逃せない展覧会だ。

 ピカソの作品は初期の青の時代から始まって、第二次世界大戦中までをカバーしている。その中で1点あげるとしたら、「大きな横たわる裸婦」(1942)をあげたい(画像は本展のHPに載っている)。ピカソがナチス・ドイツの占領下のパリで描いた作品だ。伝統的な横たわる裸婦像だが、その裸体はキュビスム的にデフォルメされている。しかも注目すべき点は、右手首がソファーに縛られているように見えること、腹が大きく切断されていること、そして両足首が交叉して、キリストの磔刑図の足首のように見えることだ。それらは何かの暗示だろうか。色調は暗い。当時のピカソの心象風景が反映された作品だろう。

 一方、クレーの作品は油彩転写素描といわれる技法の作品が多いことが特徴だ。油彩転写素描とは、作品となる紙と原画となる素描と、それに加えて、黒色の絵具を一面に塗布した紙とを用意して、作品となる紙と原画の素描を重ね、そのあいだに黒色の紙をはさみ、先のとがった道具で原画の素描をなぞる技法だ。黒色の紙がカーボン紙のような働きをして、素描が作品となる紙に転写される。線に独特のにじみが出るのが特徴だ。

 何点もある油彩転写素描の作品の中で、あえていくつかあげれば、「雄山羊」(1921)と「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」(1921)をあげたい(本展のHPに画像が掲載されていないのが残念だ)。「雄山羊」は山羊の横顔だ。鼻の上に女性が足を組んで乗っている。山羊はトロンとした目で女性を見つめる。口からはよだれが垂れる。なんともだらしのない山羊だ。クレーの煩悩のユーモラスな表現だろうか。

 「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」は、なまめかしいヌード・ダンサーを描いている。哲学的な題名だが、それはヌード・ダンサーを見つめるクレー自身の自戒をこめた言葉か。これもユーモラスな作品だ。

 一方、「子どもの遊び」(1939)はクレー最晩年の作品だ。第二次世界大戦が勃発し(あるいはその直前で)、クレー自身もナチスから弾圧を受け、また体調も悪化する。そんな暗澹たる日々の中で描いた作品だ。無邪気な子どもを描いているが、どこか暗い。
(2022.12.23.国立西洋美術館)

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