Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

MUSIC TOMORROW 2024

2024年05月29日 | 音楽
 N響恒例のMUSIC TOMORROW 2024。今年度の尾高賞受賞作品は湯浅譲二(1929-)の「哀歌(エレジィ)-for my wife, Reiko-」(2023)。コンサートに先立ち授賞式が行われた。94歳の湯浅譲二。体調不良の噂もきく。はたして授賞式に出席できるのかと危ぶんだが、車椅子にのって現れた。数年前までは元気に演奏会にいらしていた。だいぶ弱ったようだ。わたしはそっと敬慕の念を抱いた。

 「哀歌(エレジィ)」は2曲目に演奏されたが、まず「哀歌(エレジィ)」から書き始めると、わたしもこの曲は傑作だと思う。奥様を亡くした悲しみから生まれた曲だ。その慟哭の想いがあふれる。音の密度(物理的な密度ではなく、音に込めた感情の濃さ)が半端ではない。わたしは杉山洋一指揮都響の初演も聴いた。そのときも感動したが、今回のペーター・ルンデル指揮N響の演奏にも感動した。透明な悲しみが湧き上がった。

 今書いたように、今回の指揮はペーター・ルンデルだが、当初の予定はペーテル・エトヴェシュ(1944‐2024)だった。エトヴェシュは体調不良により降板し、今年3月に亡くなった。著名な指揮者・作曲家だったエトヴェシュは、プログラムに自作を2曲組んでいた。ルンデルはそのプログラムを引き継いだ。期せずして今回はエトヴェシュの追悼公演にもなった。

 1曲目はエトヴェシュの「マレーヴィチを読む」(2018)。マレーヴィチ(1879‐1935)はロシア・アヴァンギャルドの画家だ。本作品はマレーヴィチの「シュプレマティズムNo.56」を素材にする(白石美雪氏のプログラムノーツより)。上掲のチラシ(↑)は「シュプレマティズムNo.56」を自由に再構成したものだ。3管編成が基本の大オーケストラに、ツィンバロン、ハモンド・オルガン、エレクトリック・ギター、ベース・ギター各1が加わる。冒頭、ハモンド・オルガン(だったと思う)の音が鳴る。普段オーケストラでは聴きなれない音だ。ハッとする。その後もツィンバロン、エレクトリック・ギターなどの音が炸裂する。

 3曲目はエトヴェシュの「ハープ協奏曲」(2023)。ハープ独奏はグザヴィエ・ドゥ・メストレ。エトヴェシュ最後の作品(のひとつ)だろう。全3楽章からなる。アレグロ・エ・フェリーチェと表示された第1楽章は、ハープのカデンツァから始まる。明るく幸福感に満ちた音楽が続く。これがエトヴェシュの最後の心境かと思うと感慨深い。第3楽章はハープの台座を叩く音も加わり、活気がある。

 4曲目はトリスタン・ミュライユ(1947‐)の「嵐の目」(2022)。フランソワ・フレデリック・ギイのピアノ独奏が入る。スペクトル楽派特有の音の美しさがある。アンコールにドビュッシーの「花火」が演奏された。ドビュッシーの前衛性があらわになる。
(2024.5.28.東京オペラシティ)

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